永田カビさんの『迷走戦士』第3話感想:人は己の“認知”に従うために、自らの人生ですら裏切ることがある。
今月も更新されていました、永田カビさんのWebエッセイマンガ『迷走戦士』。もはや感想書くのが自分の中での恒例になってきたので今月も書いていきます。
そして更新された第三話はこちら
永田カビさんがマッチングアプリーーいわゆる「出会い系」のアプリを入れて、それでどうかったかという話が描かれています。
それだけを聞くと「ああ、じゃあエッセイ漫画でよくある『“出会い系”でめちゃくちゃ変な人と出会っちゃって、いろいろ大変なことがあった~』みたいなエピソードが描いてるのかな?」と思われた方もいるかもしれませんが、
永田カビ先生はさすがというか、そんなわたしたちの予想を見事に裏切ってくださいます。
結果からいうと、カビさんは結局誰とも出会わないままで、そのマッチングアプリを退会しています。
そうなると「よっぽど変なメッセージでもきたの?」と思われるかもしれませんが、そうではなく、
カビさんは来たメッセージを一度も開くこともなく辞めています。
辞めた理由は「反応されることが怖かったから」。
「……ん?どういうこと?」となった方に詳しく説明すると、
まず、カビさんはアプリを始める際に書く自己紹介を書いたのですが、
自己紹介は会ってなるべくがっかりされないよう、マイナスに捉えられそうな事を書いておいた
とあるように、自分のことを赤裸々に、むしろマイナスキャンペーンをするかのごとく自己紹介を書いたそう。
具体的には、
・精神疾患(通院中)
・よく男に間違えられるような見た目
・交際経験なし
などなど。
で、登録したところすぐに「いいね!」と「メッセージ」が来たそうです。
まあ、出会い系アプリだったらそんなにおかしいことでもなさそうですが(上にあげられた特徴も、今の時代そんなに珍しいものでもないし)、
永田カビさんは世間的にマイナスなことを書いたのに、それでも反応があったことにかなり「怖い!!!」と思われたようで
で、カビさんがどういう思考回路になったかというと
↓
「もっと欠陥をアピールしないと……!!!!」
この時点で、さすがのわたしも一瞬「……?? う、うん……」となったのですが、
それを乗り越えて来てくれる人じゃないときっと無理……!!
とあったので、「なるほど、そういうことね」と納得しました。
それで実際に永田カビさんがもっと『自分の欠陥をアピール』した自己紹介を書いたところ、
それでも「いいね!」と「メッセージ」がいくつか来たそう。
すると「欠陥アピールが足りない!!」となり、さらに改悪を重ね、カビさんが書きうるかぎり最悪の自己紹介を書いたそうですが、
それでも来る「いいね!」と「メッセージ」に、カビさんは恐怖を覚え、頭を抱えます。
どうしよう、これ以上自己紹介を改悪できない……
と。
その後もカビさんはとにかく自分を悪く、ひたすら悪く書き、「誰にも反応されないような自己紹介」を書こうと躍起になります。
いつしかわたしのアプリ使用法は、いかに「いいね!」と「メッセージ」が来ないかの追及になっていた
しかしそれでも「いいね!」と「メッセージ」が来ることに
カビさんの恐怖が最大限になり、
ついにカビさんはマッチングアプリを退会することになったのです。
*
ここまで来て、カビさんの思考回路に「……???????」となった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
わたしは少なくともなりました。
以前の『一人結婚式』のときは、まだ目的がはっきりしつつも、それが少しずれているかなーという印象でしたが、
今回は目的自体もよくわからないまま終わってしまった、という感じでした。
それでもこれはどういうことだろうか、と考えた時に、
やっぱり根っこにあるのは、カビさんの“認知の歪み”が原因なのかな、と思いました。
そもそも「“認知の歪み”って何?」ということなのですが、
Wikipedia先生に書かれている定義から抜粋すると、
認知の歪みとは、誇張的で非合理的な思考パターンである。これらは精神病理状態(とりわけ抑うつや不安)を永続化させうるとされている。
(中略)
こういった思考パターンは、その個人に現実を不正確に認識させ、ネガティブな思考や感情を再強化させうるとされている。バーンズは、気分や感情は事実ではなく、逆に「歪んだ考え方がマイナスの気分を生み出す」と述べている。
とあり、“認知の歪み”のなかでもいろいろと種類があるらしいのですが、
今回あてはまるのはこれかな?というものがありました。
【マイナス化思考】
マイナス化思考では、上手くいったら「これはまぐれだ」と思い、上手くいかなかったら「やっぱりそうなんだ」と考える。良い事があったことを無視してしまうばかりか、それを悪い方にすり替えてしまう。
バーンズによれば、認知障害の中でも最もたちが悪いという。
『良いことがあっても悪い方にすり替えてしまう』というのは、まさに今回カビさんが「どんなにマイナスなことを書いても相手から反応があったこと」を喜ぶどころか、
「こんなマイナスなことを書いていて反応があるなんておかしい、怖い」としか思えなかったことに当てはまると思います。
*
ところで、わたしは人間が大好きで、昔っからつくづく「人間っておもしれえな~~~~~」って思っているのですが
なかでも特におもしろいな、と思うのは、
『人間は幼少期に得た己の“認知”を守る為ならば、自分の人生(本性)ですら犠牲にすることがある』
という奇怪な特性があるところです。
その特性に従おうとする人間の執念たるや、すさまじいものがあります。
簡単に言うと、
小さい頃に「自分は不幸になる人間である」と思い込んだ人間は、その後の一生をかけて、絶対に不幸になろうとします。
逆に「自分は幸せになる人間である」と思い込んだ人間は、その後の人生で何があろうと、絶対に幸せになります。
なんとなくわかりますよね?
わかりやすくいうと、たとえば『DVを受けている女性』。恋人に酷い暴力を受け、お金も散々貢がされて、さらに浮気をされていて、それでもその恋人のもとを離れない、という女性が実際にこの世には少なからずいます。
周りの家族や友達は当然、「そんな男とは早く別れろ」といいます。しかし本人は頑なにそういう人間から離れようとしません。その男と付き合い続ければ不幸になることは目に見えているのに、それでも別れようとしない。
しかもそういう女性はたとえその男と別れたとしても、また同じような男に引っかかってしまう可能性が非常に高いです。いわゆるダメ男に引っかかる女性は、まるでそういうセンサーでもついているのか、というほど見事に、しかも一度ではなく何度もダメ男に吸い寄せられていきます。
周りはとにかく不思議に思います。「どうして不幸になることが目に見えてるのに、わざわざ自分から不幸になりにいくの?」と。
DVを受けていたり、ダメ男に何度もひっかかるような女性はいうでしょう。「だって私はあの人を愛しているから」「あの人は私がいないと駄目だから」とか。無償の愛なんだとかほざくことでしょう。
しかし本当はそうではありません。
ただその女性たちは、従っているだけなのです。幼少期に植え付けられた“認知の歪み”に。
幼い頃に「自分は不幸になる人間だ」と思い込まされたから、「不幸になるため」に、そうした男と付き合っているのです。
つまりそういうひとたちは悪い男に掴まったから不幸になるのではなく、「不幸になるため」にわざわざ悪い男に自分から掴まりにいっているということになります。
(勿論、なかには不運で悪い男に掴まる女性もいるでしょう。でもそういうひとはちゃんと途中で気づいてそういう男から離れたり、なおかつ一度で済みます。しかし何度もそういう男に引っかかったり、周りが見てもあきらかにおかしいと思うようなひとに自分から近づいていくようなひとは、そうしたことが原因である可能性が高いです)
そうした“認知の歪み”について、同じくエッセイ漫画家の「まんきつ(元まんしゅうきつこ)」さんがひっじょ~~~~っにわかりやすく漫画に描かれているので、
ぜひ見てみてください。
*
つまりですね、何が言いたいかっていうと、
結局永田カビさんはマッチングアプリで「パートナーを見つけたかった」のではなく、「自分は誰にも選ばれない」「わたしは誰にも愛されない」という“歪んだ認知”を確認したかっただけなのではないか、とわたしは思いました。
勿論、実際は全然そんなことはありませんでした。
相手からもちゃんと反応がありましたし、本当は永田カビさんは「選ばれるし、愛されるべき人間」なのです。
しかしすでに永田カビさんの“認知の歪み”は「自分は誰にも愛されない」というものになっており、
あとはそれにカビさんが合わせにいくだけで、事実がどうであるかなんてどうでもいいことなのです。
今回の表向きの目的は「幸せになるためにパートナーを見つけたい」と言うものでしたが、
潜在的な目的はあくまで「自分が不幸になるための材料を探したい」というものなので、
うまくいくはずがないんですね。
だからカビさんの行動は、『一人結婚式』のときもそうでしたが、
いつもどこかちぐはぐで、突飛で、極端で、自虐的なものになってしまいがちなのかな、と思いました(元々うまくいかないことが前提なので)。
さて、長々と書いてしまいましたが、これらはあくまでわたし個人の考えなので、カビさんからすればまったくの見当違いなのかもしれません。
次回はついにカビさんが自分を分析して、「どうして自分はこんなに人が怖いのか」「どうして自分には他の人と同じように恋愛をしたり結婚をしたりが無理なのか」ということを描いてくださるそう。
カビさんの分析は『レズ風俗レポ』のときからめっちゃすきなので、すごくたのしみです。
あー、また一か月後か~。待ち遠しいな。
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