〔介護を学ぶ3〕怒り、心配、不安の心が揺れ動く
長寿社会を実現した日本において、
介護と関係ない人は、ないと言ってもいいでしょう。
30~50歳代の人が、始めて介護に接するのは、
親同士の介護ではないでしょうか。
ある事例を通して、介護を学びたいと思います。
惣子さん(主人公)のお父さんは、脳梗塞で右半身と口にマヒを残し、
リハビリ生活となりました。
お父さんを献身的に介護をするお母さん。
惣子さんは結婚して別居しており、
時々実家に帰り、様子をうかがっていました。
始めて「介護」に遭遇した惣子さんに去来するのは、「怒りの心」でした。
◆お父さんが悪い
惣子さんの脳裏に、過去の出来事が思い出され、
お父さんを責めてしまいます。
脳梗塞になったのは、元はといえば、日ごろの不摂生でしょ
ビールばっかり飲んで、肉ばっかり食べて
野菜や納豆は食べないし、食べたらすぐに寝るし
休みの日はゴロゴロして、運動はしないし
人間ドックは受けないし、体調悪くても病院にも行かない
病気になって当たり前、自業自得
お父さんのせいでお母さんかわいそう
私たちにも迷惑かかっているし・・・
これは惣子さんに限ったことではないでしょう。
人は苦しみがやってくると「犯人さがし」をしてしまいます。
「介護」という今まで経験のない出来事を突きつけられ、
その重荷のあまり、犯人さがしをして、責めてしまうのです。
介護となったお父さんの様子を見てみましょう。
◆わがままで短気なお父さん
「自分がこんなことになり、みんなに迷惑をかけて、すまんのー」
そんなお父さんではなかったようです。
・リハビリの先生の言うことをきかない
・自由にならない体に腹を立て、箸をぶつける
・足に糖尿病による潰瘍があるが、薬をぬらない
「わがまま」で「短気」、それでいて周りに八つ当たりをするお父さん。
惣子さんには、そうとしか思えなかったのでしょう。
お父さんが、足に薬をぬってくれているお母さんの頭を蹴ったとき、
惣子さんの堪忍袋の緒が切れました。
「なにやってんの
誰が世話していると思ってんだ!
母さんに入れ歯まで洗ってもらっといて
その態度はなんだ 少しは感謝しろ!
施設に入れるぞ」
ぶち切れた惣子さんは、お父さんに罵詈雑言をあびせてしまいました。
◆怒り、心配、不安
「その態度はなんだ! 少しは感謝しろ」
こんな心になるのは、決して惣子さんが優しくないからではありません。
それどころか、お父さんを心配する心の裏側とも言えましょう。
これからお父さんはどうなるんだろうか。
体は良くなるんだろうか。
お母さんへの負担は大丈夫だろうか。
先の見えない不安、両親への心配、そこからくる怒り。
それらの思いが、揺れ動いているのでしょう。
「介護」に一歩足を踏み入れた惣子さん。
このあとどうなったのでしょうか。
参考文献
1)上田惣子:『マンガでわかる介護入門』,大和書房,2021