立春|もう一つの季節に春の足音を聴く
立春。冬の終わりと春の始まりを告げる日。本州では梅の便りが届き始めるこの時期、春夏秋冬の間にそれぞれ、もう一つずつ季節を持つ北海道では、光と影がない交ぜになったような、独特の揺れる季節を迎える。
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早春というには身に染む寒さと、窓明かりの温かさ。せつないような、ほっとするような。真冬でもなく、草木が芽吹くでもなく、雪解けの兆しがあるわけでもない。季節を分ける境界線は見えない。この捉えどころのない季節こそ、北海道の風景をよりおおらかに、豊かに見せているように思う。
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唐突な振る舞いはしないのが春というもの。まずは、予感として。気配として。人目を避けるように。ひそやかに。忍びやかに。ひっそりと。北国で春を感じるのは、ひと月以上先になる。
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そのぶん、待ち焦がれる気持ちは強くなる。待ちわびた季節は、風を翻し、平等に人々の心をノックして歩く。けれど、追いかければ早足で逃げてしまい、手を伸ばそうとすれば、じっと身を潜めてしまう。あるときは先回りして、なかなか正体を見せようとはしない。
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春は想う人に似ているような気がする。だからこそ、いまは深追いはしないでおこう。立春を年の始まりとした先人たちのように、その艶やかな姿の出現を待つ時間を大切にしたい。この揺れる季節が織りなす風景の中に、確かな春の足音を聴いていこう。
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