映画感想文 復讐の十字架 ローマ人の手紙

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オーランド・ブルーム主演。
主人公のマルキーは地元のカトリック強化の解体作業に勤しんでいた。
勤しむというよりは、何かに憑りつかれたかのように熱心に破壊していた。
彼を突き動かすのは怒りと憎悪。
神が憎いのか、否。教会は彼にとって忌むべき記憶の巣窟で、彼自身の過去を粉々にしたいのであった。
やがて、解体作業は終わり、新しい教会が建てられる。
そこには、司祭のジミーが派遣されてくる。
ジミーは幼いマルキーに性的虐待をしていた人物であり、彼の忌むべき記憶の元凶であった。
ジミーは表向きは好人物でマルキーの村中の人々から尊敬されていた。
マルキーは復讐するためにハンマーを手にジミーの前に現れますが、ジミーの姪が現れたので、手を止める。
ジミーは去り、マルキーはハンマーを投げ捨てる。
マルキーは帰宅して母親にジミーの悪行を話すが、母親はジミーを信じているので取り合おうとしないばかり、精神的に不安定になってトラブルを起こしているマルキーを責め立てるのであった。
マルキーはパウロという男に呼び出される。
パウロは古い教会のキリスト像を引き取った伝道師だった。
パウロはマルキーの復讐心を知り、自分も父親から性的虐待を受けていたことを告白。
その父親を殺害し、刑務所に7年間服役していたことを話す。
その上でマルキーの心を救おうとする。
マルキーはハサミで自らの手を突き刺し、病院へ運ばれる。
パウロはマルキーを救うために教会で話し合う。
「神に見捨てられたと?」
「見捨てたのは君のほうだ」
と諭すパウロ。
「何をしているときが楽しいんだ? 父親に虐待されている時か? 父親を殺した時か?」
と聞き返すマルキーにパウロはカッとして掴みかかってしまう。
2人は激しい殴り合いとなり、馬乗りになって拳を振り上げたパウロは、己の過ちに気付いて飛び出してしまう。
マルキーは帰宅すると母親が椅子に座り、静かに亡くなっていた。
傍らには聖書がおいてあり、ローマ人への手紙の箇所が開かれていた。
マルキーは再びパウロの元へ訪れる。
パウロは刑務所の中で老司祭に救われたこと、自分の思いをテープレコーダーに話すように言われたことをマルキーに教える。
誰にも言えないことは誰にも言う必要はないのだ。
テープレコーダーに自分の思いを吹き込んだマルキーは教会へ向かい懺悔室に入る。
ジミーが聞いているのを承知の上だ。
マルキーは復讐するのか赦すのか。


感想
神は奇跡で人を救うのか? というのキリスト教を題材にした作品の中でしばしばみられる。
この映画は聖職者の性的虐待という現実でも起きている問題にも斬り込んだところは凄い。
「これだからキリスト教は」
という、すぐ言う人はいるが別にキリスト教に限った話ではなく、世界中の宗教の聖職者がこういった問題を起こしている。
神の教えを受けていない人間も同じなので何かを信じているからという問題ではない。
罪は、その人の罪。キリスト教を扱った作品では、こういう部分が明確に浮彫になると思う。
ジミーという人間は表向きは、まったくの善人で周りの信頼は厚い。
マルキーは真面目で友人の罪を被って刑務所に入るくらいの男だが、虐待の後遺症で不安定で信用されていない。
母親も恋人もマルキーの下から去ってしまう。
なんたる理不尽さ。
そのマルキーを救うために現れたパウロは、また不完全でマルキーの望む完璧な救いは得られない。
この完璧ではないからこそリアルであり、また救いなのだと思う。
聖人君子ではなく、いかりに任せて殴りつけてしまう生々しさ。
人は弱いのだ。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%81%AE%E4%BF%A1%E5%BE%92%E3%81%B8%E3%81%AE%E6%89%8B%E7%B4%99

物語の鍵となるローマ人への手紙。
この中に出てくるのはパウロ。今作の伝道師パウロと同じである。
あらすじをかきだしたけど、省いた部分も多いので、是非本編で観て欲しい映画。
ラストは圧巻なので。


以下 ネタバレ注意



マルキーはジミーに自分の思いを話すと教会を出ていく。
残されたジミーは、茫然自失でよろめきながら教会を出ると司祭の服を脱ぎ捨てる。
全身にオイルをかけると、そのまま自らの身体に火をかける。
燃え上がり天を仰ぐ姿は、炎の十字架のようだ。
ただならぬ気配に庭で遊んでいた姪が、その炎を目撃する。
それが何か、その意味もわからぬまま。
キリスト教において、自殺は罪なのでジミーは「天国に行かない」という選択をしたのだ。
神は罪を許すが、ジミーは自分の罪を「許してはいけない」と断じたのだ。
ジミーを許したマルキーの復讐は結果的に成功したことになる。
死んで許された訳ではなく、神を信じているからこそ永遠に苦しむ罰を与えたことになるのだ。


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