ホテル ソンジョソコラノ
夜中の0時を過ぎると灯りのともる建物が京大の敷地内にある。
ここはハムちゃん先生が気まぐれで経営するホテル ソンジョソコラノだ。
いつも研究をしている附属図書館のすぐ裏側にあって、普段、人間が使うことは滅多にない。
もちろんこの施設も人間の研究のために開いた。
一般的なホテルと異なる点は、宿泊料金を支払う必要のないこと。
宿泊した客は、引き換えに自分のみた夢を提供することになっている。
ハムちゃん先生は、人間が眠る間にどんな夢を見ているのか知りたくなった。そこで夢を録画して映像として記録のできるシステムを開発したのだ。
録画方法は非常に簡単。
ハムちゃん先生お手製の天蓋付きベッドに寝てもらう。
どんなに重症の不眠症の人であっても
このベッドに横たわればすぐに深い眠りに誘われるらしい。
この上なくしあわせな夢をみても、何年も忘れることのできないトラウマ級の悪夢をみても、朝起きた時には覚えていない。
朝起きれば、客はみなこう言う。
「こんなにぐっすり眠れたのは何年ぶりだろうか!」と。そして心もからだもとびきりの快晴状態でチェックアウトをしていく。
あまり夢みないんだよね。という人も
覚えていないだけで
実はいろんな夢をみているのだ。
夢は人の記憶と願望のブリコラージュのようなもので、奇妙なものばかりである。
映画化したら大ヒット間違いなしのストーリーを見るお客さまも結構な割合でいらっしゃる。
こういう時のために、お客様の夢の録画はもちろん丁寧に保存されている。
実はこれをお目当てにやって来る他の客がいるのだ。
今日もひとりのしがない漫画家がこっそりやってきた。
「ハムちゃん先生、面白い作品入荷してませんか。」
「なんてタイミングの良いかたなんでしょう。
ちょうど昨日入荷しましたよ。」
ハムちゃん先生はニヤリと笑い、嬉しそうに手前の方から1230番目のお客様の夢を取り出してきた。
しがない漫画家は深々と頭を下げ御礼をし、その夢を大切に抱えて深夜の百万遍の交差点を渡っていった。