第4話 タカシの玉子サンド
とある良い天気の日曜日。
「あのさ、アカリ、なんか食べたいもの、ある?」
「う~ん、あんまりないかなぁ。でも、玉子のなにかなら、食べられるかなぁ」
「そっか、アカリは玉子、好きだもんね~。じゃあ、カルボナーラは?」
「うん、食べたいけど、今は食べられないかも」
「玉子チャーハン!」
「重いかなぁ」
「玉子雑炊!!」
「あ、それなら、でも、なぁ。ご飯は白いご飯で食べたい、かなぁ」
「そうかぁ、パスタ、ご飯もの、あとは、パンか」
「あ、玉子サンド!柔らかくってふわふわの食パンに柔らかくってふわふわの玉子サラダ挟んで、パンにはマーガリンも塗ってあって、それにあっためた牛乳にちょっとだけコーヒーと砂糖入れて一緒に食べるの。おいしそ!」
「よし分かった!買い物行って焼きたての食パン買って、レシピ調べて作ってみるぜ!待ってろアカリ!」
「うん、タカシ、ありがと」
玉子サンドは意外と手が掛かる。玉子を茹でて冷まして剥いて、玉子サラダを美味しく作るのも難しいわ。でもタカシがあんなに一生懸命。
頑張って食べなくっちゃ、私も。
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「できた!玉子サンド!コーヒー牛乳も作ったよ?ほら、アカリ、たべよ?」
「わ!美味しそう!!」
「へへ~、切り分けるときちょっと難しかったけど、玉子サラダがちょっとはみだしちゃったけど、いいよね」
「うん、あ、おいし~、パンがやわらか~い。あ、ちょっとだけマスタードも入ってるの?うん、食欲が出る。それに、この玉子サラダ・・」
「へへ~、美味しいでしょ?これね、オレが作ったの」
「え?タカシが作ったのは分かるよ?買って来たんじゃないし」
「うん、オレが考案した、オレレシピなのさ!!」
「ぷっ!なにそれ、オレレシピって、舌噛みそう」
「いやいや、オレが考えたんだからオレレシピでいいの!」
「ふぅ~ん、でもこれ、とっても美味しい。ふわふわのとろとろだけど、水っぽくなくって、玉子の味がしっかりしてる。なんでかなぁ」
「ふふふ、それはね、ゆで卵の作り方にコツがあるのだよ」
「え?ゆで卵はゆで卵でしょ?玉子をゆでるだけじゃないの?」
「ああ、もちろんゆでる。でもさ、これ作るの、すっごく早くなかった?」
「あ、そうだね!台所に見に行ければよかったけど、えっと、20分くらい?」
「いやいや、15分くらい。玉子をゆでるとこからだから、すっごく早いでしょ?」
「ほんとだぁ、固ゆで玉子を作るだけでも10分掛かるし、ゆで玉子って殻を剥くのに時間が掛かるのよね、これ、玉子4個分?すっごく早いね。どうやったの?」
「それはねぇ・・・」
タカシはゆで玉子の”オレレシピ”を教えてくれた。
それは、フライパンにお湯を浅く張って沸騰させて、そこに玉子を割り入れて、平たいポーチドエッグにする。というやり方だった。浅いお湯はあっという間に沸くし、玉子を入れて弱火にして蓋をすると、後は黄身のゆで加減を見ながら固ゆでくらいにすればいいんだって。
なるほど、確かにそれなら殻を剥かなくっていい。それに、白身の水っぽい部分が散るから、茹で上がった玉子をバットに取って水気を拭いて、それを潰して味付けすれば濃い玉子サラダが作れるって。
すごいわ。ふつうのゆで卵でもちょっと水っぽくなることがあるけど、このレシピなら味の濃い玉子サラダになるはず。
後は茹でてる間に準備した食パンに挟んで切り分けるだけ、か。
切り口がゆがんでるのは、まあ許しましょう。
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「タカシ、ありがと、美味しかった~。カフェオレ?みたいなのもほんのりと甘くって、玉子サンドに良く合うね!こんなに食べたの、久しぶりかもしれない」
「うんうん、感謝したまえアカリくん、この優しいタカシくんに、跪くのだ」
「もう!調子乗らないの!!それにこのレシピ、ホントにタカシが考えたの?」
「あ、う~んっと、クックパッド、様に、お願い」
「もう!やっぱり?」
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ああ、ホントに久しぶり、美味しかった。一生懸命私に食べさせようって、色々してくれるタカシに感謝だわ。
私も頑張らなくっちゃ。
ああ、なんか思い出しちゃう。
高校生の頃、タカシと食べた焼きそばパン。
子供の頃、ふたりだけでおっきなラーメン食べたり、お好み焼きを焼いてあげたこともあったわ。
それに、カルボナーラ食べながらプロポーズ。
またあんな風に、食べられるかしら。
私と、タカシと。
そして、子供たちと。
ママは、頑張らなくちゃ。
つづく