「考える続ける力」
藤井聡太5冠の活躍が続く。挑戦者として臨む棋王戦では渡辺明さんに連勝して6冠に王手をかけた。
現在のところ、“レジェンド”羽生善治さんとの王将戦は2勝2敗ときっ抗しているほか、名人への挑戦権をかけたA級順位戦は相星でいよいよ来月が最終決戦。目が離せない。
かつての第一人者谷川浩司さんによる「藤井聡太はどこまで強くなるのか」を読んだ。谷川さんによる“藤井聡太本”は「藤井聡太論」に続く2作目。本作も楽しく読了した。
やっぱりかつての王者の風格は著作にも現れるもので、谷川氏が史上最年少で名人位に就いた際に言った「実力よりも地位が先行していますので、タイトルは一年、預からせていただきます」は、つくづく名言である。
本書は、過去の「名人戦」エピソードなども面白い。しかし、白眉であろう第七章「最前線の攻防」は、一介の「観る将」である私には「はあ、そうですか」という以上の感想も持ちにくいほどハイブロウな内容だった。
谷川さんによると、「藤井さんは、結論が出ない序盤の局面でも1時間考えられる。実際に指した手は他の棋士にもわかるが、指さなかった手は藤井さんの頭の中だけに残る。その蓄積が大きい」という。
そういえば藤井さんについてはこんなエピソードがあった。
デビュー直後の藤井さんについて先崎学さんが羽生さんとの雑談で話題になった。「あれは強いんだ。我々の若いころとは全然違うんだなあ」「うん、まったく違う。完成されているもん」「そういえばわしらは本当にいい加減にポンポン指していたもんなあ」と笑いあったことがあるという(「22時の少年」Number 1010号)。
「将棋の才能」とは、あれだけ長時間にわたって将棋のことを考え続けることができる力だろう。これは藤井さんに限らないが。
対局の時間だけではない。最近の棋士はAIなども駆使しながら常に最新の戦法を研究し続けなければならないらしい。単純に「好き」だけではダメ。「ずーっと考え続けること」が求められるのだ。単なる「集中力」ともちょっと違うような気もするが、いずれにしても凡人には想像すらできない境地である。
(23/2/20)
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