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一次創作小説倉庫(灰音ハル)

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小説置場です。140字関連、掌編、短編、長編とジャンルばらばら。お好きにお読みください。
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2021年3月の記事一覧

【短編】じゃあな、ババア

【短編】じゃあな、ババア

 僕はずっと、夏の日の電車の中にいる。

 耳の奥が痒くなって、耳たぶを引っ張った。じわじわと染みるような感覚は、覚えがある。きっと、耳垂れが起きている。夜中、汗ばむ身体が気持ち悪くて起きてしまった。耳の奥が痒い。だけど、間が悪いことに、宅配便の箱を開けようとして、耳かきを折ってしまったばかりだった。人差し指では届かなくて、小指まで使った。だけど、それでも足りなくて、何の用途で使ったか覚えてもいな

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【短編】まぶしさにやかれるまでに

【短編】まぶしさにやかれるまでに

 苦しんで死んで欲しいと願っていた人が死んだ。そんな便りが届いた。どうやら、苦しんで死んだらしい。本当のところはわからない。ただ、僕が怨んでいた人が死んだという手紙だった。そのとき、僕はこれまでずっと願っていた結末なのに、諸手をあげて喜べなかった。人の死に喜ぶ自身が浅ましいと思ったからじゃない。ただ、本当に呆気なかったからだ。
 こんなにも呆気なく、人は死ぬ。目の前で死んで欲しいと思ったわけじゃな

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【短編】あのほし

【短編】あのほし

 僕が死んだら、骨は海に投げてくれよ。
 そう言って、君は僕の前から消えた。まるで、煙のように。出会ったことが嘘だったみたいに、全てが消えてしまったんだ。それでも良いか、と言うにはまだ時間が浅すぎる。僕は未だ、君の浅瀬に浸っている。

 学校に行く途中、赤いポストがある。いつだって見てる。同じ道を歩いているからだ。寒い。とても、寒い。吐く息が白くなって、ああ、冬になったんだと思う。マフラーに埋めた

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