【広告本読書録:090】福岡コピーライターズクラブ年鑑2020
FCC年鑑2020編集委員 編 福岡コピーライターズクラブ 発行
広告業界には賞があります。有名なところでいうとTCC賞、ADC賞、ACC賞、朝日広告賞、広告電通賞、宣伝会議賞…などなど。海外に目を向けるとカンヌライオンズがそれにあたりますね。
なぜこんなに広告業界には多くの種類の賞があるのか、についてはいったん横において。ぼくは駆け出しの頃から広告賞が獲りたくて獲りたくて仕方がありませんでした。
なぜ?答えはカンタン。
賞を獲れば有名になって、メジャーな仕事ができるようになるから。
広告表現は数値化できません。だから「良い広告かどうか」の判断基準なんて本当はないに等しいんです。それなら賞を獲っておけばステイタスとなり、ひとつの目安にもなるだろう。そんなふうに考えていたんです。
せんだって引っ越しの際に、コピーライターになって1年目の冬に書いていた、こんな文章を発見しました。
長い道のりでした。ようやくここまでたどり着くことができました。途中、なんども辞めよう、と挫折しかけましたが、周囲の支えもあり続けてこれた。つまりこの賞はボス、上司、先輩、同僚そして人生初のコピーの師匠、竹内基臣さんの力で獲れたものです。と、いうわけで、みなさまありがとうございました!これからが本番です。
これは新人賞を受賞したとき用のコメント。こんなものをこしらえてはひとり悦に入ってました。いったい何歳で賞を獲るつもりだったんでしょう。っていうかこんなもの書いてるヒマがあったらコピーの特訓せえよ。若いってバカで青臭くて、恥ずかしいですね。
それだけに毎年出版されるコピー年鑑(現TCC年鑑)の新人賞の受賞者を眺めては「え?こんなコピーで新人賞?」とか「俺より3つ上なだけじゃん」とか「リクルートはどうせ政治力でねじ込んでるだろ」とか、よくわからない妬み嫉みの連発。完全にこじらせていました。
そんなぼくですから一般人でもエントリー権のある朝日広告賞や宣伝会議賞には毎年欠かさず応募していた…かというと、全くやってませんでした。自らはなんのアクションもせずに、己の境遇のせいにばかりしていたんです。
曰く、求人広告だからエントリーしてもひっかからない。曰く、ロビー活動が盛んな会社しか入賞しない。曰く、広告村の内輪で褒めあってるだけで賞なんか意味ない。曰く、だいたい本質的じゃない。曰く、忙しいし気心の知れたデザイナーがいない。曰く…
でもほんとうは
箸にも棒にもかからなかったら恥ずかしいし、自分の無能と向き合わなきゃいけない。それで傷つくのがいや。
これが本音でした。広告賞、喉から手がでるほどほしいくせに。興味ないフリすることで、あるいは賞の価値を認めないことで、自分のちゃちなプライドを保っていたんです。
ダサいすね。ダサすぎます。
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さてそんな情けないぼくなんですが、お弟子さんにはたいそう恵まれています。たとえば以前、この読書録でも紹介しましたが、果敢にも朝日広告賞チャレンジして見事入賞したりえちゃん。
文章内では関係性の説明がややこしくなるとおもってりえちゃんだけにフューチャーしていますが、朝日広告賞はりえちゃんのほかにイケポンとクロちゃんという3人で獲った賞です。3人共すばらしいです。
受賞パーティであの佐々木宏さんから直接「おもしろい広告だと思ったよ。実現するの難しいとおもったけど」って声をかけてもらえた、と聞いたときは心の底からうれしかったです。
そして今回ご紹介する福岡コピーライターズクラブ(FCC)のアワードにエントリーして、ファイナリストに選出されたお弟子さんもいます。
ぜひみなさんもこの年鑑を手にして、124ページに掲載されている『モニカ』という保育園の会社のポスターをご覧ください。なみいる電通博報堂読広PARTYといった名門に所属するクリエイターたちと肩を並べてファイナリストに残ったえりちゃんの作品です。
朝日広告賞入賞がりえちゃんで、FCCファイナリストがえりちゃん。
どうやら「え」と「り」が名前にある女子は賞に縁があるようです。ポンコツ師匠から鷹が生まれたとはこのことですね。
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えりちゃんはぼくの前職の会社で活躍中のコピーライターです。ぼくが前職を辞めた後は求人広告塾の講師と生徒という間柄で、通算2年半ほど企画の立て方やコピーのなんやかやについてお伝えしていました。
現場でも講義でもぼくがヤングにお伝えすることは、すべてぼく自身が先輩や上司、ボス、あるいは練達の広告人たちから学んだことばかり。ですからぼくは連綿と続く円環をつないでいるだけに過ぎません。
でも、その取組みがこういった形で広告賞を獲ったりノミネートされたりするのは本当にうれしい。先をいく方たちへの恩返しにもなるともおもうんです。たとえ先達たちがそのことを知る術を持っていないとしても。
しかもベースが求人広告だと、なかなか一般の広告賞にチャレンジするのに気がひける(俺のことです)。にも関わらず果敢にチャレンジし続けているえりちゃんはじめお弟子さんたちの数々。その姿勢にはリスペクトしかありません。
福岡コピーライターズクラブとは
さてここからはこの年鑑についての感想です。その前に福岡コピーライターズクラブ(FCC)についていくつかの情報を。
文字通り、福岡を地盤に活躍するコピーライターたちの組織。結成は1959年と、TCCの前身「コピー十日会」誕生の翌年にあたります。伝統あるんですね。
毎年特別審査員として名うてのクリエイターを招聘していますね。81年には糸井さんと仲畑さん、最近も福里真一さん、尾形真理子さんなどが顔を並べています。豪華!
さらに特徴的なのが会の位置づけ。応募要項にも書いてあるのですが「FCCは研鑽と親睦を目的とした団体です」とし、会員・非会員問わずその意志のある人すべてに門戸を開いています。これはエントリーしやすい。
実際に懐の深い賞みたいで、媒体や広告ジャンルなどの縛りもなさそう。求人広告もあります。タクシー会社『日交練馬』のドライバー募集ポスターが見事入賞していました。
そういえば昔(30年ぐらい前?)はTCC新人賞でも求人広告がチラホラ見られたんですけどね。ほとんど(というかなぜか全部)リクルートメディアコミュニケーションズのライターでしたけど。最近どうなってるのかな?
TCC年鑑対FCC年鑑
「対」なんて見出しで書きはしましたが、別に敵対関係にあるわけじゃないですよ。この年鑑にもTCCは協賛広告出してますしね。
ここで言いたいのは一読者として読み比べた感想です。といってもぼくがTCC年鑑を穴があくほど見ていたのはせいぜい1992年まで。なのでちょっと焦点ボケてるかもしれませんがご了承ください。
まずはTCC。とにかくTCCといえば規模と金額とステータスの高さがハンパない。それゆえエントリーのハードルも高そう。会費も高そう。それがTCC。ま、その代わりTCCで常連になれればそれなりの看板として威力を発揮するでしょう。
ちょっと話がそれますが、昔、前職がまだ小さい会社だったときリクルート出身でコンサルやっている人が売り込んできて経営幹部何人かが3ヶ月ぐらいの研修を受けたことがあったんですね(ぼくは経営幹部ではありませんがなぜか参加)。
その人の売りが「TCC新人賞受賞」だったんです。他の経営幹部はTCCなんて知らないからなんのこっちゃ、だったのですが、ぼくは敏感に反応。ほほーう、すごいんだこの人って思っちゃいました。それぐらい看板としての威力は抜群なんですよね。
ちなみにその研修はまるでワークしなくてコンサルはあっという間に契約を切られてしまいました。南無~。
一方でFCC。今回ぼくにとってはじめて手にする地方のコピーライターズクラブの年鑑ですが、薄い。物理的に薄い。TCC年鑑が電話帳か全盛期のイミダスかってぐらい分厚いのに対して150ページ程度です。
でも逆に中身は厚い。いや熱いです。なんでしょうか、単純に掲載カテゴリも賞の座組もシンプルで読みやすいからでしょうか。より広告表現と正面から向き合えるといいますか、作り手と読み手の距離が近いように感じられるんですね。
その分、TCCのようなステイタス感はないのですが、親しみやすさは抜群。中身で勝負!ってかんじです。ひとつひとつの受賞作品をじっくり眺めて、おもしろいなあ、いいなあ、と。クリエイターの温度感がひしひしと伝わってくるのが特徴です。
完成度より挑戦度
FCC年鑑2020はこんなステートメントではじまります。
完成度より挑戦度
FCCは、日本でいちばん新しい表現への挑戦を讃え、後押しする広告賞でありたい。粗削りでいい。安っぽくていい。どこかで見た表現を上手に再現できた作品より、いままでの表現の壁をぶっ壊して、あたらしい心の動かし方を発見した作品を評価したい。「こんなことができるんだ」「ここまでやってよかったんだ」と、私たち制作者の意識を広げ、勇気づけ、誰かがまた次の新しい表現を発見していく。FCC賞はそんな、ポジティブなサイクルが生み出されていく表現の実験場にしていきたいと思います。
これは福岡コピーライターズクラブ代表の古屋彰一さんによる宣言文。この文章自体が粗削りであり、さわやかな熱量を感じる挑戦度の高いステートメントだとおもいます。
その後に続く数々の受賞作品を見ると、確かに宣言通りだと頷けますね。広く門戸を開いているだけに、東京でも見たことがある広告もいくつか目にすることができるのですが、しかし圧倒的におもしろいのは地場の広告。
個人的には最高賞に輝いた阪九フェリー株式会社『車ごとのせちゃえ!』で笑い、左俊幸賞のJA宮崎経済連『最高のサンタクロース』でほろっときて、永野弥生賞の株式会社グッディ『10連休がこわいシリーズ』にムムッと嫉妬してしまいました。
いやほんと、地方、ぜんぜんあなどってはいけないですね。昔ぼくが上京したときは地方広告は紙芝居みたいなTVCFばかりで「名古屋なんかにおったら一生広告なんかつくれん!」とおもったものですが、福岡がこの調子ならきっと名古屋も結構いい線いってんじゃないかな。
それどころかWeb動画のカテゴリにいたってはもう中央か地方かなんて線引き自体がナンセンス。Webは軽々と県境を超えるわけです。表現の場、アクセス、クリエイティブ、そのすべてを平等にしてしまいます。
そうなるとますます今後、地方のコピーライターズクラブの活動は盛んになるとおもうし、盛んになってほしいとおもいます。
おもしろいぜ、FCC年鑑2020。来年も再来年も買おう!そして他地域のコピーライターズクラブの年鑑も買ってみよう!新年そうそうに誓ったのでありました。
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最後になりましたが今回ファイナリストに残ったえりちゃんはこちら。次回はFCC賞とかCCN賞とかHCC賞にもチャレンジしてほしい期待のクリエイターです。ちなみに撮影は緊急事態宣言発令前の2020年12月に行なわれたささやかなファイナリスト祝いの席でございます。感染対策は万全です。
今回ファイナリストに残った保育園『モニカ』のポスター、そのコピーをいくつか紹介しますね。主にリクルーティング目的のアプローチです。
私を「せんせー」にしてくれたのは、資格よりも、子どもたちでした。
絵が下手な自分も、好きになった。
「先生より上手だね」と言ったら、子どもたちが喜んでくれたから。
雨の日には、カエルの歌を。寒い日には、雪だるまの歌を。
みんなで歌えば、どんな日も晴れる。
とても素直な、のびのびとしたいいコピーです。丹念な取材から引き出した言葉たちには嘘がなく、人を惹きつける力がありますね。
ほかにもシズル感あふれるコピーがたくさん載っている『モニカ』の採用ページもぜひ、見に行ってみてください。
ついでに紹介しておきますがえりちゃんの直系のお師匠さんは下の画像右手前のシライくん。さらについでに左のトックリ着てるのはぼくですね。ちなみにこちらもささやかなファイナリスト祝いの席です。席と言っても角打ちですが、感染対策は万全です。
偉そうにえりちゃんのコピーを文学的哲学的広告学的マーケティング学的な観点でいろいろ評論するおじさんたちでした。おじさんたちももっとがんばらないとネ。がんばります。