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【広告本読書録:100】100回記念!広告本ベストテン

みなさんこんにちは。2019年の8月にスタートした『広告本読書録』ですが、今回ついに100回目を迎えることができました。

これもひとえに「スキ」を押してくださるみなさんのおかげです。だいたいいつも10から多くて20ぐらいなんですが、とても大きな励みになっております。ありがとうございます。

今回は一応の節目ということで、2年半にわたる連載の中から個人的に推したい10冊をピックアップして振り返りたいと思います。

ちなみにこの『広告本読書録』はアフィでもなんでもなく、100%わたしが個人的に自腹で購入して読んできたもの。広告要素、スポンサー要素など一切ございません。

さらにいえば家の書棚に並ぶ古典からはじめたのですが、さすがに在庫に限界をきたし、途中からは近代といいますか新刊などもせっせと買っては読み、そして書いてという繰り返しで連載をキープしてきました。

そのあまりの新旧混合ぶりがベスト10を決める際に頭を悩ませます。いまいい本と、昔よかった本とでは、なんとなくコントラストが違うんですよね。

そこで【近代編】と【古代編】にわけてそれぞれ5冊ずつ選出。トータルで10冊になるよう編集いたしました。ではお時間の許す限りお付き合いくださいまし。

広告本ベスト5!【近代編】

近代というと仰々しいですが、要は近年出版された比較的あたらし目の広告本のことです。冒頭でも書きましたがはじめのうちはぼくの家の本棚から選んで紹介していたのですが、当たり前ですが回を重ねるごとにネタ切れに。

そこでしばらく購入を控えていたリアルタイム広告本にも目を向けるようになりました。といっても最新刊ばかりではなく。初版が5年〜10年ぐらい前のものも混ざっております。

その中にはそれまで知っていたようで知らなかった新しい発見があったり、デジタル広告の隆盛をいやがおうにも感じずにはいられない記述が見られたりと、知識のブラッシュアップに非常に有益なものが多くありました。

ではさっそくいってみましょう!

第5位:『コピーライターほぼ全史』

ぼくはどんなジャンルでも「人」にフォーカスして興味を持つタイプです。たとえば音楽に関しても「いいなこの曲」とおもった瞬間、その演奏者やコンポーザーは誰なのか、どんな人なのか、どういうキャリアでここまできたのか、ということを知りたくなる。

だからでしょうか、経営者でも芸術家でも、無名であっても大きな仕事に関わった人なら話を聞きたいし、書物になってれば読みたいんですね。

それがいまの「広告をつくらないコピーライター」というぼくの仕事にものすごくフィットしているのは言うまでもないんですけど。

で、この『コピーライターほぼ全史』はまさに広告業界を牽引してきたコピーライターたちの「人物そのもの」にスポットライトをあて、その作品と功績を紹介する一冊です。

個人的には広告作法の本を何百冊も読むよりも、こういった本から人物像を立ち上げて、自分にとってのロールモデルをつくったほうがコピーは上手くなるんではないか、とおもっています。多少、遠回りかもしれないけど、確実に力をつけることができるんじゃないでしょうか。

第4位:『面白いって何なんすか問題』

面白かった。単純に面白い本でした。50過ぎのコピーライターが苦悩を重ねて「面白い」を要素分解し、なんとか自分で再現できるようになろうともがき苦しむエピソードがなんとも身につまされる一冊です。

特にコピー学校の生徒に東急ハンズのコピーを課題として与えつつ、そのコピーライティングのプロセスを通して「どうしたら面白くなるか」を再現した章については臨場感たっぷり。同時に「なるほどそうやるのか」が非常にわかりやすく描かれています。

ぼく自身、これを読んでからセルフコピーチェックの感覚が少し変わったような気がしています。なにがどう、と具体的にお伝えできないのがもどかしいんですが、チェックの方向性に芯が生まれたというか…これはないな、というフィルターがくっきりした感じになりました。

もしどこかでぼくの書いたものがなにかの賞を獲ったりしたのであれば、まちがいなく筆者の井村さんのおかげでしょう(笑)。

第3位:『毎日読みたい365日の広告コピー』

これはぼくの中でも「考え方の変化」が起こった本ですね。そもそもぼくは広告コピーはあくまで商品やサービスを世に知らせるためのもので、しかるべき媒体にしかるべきレイアウトを施されてはじめて完成形、という考えに固執するタイプでした。

それでいくと、この本って邪道?存在自体が理解し難い企画だな、とおもっていたんです。だけど、実際に手にして読んでいくと、少しずつ考えが変わっていった。一年365日、一日に一本のコピーがある。別にそれは何かを売るわけでも、知らせようとするわけでもないんだけど、なんとなく関連性があったり、薄いながらも何らかの理由があってそこに配されている。

それは編集者たちの工夫だったりするんだけど、その工夫している編集者たちの姿を想像したとき、あ、コピーってこうやって再利用されたっていいじゃん!とおもったんですね。

新聞にしても雑誌にしても、ロングランキャンペーンをくくるタグラインでもなければ(そうだ、京都行こう。みたいな)掲載日のみ、掲載誌のみの命のはずのキャッチコピーが、あらためて違う場所で、デザイナーが施してくれたお化粧もおとしたすっぴんの形であらためて使われる。

それってなんかいいよね!っておもって読書録を書いたら、なんとnote主催の読書感想文コンテストで出版社賞(ライツ社賞)をいただけました。あれはうれしかったですね。ありがとうございました。

第2位:『心をつかむ超言葉術』

かつてこんなに著者の人柄が伝わってくる広告本があっただろうか…というのが素直な読後感の一冊です。阿部さんは、やさしい。阿部さんは、あったかい。阿部さんは、でっかい。そんなことが、ここに書かれている技術論やエピソードを通してひしひしと届きます。

正直、この本を手にするまで阿部広太郎さんのことは存じ上げていなかった不勉強なぼくですが、こんな人柄のいい人が広告をつくっているのなら、なんだ広告の未来は明るいじゃないかとおもいます。

もちろん、言葉の正体を暴く章やレシーバーとしての感性を磨くこと、ネーミングの真髄、SNSでの発信など、著されている内容は令和仕様で最新の文章術。そのひとつひとつが「いま」という時代を呼吸しながらサバイブする若手クリエイターにはかけがえのない指針となって受け止められるはず。

そうかとおもうと「企画書はラブレターだ」というような、ぼくが敬愛する故岩崎俊一さんが提唱していたものと寸分違わないレガシーなテーマもあって、とにかく読み飽きない一冊に仕上がっているとおもいます。

第1位:『ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』

これはもう文句なしの一位です。おそらく今年一年を通してのベストワンになる可能性大ですね。何回読んだことか。読んだだけでなく直接話を聞きたくて、青山ブックセンターで開催されたトークイベントにまで足を運んでしまいました。そこで聞いた話がまた刺激的で…。

広告クリエイティブを「いい」と判断する、感動するメカニズムは言語化できない。それは脳の大脳辺縁系で決まることだから。大脳辺縁系は感情、信頼、忠誠心を司り、行動とすべての意思決定を行なうが、言語を持たない。逆に大脳新皮質は合理的な思考や言語を司るゆえに大量の複雑な情報を処理できるが行動にはつながらない。

これがクリエイターとビジネスパーソンの間に流れている大河の正体、と書いてあるのを読んで、ぼくはおもわず持っていた本を落としかけたぐらい衝撃を受けました。

これか…これだったのか…俺が前職で非制作職、あるいは制作職にも関わらずクリエイティブじゃないヤツらに伝えたかったことは。ここが解明できなかったことで、いろんな失敗を重ねてきたぼくは、本当に落ち込みました。

そして同時に、自分の仕事のフィールドである求人広告にも、求人「広告」と求人「情報」があること。そして後者は一般広告の世界でいうところの販促であることもわかった。

つまり求人広告は、広告であるからして、ブランドを好きになってもらうための機能をもつべきなんだと。

わかった!わかった!と映画『ガチ星』のワンシーンさながらに踊りながら池袋の街を走ったものでした(ジュンク堂池袋店で買ったからね)。

『ガチ星』といえばCMなども手掛ける映像ディレクター、江口カンさんの初メガホン作品です。カタルシスのない、すごくいい映画でした。故岡康道さんも素敵な映画評を寄せています。こちらをぜひ。

広告本ベスト5!【古代編】

続いて古代編では広告本オタクといっても差し支えないぼくの本棚からひっぱりだしてきた古典ばかりを集めてランキング!

広告とは時代を写す鏡といわれるだけあって、さすがに時の洗礼を受けた本からはややレガシーな香りが漂いますが、なんのなんの、中にはいまだに通用する技法や思考法もあったりして。

古い本からはいまに通じる本質を読み解けるという利点もございます。ではいってみましょう!

第5位:『コピーライターの世界』

まるで近代編の『ほぼコピーライター全史』と呼応するかのごとく、第一線で活躍するコピーライターその人にスポットを当てたインタビュー集がランクイン。しかもこの本のおもしろいところはインタビュアーがかの糸井重里さんなんです。

第一版発行が昭和56年。イトイさん、まだまだウルトラ現役コピーライターであります。登場するのも秋山晶さんや仲畑貴志さんといったいまだに第一線を走っているコピーモンスターから、西田制次さん、桝田弘司さん(知ってる?)といったマニアックヒーローまで。

イトイさんのユーモアあふれる、サービス精神たっぷりのインタビューは業界人が業界人に業界のことを聞いてまわることで、その当時あまりよくわかられていなかったコピーライターという職業の難しさ、奥深さ、面白さを白日の下にさらけ出すのにちょうどよかったわけですね。

ちなみに最終章はイトイさんが糸井さんにインタビューする、というこれまた珍妙な企画。面白いですよ。

第4位:『広告の迷走』

いまから30年前。おおむかしですね。ぼくは求人広告の代理店を辞めて、一般の広告、商品の広告を作るプロダクションに転職しようとしていました。するとどうでしょう、その話を聞いた大人たちはこぞって「ああ、SP広告ね」「SPやりたいんだ」「どうすんだSPなんかやって」と言います。

SP、つまりセールスプロモーションですね。当時のぼくはその言葉の意味はわかっていたんですが、なぜ商品広告のことをみんないちいちSP広告というのか、皆目見当がつきませんでした。

それがどういうことだったのかわかったのは、広告界のレジェンドである梶祐輔さんの著書『広告の迷走』でした。この本で梶さんは日本の広告業界の歪みについて指摘しています。それは、日本では広告と販促あるいは宣伝がごっちゃになっている、ということ。

広告はあくまで企業価値を高めるもので、商品を売るものではない。商品を売るのは販促、つまりセールスプロモーションで、もっと売りの現場に近いところで行われるものである、と。

これ、現代のブランディングにも通じますし、なんなら近代編の一位を獲った『クリエイティブ入門』で原野さんが同じことをカンヌ出品作品を例に語っています。そして30年前、ぼくのまわりの大人たちはぼくがチラシかなにかでも作るのが関の山だとおもっていたんです。

第3位:『やってみなはれ、みとくんなはれ』

数ある広告本の中でもおそらくダントツに読み返す回数の多い本がこれです。もう何回読んだことでしょうか。もともと浅く広くではなく、少ない本を何度も繰り返して読むタイプですが、その中でも突出しています。

サントリー宣伝部からサン・アド設立を支えた立役者であり、芥川賞作家である開高健と直木賞作家の山口瞳という二人の“コピーライター”が綴った幻のサントリー社史です。

赤玉ポートワインで成功したにも関わらず「やってみなはれ」の精神で日本初の国産ウィスキーにチャレンジした創業者、鳥井信治郎。そして戦後の経済成長の中、ウィスキーでの成功にあぐらをかくことなく念願のビール市場への参入を果たした二代目、佐治敬三。

このふたりの人物伝を通してサントリーという企業のベンチャー精神をいきいきと描く感動長編です。あ、こうやって書いてるだけでもう読みたくなってきた。角のロックを片手にページをめくると、不思議と明日からまたがんばろうという気になる。そんな一冊です。

第2位:『アドマン』

これはですね、近代編1位の『クリエイティブ入門』とあわせて読むとより味わい深いアメリカ広告業界経済小説です。

クリエイターとビジネスパーソンを分かつ大河について、この小説の主人公であるコピーライターのジム・バワーもわかっていれば、ギブス・アンド・ウィルソン社を辞めずに済んだかもしれません。

天才クリエイティブディレクターであり、同社の代表だったマックス・ギブス亡き後、銀行筋から送り込まれてきた新社長、ジョージ・ブライスこそビジネスパーソンの権化のような存在でしたからね。ま、詳しくはぜひ本編を…といいたいですが入手可能なのかな?この本。

ちなみにこの本を書いたジャック・ディロンはDDBのコピーライターで、日本にDDBの広告作法を輸入した西尾忠久先生も直接インタビューされていました。その絡みで西尾先生とぼくはTwitterでつながり、この本についてDMでやりとりしました。いまとなっては懐かしい思い出です。

第1位:『糸井重里の萬流コピー塾U.S.A.』

さて、古代編の1位に輝いたのは、みんな大好き糸井重里さんの『萬流コピー塾U.S.A.』でございます。萬流コピー塾にはいろんなバージョン(?)があるんですがなぜU.S.Aなのか、というとウチの本棚にあったのがこれだからであります。

っていうか存在自体忘れてた。忘れてたし、軽くちょっと斜め上から見てたのも事実。どうせあれでしょ、上手いこというヤツが勝つ大喜利なんでしょ、みたいな。

でもですね、時を経てあらためて、地味ではありながらも、業界の最低辺をのたうち回りながらも、一応仮にもコピーライティングを職業にしてみてわかることがある。

萬流の教えの中には実践で使える武器がある。しかも上手いこというにも技巧が必要である。それを、第一線で活躍されているときの糸井さんから教えてもらえる。読み返してみると、そのすごさに震えることになります。

すごくバカバカしく、くだらない茶飲み話の中に真実がある。本質がある。面白がりながら、真剣に押さえなければならないことは押さえている。「カッコいいとは、こういうことさ。」とは糸井さんがつくったコピーですが、まさにカッコいいとはこういうことである、と萬流コピー塾を通じて体現していたのが糸井さん本人なのであります。

そしてこれを連載していた週刊文春はいったいなにを考えていたんでしょうね。いまの「文春砲」なんていかめしい権力権威とは無関係で無重力な空間を読者に提供してくれていたんですね。俺は好きだね、昔の文春のほうが。

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と、いうわけで連載最長の6500文字超で長々とお送りしてきました、100回記念の広告本ベストテン。いかがでしたでしょうか。

硬軟いろいろありますが、いずれもわたしの手にかかるとグニャグニャになってしまいますね。著者のみなさまからすると「こんなことを言いたいわけではない」という苦言のひとつも呈したくなるかもしれませんが、どうぞお許しください。

さて、101回目からは毎週更新ではなく、これはという広告本を見つけ次第不定期に連載するスタイルでいきます。いや、さすがにわが家の広告本ストックがなくなりましたし。新刊もそう毎週毎週金曜日に出してくれるはずもなし。要はネタ切れってことです。

「いやまだあの本取り上げてないじゃん」という声もあるかもしれませんが、ここはあくまでみなさんに読んで読んで!という気持ちになった広告本のみを紹介する連載ですので。そこのところをご寛恕いただきたく。

101回目以降も引き続きご愛顧のほど何卒よろしくお願いいたします!

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