【広告本読書録:041】広告コピーの教科書 その②
誠文堂新光社 編・発行
広告コピーに絞ったハウツー書で、なおかつテクニックをご開陳してくれるのがほとんどコピーライター(福里真一さんだけCMプランナー)という、実は意外とレアな一冊。せっかくだから11名の先生が教えてくださる内容をギュッとかいつまんで紹介しよう、とおもって書きはじめたところ、これは意外でもなんでもなく内容が厚くなってしまい、三回ぐらいにわけることにしました。今回はその二回目です。
しかしこうしてあらためて読み返してみると、コピーを教える、コピーライティングのテクニックを伝授する、というのはあらためて難しいことだなと身にしみておもいます。
師匠たる人は最終的には背中で見せるしかないのか、とか。その見せたものに対してお弟子さんがもともと持っているものが触発されたり、融合されることで一子相伝のような秘伝の伝授(変な日本語)が行われるのではないかとおもいます。
以前、勤めていた会社では制作部門の責任者だったのですが経営者からは常々「一子相伝みたいなことをやっていないで、全員がお前ぐらい書けるようにしろ。しかも時間をかけずに」というオーダーを受けていました。
一子相伝だって難しいのに、そんなこと無理です。
でも、ベンチャー企業とかでぼくにライティング講座的なものを依頼してくる会社の社長さんのほとんどが、言葉は違えど上記のようなオーダーをしてくるんですよね。あるいは言わないだけで効果を期待していたりして。
そういうとき、昔はなんとかわかってもらおうと、勉強会の中身などを通して伝える努力をしていたんですが、ここ数年はもうめんどくさいというか、あっち側とこっち側には庄内川ほどの幅があると諦めて「そういう依頼ならぼくじゃないほうがいいとおもいます」とお断りしています。
あっち側のひとはなんでそんなにかんたんになんでもできるようになるとおもうんだろう。たぶん一生かかってもわからないであろうなぞなんだぜ。
CMプランナーでもある、福里真一先生
この本に登場するプロフェッショナルの中で唯一、CMプランナーをメインの仕事とする福里真一さん。サントリーBOSSの「宇宙人ジョーンズ編」やトヨタの「こども店長」など、数々の名作CMをものにされています。
それでも肩書きを「CMプランナー/コピーライター」にするなど、あくまでコピーライターであることにこだわる福里先生の教えは…
「広告が話題になるときの『呼び名』を考える」
福里先生のコピー論は、さすがCMプランナーだけあって「コピーそのもの」からスタートしていません。もっと俯瞰して「広告に関わる言葉は全てコピーである」という定義をされています。うむ、考えてみればそうだ。
コピーライターは誰でも「いいコピー」を書きたいし、それを書こうと何十本、何百本と考えるものです。一方でCMプランナーが考えるコピーというのは企画から自然と発想された言葉であることが多い。たとえば、店長を子どもにしようというアイデアがある。子どもの店長だから「こども店長」だな、とシンプルなんです。このCMは「こども店長のCM」と呼ばれるだろうから、必ずCMの中でお店に来るお客さんが「こ、こども店長!」と言ったほうがいいとか ~中略~ 広告が話題になっていくときの「呼び名」を考えることが、私にとって、コピーライティングのいちばん大事なところかな、と思っています。
この一節を読んだとき、ぼくは「そうだそうだ!」と膝を打ちました。と、いうのもぼくは時々ネーミングのお仕事をいただくのですが、特に飲食店の店名を考えるときの発想のベースが、まさにこれだからです。
あるダイニングレストランがバルを出店することになり、ぼくに店名のネーミングの依頼がきました。特徴を聞くと、スペイン料理、特に牡蠣とステーキに力を入れるそう。それをワインで、というのがお店の売りです。ただウィークポイントは路面店ではなく、雑居ビルの2階だということ。
それを聞いた瞬間にぼくが提案した店名は『2階のカキとステーキ』でした。周辺のサラリーマンがこの店を気に入ったとします。仲間を誘って何度か訪れるうちに、お店にあだ名をつけるとおもったんです。だったら最初からそのあだ名を店名にしてしまえ、というのが発想のもと。
たぶんぼくなら店の名前が別にあったとしても「じゃ、今日も2階のカキとステーキの店に行く?」なんてコミュニケーションになるだろう、とおもったんですね。実際にサラリーマン時代はそんな感じでよく行く飲み屋のことを「2階」とか「地下」なんて呼んでいたし。
これ、福里先生の『呼び名をつける』理論とニアリーイコールではないかとおもいます。そして、まさにCMプランナー的な視点というか、一般的なコピーライターからは出てこない発想だなあともおもいました。
カリスマコピーライター、仲畑貴志先生
仲畑貴志さんは、いまさらここで何の解説も必要ないほどの神様です。広告の神様、コピーの神様、とにかく神様として崇め奉られています。代表作に「好きだから、あげる。」「わたしは、あなたの、おかげです。」「トリスの味は、人間味。」「おしりだって、洗ってほしい。」いずれも時代を代表する名コピーばかり。
でもぼくが仲畑コピーの中でいちばん好きなのは「新工場で新製品。」というTOTO給湯器の工務店向け広告。このコピーはほとんど話題にならず、TCCなどの賞にもひっかからず、静かに、しかし確実にTOTOの売上を伸ばしました。その訳は…また別の機会にするとして、そんなカリスマコピーライター、仲畑先生の教えはこれです!
「コピーを書いているときは自分との戦いです」
ふだんから「コピーはケンカだ」などの攻撃的名言を吐き続けてきた仲畑先生。当然、自分自身に向ける刃も鋭いものです。
コピーを書いているときは自分との戦いです。いいなぁこのコピーと思っても、それを横において「この野郎、潰してやろう」と、それがどこまでできるか。さっきよりちょっといいのができたなぁと思っても、また横に置いて「この野郎、潰してやろう」ということを繰り返すことで半歩でもいいものになれば幸せじゃないですか。だから、その作業は徹底してやるべきでしょうね。人間というのは、つい同じ道を行き来しがちです。でも、逸脱が新しいものの見方や考え方を連れてくる。視点の持ち方も、表裏、天地、斜め横とさまざまに動かしたい。
これはなかなか、骨が折れる作業です。人間、そんなに強い生き物じゃありませんから。どうしても「できた…」とその場でへたり込んでしまいがち。でも仲畑先生はそこでストイックに「この野郎、潰してやろう」と。それができるから、仲畑先生はカリスマコピーライターなんですね。
仲畑貴志、御年73歳。この本が出版されたのがいまから5年前ですから、68歳でのご発言です。やっぱかなわないです。
相談されたガール、国井美果先生
ガール、という呼称は失礼かもしれません。国井美果さんは数少ない女性コピーライターの中でも特に精力的に活動されているベテランです。国井先生の基本姿勢は「私に相談してくれた方のために、がんばる」。自分に声をかけてくれた人のために、とびきりの答えで問題を解決するのがコピーライターの使命である、と語ります。
それだけに仕事の幅も広く、広告だけでなく行動規範や社員のモチベーションアップ施策などインナーブランディング領域にまでリーチしているようです。そんな国井先生の教えは、こちら!
「信じたくなる空気をつくる」
お客さまは「広告だから、いいことばっかり言うのは当たり前じゃん」とわかっています。けれどなぜか信じたくなる。どうしようもなく好きになってしまう。希望が生まれる。そんな企業や商品の良い面を照らす“光の当て方”があると思う。そこを探していきます。「信じられる空気」をつくるのは、難しいけれど大事なことです。企業が言っていることなんだけど信じてもいいかなと、ふと思いたくなる。その気持ちに向けるのが、コピーの醍醐味だと考えています。
国井先生は本文中に、その方法論について散りばめてくれています。曰く、ささやかな気持ちは派手にやるより、嘘がなく適性なトンマナを心がける。曰く、コピーを書く時は企業の「人格」にも気を配る。曰く、女性なりのヌケヌケとした明るさでその場の風通しを良くしていけたら。
どれも「これをやればできるようになる」という具体的なテクニック論ではありません。しかし抽象度の高さは受け取り側の感性によって大きな可能性につながります。このあたり、女性コピーライターらしい、しなやかでのびのびとした教え方なのかもしれませんね。
社長に憑依する現代のイタコ、前田知巳先生
前職の会社の広告を作ってくださったのが、前田知巳さんです。それまで誰も手をつけなかった、経営者の名言を大胆にフューチャーしたその広告はまさに「何もしていないのに何かをしている」…そんなクリエイティブマジックをぼくたちの目の前で見せてくれたのでした。
そんな前田先生のことを、ぼくは勝手に『最後のコピーライター』と呼んでいます。なぜでしょうか。はっきりとは自分自身もわからないのですが、明らかに最近の守備範囲がやたらと広いコピーライターとは違う、純粋なアドのコピーライターの、最後の世代なのではないかとおもうんですよね。
さあ、前田先生に教えを乞うことにしましょう。
「本当のことはオリエンシートの外にある」
ユニクロの仕事も、森ビルの仕事もそうですが、やっぱり「会話」から広告の言葉が生まれることってあるんですよね。「話して、直接感じて、相手を知る」のは、とても大事なこと。オリエンシートだけでは見えないこともたくさんあるんです。だからこそ僕は「企業人格」を見て「憑依」して「相手を理解」して書くというスタイルなんだと思うんです。
知らないことを知るという過程は実に楽しいし、そこに本当の答えがあるのに、知らないまま、ペロッと渡されたオリエンシートだけを見ただけで考えるなんて、ちょっともったいない気がする。実際、僕がこれまでつくってきた広告のほとんどが、本当のことはもっと別のところに埋もれていたんですから。
前田先生はこうも続けます。コピーライターの仕事は決して華やかではないし、渋い。でも「人のことを言葉にするという経験ができる」「そういう役立ち方がある」ところに醍醐味がある。1本のコピーを書いてはいおしまい、ではなく、そのための「別の作業」「奥にあるものを掘り返す作業」があることを知ってほしい。
まさにそうだなあとおもいます。
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ということで第2回目はこのぐらいで。次回、最終回としてぼくの心の師匠である岩崎俊一先生、最もヤングな門田陽先生、そしてキングオブコピーライターの誉れ高い秋山晶先生の教えを紹介したいとおもいます。