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扇子に描かれた「やまと絵」 @東京国立博物館
東京国立博物館(トーハク)では扇子(せんす)をよく見かけます。扇子というか“扇面画(せんめんが)”をよく見かけるといった方が正確でしょう。今でもそうですが扇子や団扇には何かしらの絵が描かれていますよね。紙があれば何かを描きたくなるのが、人間の特性と言えるのでしょう。
団扇は中国で発明されて、奈良時代に日本に伝わったものなのだそうです。その中国では、東晋時代(317年〜420年)には、扇子……団扇ですかね? に書画を施すようになっていたそうです。奈良時代に日本へ伝わった団扇にも、そうした書画がしるされていたのかもしれません。
その後、平安時代初期の日本では、2〜3cm幅の薄い木(木簡)の板を重ねて作られた「檜扇」が登場します。これは風を起こすためではなく、儀式や式典の順序を記す道具……式次第でしょうか?……として使われていました。
そして平安時代の中期になると、竹に紙を貼った「蝙蝠扇(かわほりおうぎ)」が生まれ、これらの扇に絵を描く習慣が始まったとされています。以外に歴史が浅いというか……もっと古くから扇子ってあるのかと思っていました。で、平安時代中期以降には、貴族たちが美しい絵を扇に施し、「扇合(おうぎあわせ)」と呼ばれる扇の美しさを競う催しも、行われるようになったとされています。
さらに時代が下り、鎌倉・室町時代になると、扇子は能や狂言、舞踊や歌舞伎などで欠かせない小道具となります。また、安土桃山や江戸時代には、扇絵や扇絵を使った屏風などが現れ、芸術ジャンルとしての拡がりを見せていきました。俵屋宗達などは、扇面画を得意として絵師の代表と言えます。
その後、浮世絵師たちも扇絵を手掛けるようになります。鳥居清信、喜多川歌麿、葛飾北斎、河鍋暁斎などの著名な絵師たちが扇面画を描き、その芸術性を高めていきました。
というように、おそらく扇風機が一般化するまで、扇子……または団扇は、長く絵師たちのキャンバスとして重要な位置を締めていました。そのためトーハクにも、日本または中国で様々な時代に描かれた、扇子絵や団扇絵……扇面画が所蔵され、しばしば展示されています。
今季は、その中で室町時代に描かれた扇面画が見られるということです。
■やまと絵の女流作家「千代さん」が清水寺を描いた扇子絵
展示品の中で、実際に「扇子」として仕立てられているものは1点のみ。その《清水寺図扇面》は、土佐光信の子で「千代さん」という女性画家が描いたと伝承されています。彼女は狩野派二代の狩野元信に嫁いだ方で、土佐光久とも呼ばれているそうです。
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こうして実際に扇子になって折り目がついていると……正直、何が描かれているのかは分かりづらいです。解説によれば「清水の舞台、音羽の滝などをランドマークとする清水寺の景色を描いています」とあるので、よく見れば、そうした名所が分かります。
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↓ 扇子の右端に、朱色の柱の建屋から水が落ちている様子が描かれています。たしか三筋の滝のはずですが、わたしが視認できるのは二筋です。その細い滝のしたに小さなプールのようなものがあり、数人が立っています。さらにプールからは樋(とい)で水が排出されている様子も分かります。
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■扇面画のコレクション帳……《扇面画帖(せんめんがじょう)》
扇子仕立ての作品を先にnoteしましたが、メインで展示されているのは、《扇面画帖(せんめんがじょう)》です。こちらは扇子になる前……または扇子として使われていたものを、竹の骨の部分から剥がして、扇面だけを別の紙に貼り付けて画帖に仕立て直したものです。
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画帖……図録というか、現代でいうと作品集とでも呼べばよいのでしょうか。今回のものは、表裏に12面ずつ合計24面の扇面が貼り付けられている……と解説されています。
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こうした扇面画は、絵を鑑賞するために扇子や団扇に仕立てずに……こうした扇面画を描くのを目的として作られる場合が多々あります。扇の形をしていることが重要なようで……扇子や団扇にしないのなら、扇の形をしていなくてもいいんじゃない? なんて思ってしまいますが、当時の人たちは扇の形をしていることが重要だったのですかね。
とにかく、そういう扇面画を最終目的としているものが多い中、今回の展示品は、折れ跡があることから、実際に使われていたものを画帖として仕立て直した可能性がある……ということです。
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↑ 描かれているのがなんという鳥なのか分かると、もっと面白いのですが……テキトーに記すと、池で休んいる親子の鳥が鵜(う)のような気がします。ただし、扇子の右側から飛んでくるけっこう特徴的な形の鳥が……わたしのイメージする鵜っぽくないんですよね……こちらも親鳥(雌?)で、親子が休む池を目指して帰ってきている……と言った感じなのかなぁと。
↓ そして下の絵はまたすばらしいのですが……なんの花でしょう……まぁ菊なのでしょうけど……。花びらの、ほのかなピンク色が今でも見られますし、この扇面に限らず、背景の金箔はよく残っているものが多いです。
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↓ こちらは山水図……といったところでしょうか。う〜ん……でも分かりづらい状態ですね。きっと製作された往時は、色彩にメリハリがあって、描かれているものがきれいだったのでしょうけどね。
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↓ 松に鳥といえば……何でしょうかw? 尾が長いですね。
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↓ おそらくやまと絵でよく描かれる花なのでしょうけど……思い浮かびばず残念です。こういう時に、パッと「あっ、○○が描かれている」って思い浮かぶと、かっこいいんですけどねぇ……。
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↓ 真ん中の赤い花は……なでしこかなぁ……。
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↓ これも分かりませんが、葉の形が特徴的なので、そこから探っていくと同定できそうな気がします。
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↓ こちらは源氏車(げんじぐるま)ですね。こちらも定番です。
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↓ う〜ん……こちらの鳥も分からないなぁ……鴨ですかねぇ。
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↓ 日本庭園では「枯山水(かれさんすい)」という、水を使わずに砂で水を表現する方法がありますよね。同じように、こちらの扇面画では墨線だけで水を表現しています。まぁやまと絵では一般的な描かれ方とも言えますが、曲線が心地よいです。
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↓ 渋好みの扇面画です。シンプルに竹……竹ですよね?……が左側に寄せて描かれ、雲が金箔で表現されています。今でも工芸品で、こうした雲の表し方が残っていると思いますが、金色の使い方が上手だなぁと思います。なんか金色って、ゴージャスな感じがし過ぎになりがちですが、やまと絵ではそうしたイヤラシイ感じが全くしません……まぁ全体が褪色してしまっていることもありますけどね。
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↓ 室町時代の風俗画……といったところでしょうか。左の2人は、おそらく双六(すごろく)を……右側は囲碁を……し終わったのかこれからするのか、といったシーンのようです。こういう絵を見ると、なんとなく岩佐又兵衛っぽい感じがします(岩佐又兵衛しか知らないから…)。
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↓ これは椿でよろしいでしょうかね。こういう絵には見本というか“型”みたいなものがあったのでしょうけれど、構図のバランスが心地よく思えるのは、わたしが日本の文化で育ったからでしょうか。
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というわけで、今回のnoteは以上です。
今週は、先ほど(土曜)も17時ころにトーハクへ行ってきました。そろそろみんな帰る頃かなぁと。結局、空いてきたなぁと感じたのは19時過ぎくらいからでした(金・土の閉館は20時)。今週は屏風と襖絵の部屋や江戸時代の書画など、展示品が一気に替わりました。また今年度の新収蔵品も平成館で見られたので、大変満足して帰ってきました。それらは、明日以降にnoteしていきたいと思います。
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