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埼玉県立の「歴史と民俗の博物館」で『土器を読む』

先週末に、埼玉県立の「歴史と民俗の博物館」へ行った時のレポートの続きをお送りします。

前回noteでは、常設展の縄文から古墳時代のエリアを見て周り、じゃあ特別展『縄文コードをひもとく』を見に行くかと、特別展の部屋へ行きました。展示室へ入ったところから、もわぁ〜っと縄文土器ばかり。うわぁ〜、求めていたとおりで雰囲気です。これだよこれ! って思いながら展示ケースに顔を近づけて、一つ一つ土器を見始めました。

《釣手(つりて)土器》桶川市 高井 東遺跡23号住居跡出土
縄文後期·加曽利B式・埼玉県教育委員会 蔵

今でも、作家さんが作ったような焼き物を見ると、作った人が触った雰囲気が、器の表面に感じられて良いなぁと思うこともあります。縄文土器も同じなんですよね。さらに……「うわぁ、何千年前……5500年前に同じ関東に縄文の人たちがいて、こうして器を作って、それを使って生活していたんだなぁ」って……土器を見ていると、そういうことがジワジワと伝わってくるんです。

《「X」字モチーフの尖底深鉢》日高市 天神峯遺跡5号土壤 出土
早期·打越式・埼玉県教育委員会 蔵

それぞれどうやって作ったのか分かりませんけど、器の形を作ってから、荒縄かなんかをまだ柔らかい土器の表面に押し付けたり、木べらでチョンチョンって彫ったり、粘土で細い紐のようなものを作って土器の表面に貼り付けていったり……そういう作業が浮かんで来ます。あぁ5500年前の人が、この土器に触れているんだなぁ……と思うと、わたしも土器に触れて、その数千年前の人と間接的に触れ合いたい……なんて、思ってしまいます。

《菱形文の深鉢》さいたま市 上ノ宮遺跡炉穴群1 出土
早期・野島式・埼玉県教育委員会 蔵

↑↓《菱形文の深鉢》は、4つの波頂部をもつ波状口縁で、胴部上半には梯子状の沈線文様によって、菱形のモチーフを構成しています。背が高く、ケース面から離れていたため見られませんでしたが、内側にも条痕文というのが施されているそうです。内面にも文様が施されているというのは、一般的なんでしょうかね? なんのために内側まで装飾したのか……もしくは調理する上で、何か実用性があるのでしょうか。

そうして一つ一つ、土器の表面に記されている文様を見ていっても、わたしにはコード……暗号のようなものは分かりません。ただ、解説パネルを見ていると、時折「これは東北の方で作られた土器に見られる文様と相似性がある」などが分かるだけです。

《連結する隆 帯の深鉢》上尾市 中井遺跡 34号住居跡出土
中期・勝坂3式・埼玉県教育委員会 蔵
《連結する隆 帯の深鉢》上尾市 中井遺跡 34号住居跡出土
中期・勝坂3式・埼玉県教育委員会 蔵

土偶もですけれど、各集落で作られていたというよりも、土器や土偶の工場があって、そうしたところで、ある程度の量産体制で作られていたと考える方が合理的な気がしますね。たしか東京にも、現・多摩センターあたりに工場跡のような遺跡が見つかっていた記憶があります。

例えば、うちは耳飾りを作るのが得意なムラ……うちのムラは貝殻で作ったブレスレットがきれいだよ……などと同じように、うちのムラは鍋が上手ですとか、急須みたいなのが名産ですとかっていう地域性があったのだろうなぁと。

《顔のように見える土器》飯能市 加能里遺跡・77次調査
約3000年前(縄文時代晚期)・飯能市教育委員会 蔵
《渦巻文の深鉢》日高市 宿 東遺跡6号住居跡出土
中期·加曽利E式・埼玉県教育委員会 蔵

《渦巻文の深鉢》は、かなり装飾性に優れた時です。単に食事する時に使う鍋とも思えず、盛り付けようの皿としては深鉢過ぎる気もします。

《渦巻文の深鉢》日高市 宿 東遺跡6号住居跡出土
中期·加曽利E式・埼玉県教育委員会 蔵
《渦巻文の深鉢》日高市 宿 東遺跡6号住居跡出土
中期·加曽利E式・埼玉県教育委員会 蔵
《渦巻文の深鉢》日高市 宿 東遺跡6号住居跡出土
中期·加曽利E式・埼玉県教育委員会 蔵

でも、もしかすると、器はそれぞれのムラの名産品を入れるものだったかもしれませんね。今でも、北海道のお土産で、花がらの包装紙を見ると「あっ、六花亭のお菓子だ!」と心踊ります。それと同じように、どこどこ産のなになにっていうのが、土器を見るだけで分かったのかもしれません。

《キャリパー形の深鉢》東松山市 岩の上遺跡 23号住居跡出土
中期·加曽利EI式・埼玉県教育委員会 藏

「キャリバー」とは、厚みなどを計測する機器なのだそうですが……身近な器具ではないため、「キャリバー形」などと言われても、その形が想像できませんね。要は、中間部がくびれている土器を言うようです。

《突起が特徴的な深鉢》桶川市 諏訪野遺跡27号住居跡出土
中期·加曽利E式・埼玉県教育委員会 藏
《突起が特徴的な深鉢》桶川市 諏訪野遺跡27号住居跡出土
中期·加曽利E式・埼玉県教育委員会 藏
《突起が特徴的な深鉢》桶川市 諏訪野遺跡27号住居跡出土
中期·加曽利E式・埼玉県教育委員会 藏
《突起が特徴的な深鉢》桶川市 諏訪野遺跡27号住居跡出土
中期·加曽利E式・埼玉県教育委員会 藏
《山形突起が付く深鉢》伊奈町 谷畑遺跡1号住居跡出土
前期・関山I式・埼玉県教育委員会 蔵

↑解説パネルによれば「土器の製作は入念で、少しずつ粘土を 積み上げては縄文を施文し、それを何度か繰り返して全体を作り上げます。」としています。この通りの作り方をしていたとしたら、一つを作るのにかなりの時間を要しただろうなと想像できます。

《関山貝塚の深鉢》蓮田市 関山貝塚1号住居跡出土
前期・関山式・埼玉県教育委員会 蔵
《隆線文のモチーフが特徴的な深鉢》寄居町 塚屋遺跡20号住居跡出土
前期・諸磯b式・埼玉県教育委員会 蔵
《沈線文の注口土器》さいたま市 大木戸遺跡9号住居跡出土
後期·加曽利B式・埼玉県教育委員会 蔵
《沈線文の注口土器》さいたま市 大木戸遺跡9号住居跡出土
後期·加曽利B式・埼玉県教育委員会 蔵

時折、土器と一緒に、土器の周縁に施された文様を、グルッと手描きで平面化した資料が展示されていました。そうして描かれた考古資料を見ると、実際の土器を見るよりも、どんな文様だったのか分かりやすいです。あぁそうですね、魚拓のようなものです。

《表と裏?2つのモチーフの深鉢》寄居町 北塚屋遺跡141号土坑出土
中期・勝坂2式・埼玉県教育委員会 蔵

解説パネルには、時々難しい謎解きが記されています。謎が解けたわけではありませんけどね。

双眼突起は片側のモチーフの上にのみ付いていますが、反対側のモチーフの顔とも見ることができます。突起直下のモチーフは、両手を広げ逆三角形の胴体の下に杏仁形のモチーフを吊り下げています。この杏仁形の区画の中には上部に円形のふくらみを表現しており、女性が子供を産む状況を表現したとの説があります。モチーフは、逆三角形を胴部と両肩からのばした両腕を表現し、カエルのように足を折り曲げた表現です。また、モチーフ ab ともに人体の表現と考えた場合、別の人物か同一人物かという議論があります。モチーフと同様の表現はさいたま市北区下加遺跡などでも見つかっています。

解説パネル
《表と裏?2つのモチーフの深鉢》寄居町 北塚屋遺跡141号土坑出土
中期・勝坂2式・埼玉県教育委員会 蔵
《表と裏?2つのモチーフの深鉢》寄居町 北塚屋遺跡141号土坑出土
中期・勝坂2式・埼玉県教育委員会 蔵
《表と裏?2つのモチーフの深鉢》寄居町 北塚屋遺跡141号土坑出土
中期・勝坂2式・埼玉県教育委員会 蔵
《表と裏?2つのモチーフの深鉢》寄居町 北塚屋遺跡141号土坑出土
中期・勝坂2式・埼玉県教育委員会 蔵

わたしがもし考古学者だったとしたら……こうやって描かれた文様をデータベース化していきたいですね。おそらく既に、ざっくりと集計していっている学者はいるんでしょうけど、今なら、やろうと思えば大規模に行えそうな気がします。気がするだけなので、学者さんには「いやぁ、やりたいんですけどねぇ、なかなかコスト的に難しいんですよ」なんて言われると思いますけどね。

土偶では、そういう資料作りが始まっているのを見たことがあります。この形の土偶が、どの地方でいくつ発掘されているとかね……そういう論文がありますね。それが土器でも行われていて、今回の展示にも活かされているんでしょうけど。少しジャンルは異なりますが『みんなで翻刻してみた』なんていうのは、現代らしい研究の仕方だなと思います。「古文書を読みたい」という素人は、いくらでもいるわけで……それと同じように、縄文土器や縄文の土偶が好きな人は、研究者ではなくとも大勢いるのですから。花や野草の写真を、みんなでアップして同定していくアプリ…サービスはたくさんありますよね。あれの土器や土偶バージョンがあったら、どんどん情報が集積できて、研究にも役立つのではないかなぁと。

《双子の注口土器》鴻巣市 中三谷遺跡41号土坑出土
後期,堀之内2式・埼玉県教育委員会 藏
《入組三叉文の注口土器》鴻巣市 赤城遺跡出土
晚期·安行3b式・埼玉県教育委員会 蔵
《入組三叉文の注口土器》鴻巣市 赤城遺跡出土
晚期·安行3b式・埼玉県教育委員会 蔵
《底面が広い注口土器》久喜市 小林 八束1遺跡祭祀遺物集中地点 出土
晚期・埼玉県教育委員会 蔵
《底面が広い注口土器》久喜市 小林 八束1遺跡祭祀遺物集中地点 出土
晚期・埼玉県教育委員会 蔵
《弧線文モチーフの粗製深鉢》さいたま市 寿能泥炭層遺跡出土
晚期·安行式・埼玉県教育委員会 蔵
《弧線文モチーフの粗製深鉢》さいたま市 寿能泥炭層遺跡出土
晚期·安行式・埼玉県教育委員会 蔵
《安行式を代表するタイプの深鉢》さいたま市 寿能泥炭層遺跡出土
後期·安行2式・埼玉県教育委員会 蔵

大きな波状口縁と豚鼻状瘤という安行式を代表する土器作りのコードを体現した土器です。190 と比べると、口縁部の突起や瘤がより強調されて華やかな印象です。

解説パネル
《安行式を代表するタイプの深鉢》さいたま市 寿能泥炭層遺跡出土
後期·安行2式・埼玉県教育委員会 蔵

全国で見つかっている土器や土偶を、そうやってアプリで集めていったら、今とは異なる規模で、土器や土偶などを見比べていけるだろうなと。それを見比べられるのが、学者だけでなく、素人も見られるというのが重要だと思います。裾野が広がれば、より多くのデータが集積できて、色んな視点から比較解析できると思うのですが……。まぁでも素人が好き勝手なことを言うと『土偶を読む』みたいに、バッシングされてしまうのでしょう(←『土偶を読む』も『土偶を読むを読む』も、読んだことありませんけどね)。

《2段構成にみえる異形台付土器》深谷市 原ヶ谷戸遺跡出土
後期·安行式・埼玉県教育委員会 蔵

不思議な形だなぁと思って見入ってしまったのですが、背後から照明を当てているので、文様がいまひとつはっきりと見えなかったです。

《豚鼻状瘤をもつ波状口縁深鉢》蓮田市 雅楽谷遺跡5号土坑出土
後期末~晚期初頭・安行式・埼玉県教育委員会 蔵
《豚鼻状瘤をもつ在地系の注口土器》蓮田市 雅楽谷遺跡5号土坑出土
後期末~晚期初頭·安行式・埼玉県教育委員会 蔵

イメージとしては、土器(の文様)や土偶の標本作りです。誰でもアクセスできる標本があれば、色んな人が色んな空想を始められて面白い気がします。牧野富太郎先生も、ひたすらバカみたいに標本を作っていったら、後世の研究者から感謝されたわけじゃないですか。国立科学博物館の研究者も、バカみたいに同じ種の動物の標本を作っているじゃないですか。それを研究者だけでなく、素人も参加できれば、凄いデータベースが作れるんじゃないかと、考えるだけでワクワクします。

《迫力の台付鉢》蓮田市 雅楽谷遺跡5号土坑出土
後期末~晚期初頭·安行式・埼玉県教育委員会藏
《注口土器と似たモチーフの異形台付土器》蓮田市 雅楽谷遺跡 出土
後期·安行式・埼玉県教育委員会 蔵
《注口土器と似たモチーフの異形台付土器》蓮田市 雅楽谷遺跡 出土
後期·安行式・埼玉県教育委員会 蔵
《注口土器と似たモチーフの異形台付土器》蓮田市 雅楽谷遺跡 出土
後期·安行式・埼玉県教育委員会 蔵
《東北地域にルーツをもつ壺》加須市 長竹遺跡775号土壙 出土
晚期·大洞式・埼玉県教育委員会 蔵
《入組三叉文の壺》鴻巣市 赤城遺跡完形土器集中地点 出土
晚期・埼玉県教育委員会 蔵
《波打つ口縁の浮線文浅鉢》上尾市 稲荷台遺跡 出土
晚期・浮線網状文系・埼玉県教育委員会 蔵
《波打つ口縁の浮線文浅鉢》上尾市 稲荷台遺跡 出土
晚期・浮線網状文系・埼玉県教育委員会 蔵

次回は、埼玉県立の「歴史と民俗の博物館」で見てきた「顔が描かれた土器」をnoteしていきたいと思います。

<追記>

山梨県のWebサイトは、秀逸
https://design-archive.pref.yamanashi.jp/category/pattern


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