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トーハクが東京藝大から50円で購入した、飛鳥時代の素朴な菩薩立像

東京国立博物館(トーハク)によく展示されている菩薩ぼさつ立像りゅうぞうがあります。

スラリとしたプロポーションなのに、なぜか首がガッチリとしていて、身体に対して顔が大きい菩薩さんです。名前はまだありません。あえて言えば《菩薩立像 C-217》。以前、《菩薩立像 C-20》を書いた時にトーハクの画像検索サイトで「菩薩立像」と入力して検索したら、たくさんの菩薩立像が結果に出てきました。今回の《菩薩立像 C-217》も、名無しの菩薩立像です。

解説パネルによれば、「古来、霊木としても信仰されたクスノキの一材から彫り出された像」ということです。

クスノキの匂いって好きです。時々匂いを嗅ぎたくなって、葉っぱをプチッとちぎって、ちぎった断面を鼻に近づけて匂いを嗅ぎます。

ところで「楠」という漢字は、中国ではタブノキを指すんだそうです。で、中国にもクスノキが生えているのですが……って、元々大陸から伝わってきたらしいです……漢字では「樟(クスノキ)」と記すそうです。つまりは「クスノキ」は古来から使われていた日本語で、その後に漢字が伝わってきて、間違って「楠」という漢字を当てた……けれども、おそらく途中で「クスノキは『楠』ではないらしいぞ」という噂が広がり、本来クスノキを指す「樟」という漢字も、日本で使われるようになった……という感じだったんでしょうね。防虫剤とか火薬を作るのに使う「樟脳(しょうのう)」は、「樟」の字を使っていますからね。

わたしもですが、草花の名前を漢字で記す人がいますよね。パソコンなどだと変換しやすいし、漢字の方が言葉からのイメージがしっくりするから、つい漢字を使いがちです。ただ、実は「楠=クスノキ」ではない……というのと類似の誤りが多く、NHKの『らんまん』の主人公のモデル、牧野富太郎さんは「なんでもかんでも漢字で書いちゃだめ! 気をつけて!」といったようなことをなにかの本に記していました。

さて、《菩薩立像 C-217》に話を戻すと「左右に広がる衣や腰前で交差する装身具などから、中国や朝鮮半島の金銅仏を模したと考えられ」るそうです。作られたのは7世紀の飛鳥時代です。

一般的に、朝鮮半島から製鉄技術が日本の出雲地方に渡ってきたのは、紀元5世紀頃だと言われています。《菩薩立像 C-217》が作られたのは、それから200年後のことなので、まだまだ鉄は貴重なものだったでしょうね。だから大陸の金剛仏を、クスノキで作ってみた……という可能性はありえそうです。

練習というか、本番前の模型だったかもしれませんし、単に「霊木だから」という理由だったかもしれません。

いずれにしても「大きな頭に対して、体を極端に薄い」というのは、何も日本人の特徴ではなく、「(大陸由来の)古代の金銅仏に多い特徴」なのだそうです。

菩薩さんの背後に回って見ると、「聖徳太子御時代百済国ヨリ彫刻ノ千像之其一躰也」と記されています。つまりは「聖徳太子の時代……推古天皇の時代に、朝鮮半島の百済(くだら)国から伝来した1,000体の彫刻の(仏像)の一つだよ」ということです。

ただしこれは、明治時代に書かれて貼り付けられたそうです。クスノキを使っていることもあいまって、日本で作られたというのは間違いないようです。それでも江戸時代まで、この像は「百済国から贈られたもの」と、噂されていたのでしょう。

詳細に関しては、様々な文献を読まれた次のブログの方が、詳細に記してくれています。

ほがらかなお顔を見ていると、とても落ち着きます。とても良い表情のような気がします。

ちなみに《菩薩立像 C-217》は、もともと東京藝術大学にあったものを、明治25年(1892)に、当時の「博物館」という名前だったトーハクが、50円で購入したものだそうです。グッジョブ! 当時のトーハク。藝大や他の私立博物館に収蔵されたままだったら、こうして気軽に写真を撮れませんからね。

<関連note>

以前noteに記した《聖徳太子絵伝》には、聖徳太子が数え6歳の時(579年)に「大別王おおわけのおおきみが、経典や僧尼を、百済くだら国よりもたらす(解説より)」という様子が描かれています。

さらに森郁夫著『わが国における初期寺院の成立』には、日本書紀に、次のような記載があるといいます。

「冬十一月庚午朔、百済国王還使大別王に付けて経論若干巻、并びに律師、禅師、比丘尼、咒禁師、造仏工、造寺工六人を献る。遂に難波の大別王の寺に安置す。」

この時に「造仏工」も連れてきているので、この時の仏師が、「じゃぁ、君たち日本人はクスノキが好きだから、クスノキで作ってみようか?」と、日本人の弟子たちに指示したのかもしれないなぁ、なんて想像してみました。

【以下は2024年5月27日に追加】


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