鬼の首を落とした太刀…かもしれない、国宝《童子切安綱》……@東京国立博物館
東京国立博物館(トーハク)の本館1階にある刀剣コーナーにて、国宝の《太刀 伯耆安綱》……いわゆる《童子切安綱》が展示されています。
■国宝《太刀 伯耆安綱(名物 童子切安綱)》
大正から昭和時代を代表する刀剣研究家といえるだろう本阿弥光遜さんは、《太刀 伯耆安綱(名物 童子切安綱)》の作者である伯耆安綱さんについて、次のように評しています。
「刀剣製作技術が上古刀の範園を脱し完全に現在の所謂日本刀の形式を備へる迄に発達するに至つたのは伯耆安綱からであらうと云事は現代刀剣界に於ける定説の如くなってゐるのである」
また「安綱は古来あらゆる種類の刀剣書にもその時代を大同から弘仁の頃と伝へられてゐるのである。大同と云へば平安朝の初期で、僧・空海が帰朝して真言宗を開いた頃である。征夷大将軍坂上田村麻呂は功成り名遂げて華やかな晩年を送ってゐた頃である。銘画大全や鑑定歌伝などに田村将軍が安網の太刀を伊勢大神宮へ奉納した。これを夢想によって源頼光が給はり、酒呑童子を切ると云意味のことが記されてある。即ち童子切安網は田村麻呂の刀であ
つたと云ふのである」と記しています。
「夢想」とはなにかといえば、Wikipediaに分かりやすく記されていました。
まず坂上田村麻呂が晩年になって伊勢神社に参拝しにいくと、「お前の太刀を奉納しなさい」という夢を見たのだそうです。それで佩刀していた《太刀 伯耆安綱》を奉納したと……のちの世に、今度は源頼光が伊勢神宮へ参拝します。すると今度は「汝に此剣を与える。是を以って子孫代々の家嫡に伝へ、天下の守たるべし」という夢を見ます。それから《太刀 伯耆安綱》は、源氏が継承すべき太刀となったと言われ始めたそうです。そして源頼光は、金太郎などを伴って、鬼退治へ出かけ、見事に首を掻っ切ってくるのです。以降の《太刀 伯耆安綱》は、《童子切安綱》と通称された……と。
まぁ伝説なので、諸説はものすごくたくさんあり、上述した本阿弥光遜さんも、田村麻呂が持っていたっていうのは眉唾ですね…みたいなことを記されています。
ちなみに、先日トーハクに展示されていた《酒呑童子図扇面》を見ると、誰が鬼の首を斬って、どれが源頼光さんなのか分かりませんでした……。源頼光さんは、下の扇面のように兜をかぶっていたはず。もし源頼光さんの佩刀が《太刀 伯耆安綱》だとしたら……上図のとおり、鬼の首を斬ったのは、《太刀 伯耆安綱》ではないような気もします。まぁこの扇面も、だいぶ後になって描かれた、完全なる空想絵ですからね。
ちなみにWikipediaによれば《太刀 伯耆安綱(名物 童子切安綱)》は、室町時代には足利将軍家が所蔵し、最後の将軍・足利義昭まで受け継がれます。その後、なぜか源氏ではない豊臣秀吉に贈られたようで……さらに徳川家康とその子である徳川秀忠へと受け継がれました。その秀忠が兄の結城秀康の息子で越前(北ノ庄または福井)藩主の松平忠直に譲ったようで、その忠直から子の光長に受け継がれます。←ここが解せませんね……徳川秀忠と松平忠直は、叔父と甥の関係でありつつ義父と義子の間柄(妻が秀忠の娘)でもありますが、仲が悪かったとされ、のちに忠直は豊後国へ配流させられています。それで越前北ノ庄藩は、忠直の息子の光長ではなく、忠直の兄弟で光長の叔父にあたる松平忠昌が継ぐように、幕府から指示されています。徳川秀忠は、そんなに仲の悪かった甥っ子の忠直に、大事な《太刀 伯耆安綱》を渡しますかね?
まぁとにかく徳川秀忠から松平忠直へ渡った《太刀 伯耆安綱》は、越前(福井)藩主になれなかった息子の光長に継承されます。その光長も越前藩主にはなれませんでしたが、後には福井と同じくらいに良い土地である(と想像される)越前高田藩主となります。だけれど上述した通り「本当だったら俺が越前藩主=本家当主になっていたはずなのに!」という思いが強かったのか……将軍秀忠の娘で妻の勝姫と一緒になって、いろんな悪評が立つようなことをしてしまいます……まぁ越前(福井)藩とのゴタゴタが続いた揚げ句に、越後高田藩を改易され……親子二代で何やってんのw?……いろいろとあった後に養子が津山藩を治めることになり、幕末まで続きます。
そして明治から太平洋戦争まで、この津山松平家が《太刀 伯耆安綱》を大事に大事にしていたのですが、太平洋戦争の終戦後に、ついに津山松平家が《太刀 伯耆安綱》を手放し、個人蔵となります(誰でしょう?)。そして1962年(昭和37年)に、文化財保護委員会(文化庁の前身)によって買い上げられ、現在は東京国立博物館に所蔵されています。
そのほか、なかなかに逸話の多い太刀なので、Wikipediaなどを読んでいると面白いです。
そして《太刀 伯耆安綱》の隣には、鞘や柄などの拵《梨地糸巻太刀 F-19931-1》が展示されています。
「蒔絵は荒い金粉による梨地」と解説パネルに記されている、この鞘(さや)がむちゃくちゃ美しいです。「昨日完成したんですか?」というくらいに、ぴっかぴかで、光のあたり具合によって微妙に表情を変えていきます。正直いえば、刀剣の刃の良し悪しはいまいちピンとこないわたしですが、こちらの鞘や柄やそのほかの刀装である拵については、もう見ただけで、どんだけすごいんですか! という感じになります。
ということで、国宝だからと言って「この刃ってなにがどう凄いんだろう?」って悩むよりも、隣に展示されていて、パッと見て凄さが分かりやすい、拵をじっくりと鑑賞した方が、刀剣初心者には良いような気がします。
ということで、このへんで