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4歳児のポケットの中
1月某日。
幼稚園からの帰り道、長男(6)と次男(4)が、道路に引かれた白い線の上しか歩いてはいけないというゲームをしながら、キャイキャイ楽しそうに歩いている。
白い線が無い場所に来て詰んだ2人は、「マンホールはセーフゾーンね!」と新たにルールを加えて、マンホールへジャンプしてルートを確保しながら、どうにか家へと近づいていく。
やがて、白い線もマンホールも無いゾーンに来た。さあどうするんだろう?と思いながら見ていると、「おかあさんの影もセーフゾーンにしよう!」とまた新しいルールを作った。
斜め後ろにできた私の影を踏むために、2人がくっついてきて歩きにくい。走って逃げると「まてー!セーフゾーーーン!」とキャアキャア言いながら追いかけてくる。「そこ、白い線あるじゃん!そっち歩きなよ!」と言っても、2人はくっついてきて離れない。もう最初に設定したルールはどうでも良くなっていて、私の影の上を歩くゲームにすり替わっていた。
という平和でほのぼのしすぎた帰り道、やっと家までたどり着こうかというところで次男が急に立ち止まった。
「そうだ!おかあさんにプレゼントがあるんだった!」そう言うと彼は、ズボンのポケットをガサゴソと探って私に何か手渡してきた。
「はい!コレあげる!」
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なんだろうコレは…?
「ありがと。でもコレなに?豆かな?」と聞いてみると、「え?どんぐりの中身だけど?」とのこと。「なんでそんなことも知らないの?」という顔で言われたが、いや知らんがな、と思う。
幼稚園の庭で見つけたどんぐりを、お友達と一緒にめちゃくちゃ踏んづけたり、石で叩いたりしたら割れて中身が出てきたそうだ。ワイルドに遊んでいてとても良い。出てきた中身はジャンケンで勝った次男のものになった。そんなわけで「どんぐりの中身」は、私のポケットへと収められた。
次男(4)のポケットには、いろいろなものが入っている。いろいろなものと言っても、主に「砂」が多いのだけれど、何かの「実」だったり、ポケットに入れたときには綺麗に咲いていたであろう皺々の「花」だったり、「葉っぱ」だったり。「石」だったり。
ある日、次男のポケットから石が出てきた。4歳児のポケットから出てくるには、まあまあ大きめの石だった。
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小っちゃい小石ならまだしも、このサイズの石だから意図的にポケットに入れていたことは間違いないだろう。
こんなもの家の中に置いといても邪魔だし、庭にポイっとしちゃおうと思ったが、一応次男に確認してからにしようと思い、「ポケットに入ってた石、庭に出してもいいかなー?」と聞いてみた。
すると次男が走ってきて「ダーーーメーー!!これはでんせつのいしなんだから!」と、私の手から石を奪った。
「え…?伝説の、石?」
「そう!コレはでんせつのいしなの!だからすてちゃダメ!」
「でっ、伝説の石!?コレが!?あの!伝説の石なの!?」
よく分からないけどとりあえず大袈裟に驚いてみると、にんまりと嬉しそうに次男が言う。
「そうだよ!コレはでんせつのいしなの。ようちえんでみつけたんだよ。だからぜったいすてないで」
「オッケー分かった、伝説の石なら絶対捨てない。大事に置いとこう」
そんなわけで、我が家に置いてある伝説の石。
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ただの石にしか見えないのは、心が汚れているせい。コレは伝説の石。心の綺麗な子供にはちゃんと輝いて見える伝説の石なんだよ。
何度そう言い聞かせても私にはただの石にしか見えない。
私ったら42歳になっても子供の頃から精神年齢あんまり変わってないなーなんて思ってたけど、ちゃんと汚れるところは汚れたんだろう。全然、伝説の石に見えない。
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アプリで加工して、なんとか伝説の石に見えないかやってみたら、伝説の石っていうか呪いの石に見えてきた。どうしよう捨てたい。
とりあえず何かに乗せて飾っておけば、それなりの置き物に見えるかもしれないと思いつき、配偶者がスイスのお土産で買ってきた謎の木彫りの山羊の上に配置してみる。
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私にはただの石にしか見えない伝説の石が、倒れた山羊に乗った石になった。少しだけ物語が見えてきそうな感じにはなったから、一旦これでよしということにして。
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窓際の植物たちの前に飾っておく。
この、どうやったってただの石が、いつか伝説の石に見えるようになるために、私はちょっと心の洗濯をしなければ。
近所の公園で蝋梅が見ごろらしいから、そこに行ってみようかしら。
いや、その前に洗濯物干さなければ。
今日はいい天気で気持ちがいい。
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