増え続けるがん患者と治療の待ち時間。がん薬物療法における課題
がんの罹患者数が増え、また医学の進歩により治療期間が長期化してきていることで、がん薬物療法を行う患者数がますます増加している現代。
一方で医療体制の人員不足や、通院治療と生活を両立する上でのQOL維持向上など、課題も山積しています。
今回は、がん薬物療法における課題について、腫瘍内科医として長年がん診療に携わっている関西医科大学附属病院 がんセンター センター教授の金井雅史先生にお話を伺いました。
プロフィール
金井雅史先生
がん薬物療法における一番の課題は「待ち時間」
ーー現在の医療体制でのがん薬物療法において、 先生が課題に感じていらっしゃるのはどのようなことでしょうか?
がん薬物療法は日々進歩していて、薬の種類が増え、患者さんの予後も改善してきています。
例えば以前はがん薬物療法を行ったとしても1年程度しか生存できなかったものが、新規抗がん剤の開発により2年、3年と生存できるようになってきているがんもあるので、がん薬物療法を必要とする延べ患者数も増えています。
一方で、病院のベッドや看護師さんの数は満足に増えていません。
当院におけるがん薬物療法の一番の課題は「病院での待ち時間」です。
私が勤務する関西医科大学附属病院がんセンターの外来化学療法室には、がん薬物療法目的で受診される患者さんが1日100人近くおられるので、ピーク時には2〜3時間の待ち時間が発生しています。
昨年度の当院におけるがん薬物療法の実施件数は約21,000件でした。
近年、がん薬物療法の実施件数は年間約1000件のペースで増えていますが、スタッフの増員が全く間に合っていません。
ーー解決するためにはどのような方法があるのでしょうか?
医療スタッフが増えないと根本的な解決にはならないのですが、看護師の人手不足が深刻化しており、スタッフの増員は容易ではありません。
現在、私は医療機器メーカーと共同で点滴の自動切り替え装置を開発しています。
この装置が臨床現場に導入されれば、がん薬物療法に従事する看護師さんの仕事でかなりの割合を占めている点滴の薬液パック交換作業を装置が担ってくれるので、看護師の負担軽減と業務の効率化に貢献できると考えています。
通院治療の待ち時間問題、解決の糸口は
ーー働き盛りの患者さんのなかには、有給を使って通院しなければならないなど、治療とお仕事の両立に苦労されている方も多いと思います。解決の糸口はあるのでしょうか
とても難しい問題ですが、例えば抗がん剤の中には、長い間隔での投与(例:2週毎が4週毎)が認められるようになったものもあるので、このような薬剤では間隔が長い投与法を選択することにより、来院頻度を減らすことが可能です。
私が以前見学に行った韓国の病院では、がん薬物療法のための外来が夜間も空いていて、仕事帰りでもがん薬物療法が受けられる体制になっていました。人工透析クリニックのようなイメージですね。
現状日本ではがん薬物療法専門のクリニックを開業するとなると、国が定めた外来化学療法の施設基準がハードルとなり難しいのですが、その辺りの規制緩和がなされれば状況が変わるかもしれません。
またアメリカでは腫瘍内科医は比較的人気が高く、専門医の数も1万5千人を超えているのに対し、日本ではがん薬物療法専門医の数は約1700人と、患者さんの数に対して腫瘍内科医の数がまだまだ足りていないので、その辺りも課題だと思います。
ーー日本とアメリカでは、がん患者さんの治療生活にどのような違いがあるのでしょうか?
日本の保険制度下では誰でも自身が希望した病院に受診することができますが、アメリカでは個人が加入している医療保険によって診てもらえる病院が分かれるようです。
私は2004年から2年間、テキサス州ヒューストンにあるMDアンダーソンがんセンターに留学していました。MDアンダーソンがんセンターは世界的にも有名ながんセンターですが、留学時代、私が加入している医療保険では仮にがんになったとしても、MDアンダーソンにはかかれないと言われました。シビアですよね。
後編へ続きます