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息子の知識の仕入れ先

「満月のことを何て言う?」

お風呂を済ませ、温まった身体ではちみつ入りのアップルルイボスティーをダイニングテーブルで飲んでいる最中だった。

息子はテレビ前のソファに寝そべり、繰り返し読んでいる宇宙の図鑑に目を落としながら聞いてきた。

「え……フルムーン」

少女漫画の「満月(フルムーン)をさがして」、もしくは【推しの子】のヒロイン・有馬かなの曲が浮かぶ。
息子は「ちがう」とだけ答えた。

満月……満月?
スーパームーンとか、ピンクムーンといった名称は耳にするが、それ以外の呼び方なんてあるのだろうか。

「ぼう」
息子はさらりと正解を教えてくれた。

ぼう……そうか!
「望月の」である。

今年の大河ドラマ「光る君へ」でおなじみ、平安時代の権力者・藤原道長が詠んだ和歌で有名なものがある。

この世をば
我が世とぞ思ふ 望月の 
欠けたることも なしと思へば

望月は満月をさす。
藤原道長がついに自分の世となった感慨を、月の満ちた姿に重ねたといわれている。

立ち上がり藤原道長の歌についてまくし立てる私に、夫がスマホから顔を上げ「へー」と感心していた。

「ぼうって希望の望だよね?」
「そう」

息子が歴史を習うのは数年先だ。
彼の興味は惑星へ向いている。

「新月は『さく』」

これは聞いただけで漢字が浮かび上がった。
八朔の朔だ。

なぜ朔なのか調べてみると、このような記述があった。

朔の瞬間には月は太陽と同じ方向にあり、暗い側が地球を向いているので基本的には月は見えません。
このため、三日月のような細い月から遡って定めます。ここから「朔」という名前になりました。

暦Wikiより引用

遡る月で朔。
シンプルだが、何とも粋な名付け方だ。

「望と朔って、小説のキャラの名前にするといいかもね」

小説書きだった私が盛り上がっても、息子はそれ以上何も言わず図鑑の世界に戻っていった。

息子は図鑑だけでなく、さまざまな媒体から知識を仕入れてくる。

先日クイズ番組を観ていたら、難解漢字の問題で「ゆでる」が出題された。

息子は「おれ書けるよ!」と、テーブルの上に放置されていたしわくちゃの折り紙の裏面に鉛筆を走らせた。

ゆでる……ゆでる?
決して画数の多い漢字ではない。だけどそれ以上思い出せない。

突きつけられた折り紙には、黒々とした筆跡で「茹でる」と書かれてあった。

「そうだ、これこれ! すごいね、どこで知ったの?」

やはり興奮気味な私に、息子はこう述べた。

「テレビショッピング」

息子は続けて、ショップジャパンのやたら横文字の長い商品名を挙げ「それで見た」と当たり前のように説明してくれた。

確かに、息子は早朝の土日、ズムサタやアンパンマンが始まる前の延々と続くテレビショッピングを熱心に観ている。

笑ってしまったものの、私はしきりに「○○(息子)、すごいね」と褒めちぎった。
息子は色んなものをよく見ている。

大人の私たちも、息子の知識の仕入れ先を見習ったほうがよいだろうか。


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