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詩「ほかの誰でもない」
アイデンティティー
母よ なにを伝えたいのか
こうして詩を書いている間にも
ぼくの肩に手を置いてくる
なに? と尋ねても
口を結んだままなにも喋らない
しかしまた原稿に目を落とすと
肩に手が伸びてくる
伝えたいことが
ことばにならないのかい?
母よ あなたの思いを
ぼくはことばにすることができない
けれどもあなたのことは
ぼくの持てることばを尽くして
俳句にも短歌にも詩にもするよ
世間が「認知症」という用語で
ほかの患者たちと一括りにする
ほかの誰でもないあなたを
伝えるために