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俳句「記憶よ、いつか甘くなれ」

渋柿や甘くなるまで干す記憶

 日常の中で少しでも楽しみを増やそうと、十年ほど前からわが家では干し柿を作っていた。和歌山県は有数の柿の産地なので、産直市場などには干し柿にする渋柿なども販売されている。

 父の認知症が進み始めた頃、姉が渋柿にする柿を買っておいたところ、一つ減っていたそうだ。たぶん父が食べたのだろう。その渋柿を食べたときの父を思うと、いまでもなんとも言えない気持ちになる。なんだか自分が渋柿を食べたような気分だ。

 父に続いて母もなくなり、今年は干し柿を作ろうかどうか迷っている。渋柿は干すことで甘くなるが、私の記憶が甘くなるまではどれくらい干す必要があるだろうか。

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