健康に文化的に暮らせないのは私のせいじゃない!The Little Match Girl Strikes Back
エマ・キャロル(文)、ローレン・チャイルド(イラスト)、刊行日:2022年9月15日、ページ数:208、ジャンル:フィクション、児童書・YA、ファンタジー、歴史物、対象年齢:9歳以上
あらすじ
舞台は1887年代のロンドン。その数十年前に出され大人気となったマッチ売りの少女は寒さと飢えで死んじゃったけれど、こんどのマッチ売りの少女ブライディー(ブリジッド)の物語は「もっといいエンディング」なのだ。
大晦日の日、何とかガチョウの肉を買って特別な夕食を家族に用意してあげたいと願うマッチ売りの少女、ブライディは物語りを語る才能を生かして町一番のマッチ売りになった。けれど、ブライディと母、弟のファーガルの暮らしは食べ物と狭い部屋の家賃の支払いを毎日心配する生活から抜け出せない。母はマッチ工場で有毒な黄リンに毎日17時間も扱っているため、歯が痛み、顎が腫れる病気になっているが、工場は決して因果関係を認めず、病気で作業が遅れると罰金が課される始末。マッチの火が見せる夢に導びかれ、ブライディは持てる者と持たざる者の差を目の当たりにし、今の貧しい暮らしが良くならないのは決して自分のせいではないことを理解する。マッチの見せる夢を通して貧しい労働者の労働条件改善に腐心する女性の存在を知ったブライディは、最も効果的な手段で反撃にでる‥‥‥!
感想
マッチをする意味で使うStrikeという動詞をタイトルに使って、反撃の意味のStrike backにしているのが洒落が利いていて、思わず本屋さんで手にとりました。物語は実在したマッチ工場と工場主、マッチ作りに従事した女性たちの健康被害と過酷な労働条件、ノルマが達成できない時の罰金を含む虐待的な扱いなど、実際の出来事をベースにしています。ブライディがマッチの夢の中で出会う活動家アニー・ベサントも実在の人物です。作者は巻末の解説でそうした歴史背景を使ってかわいそうなマッチ売りの少女が死なずに反撃する物語りを描きたかったと語っています。実際に起こった出来事と同じようにストライキを行い(これもStrikeなのでさらにシャレになってますね。マッチをStrikeして労働条件改善のStrikeを打って、Strike backするという‥‥‥)、未来を切り開くマッチ売りの少女のお話は、19世紀末の設定でも多くの読者が自分や自分の状況を重ねて感情移入するのではないでしょうか。
イラストも本書の大きな魅力のひとつです。同時代の写真資料を参考に家の壁紙やクリスマスツリー、家具や人々の服装などが描かれ、その力強いタッチとマッチの火のような赤い髪がブライディーのキャラクターをよく表しているし、読者の興味を最後まで物語に引き込む役割を果たしています。翻訳が出るならイラストはぜひこのままで!(営業)