「助産師たちの夜が明ける」を観てきた、の話
なんていうか、どこも似たような問題は抱えてるんだなぁ、という感じなんですが、
今日観てきたのは、それを余計に感じさせるような映画でした。
▽フランス社会の現実
というわけで、今日は「助産師たちの夜が明ける」という映画を観てきました。
日本では8月28日から各地で順次上映が開始されていってるんですが、
大阪では9月27日から、梅田のテアトル梅田で公開されています。
タイトルから分かる通り、病院で勤務する助産師さんたちを主人公にした作品なんですが、
その中でも2人の新米助産師、ルイーズとソフィアを中心に置いて、物語が展開されていきます。
▽あらすじ
5年間の研修を終えて、病院での勤務が始まったルイーズとソフィアの2人。
その勤務初日から、すでに病院は戦場の様相を呈しており、
ソフィアは産前教室、ルイーズはベテラン助産師のマリリンと共に職務につきますが、
このマリリンが、まぁ典型的な『お局様』(笑)
といっても、根はいい人なのは、映画が進んでいくと分かります。
単純に、クッソ忙しいのに右も左も分からない新人を押し付けられたイライラで、マリリンが最初はそうなってたんだな、という感じ。
その中でも日々を過ごしていくうちに、ルイーズは徐々に評価されていきます。
対してソフィアは、自己評価高めで勝ち気な性質。
勝ち気な、というか、見ててはっきり分かるレベルで、功名心を焦るタイプです。
ある日、分娩室に入る助産師の人手が足りなかったところを、ソフィアは立候補して自らを売り込み、
その分娩を無事に片付けたことで、一気に「ソフィアは使える」という評価を手にします。
▽一寸先は闇
しかし、順調無事に進んでいるように見えて、何が起こるか分からないのがお産の現場。
ある日ソフィアが担当した妊婦さんが異様な痛みを訴えますが、その日は機器の不調で、モニタリングが機能していませんでした。
他にも受け持ちの妊婦さんを抱えていたことで、ソフィアは一旦その場を離れますが、その間に事態が急変、分娩センター全体に緊急ベルが鳴り響きます。
別の妊婦さんの出産が落ち着いたタイミングで、ソフィアが慌てて戻ると、緊急で帝王切開が進行中。
なんと、その異様な痛みを訴えていた妊婦さんは、子宮破裂を起こしていました。
帝王切開によって取り出された赤ちゃんは、必死の蘇生措置によって一命を取り留めますが、
ソフィアはこれによってPTSDのようなメンタル症状を抱えることになってしまいます。
それからのソフィアは、ちょっとしたことにも過剰に反応してしまうようになります。
モニターのグラフがちょっとおかしく見えて、「陣痛を止める措置をするべきではないか」と他の助産師やドクターに相談したり、
無事に産まれてきた赤ちゃんの顔色が少し悪く見えたからと、慌てて蘇生措置の準備を進めたり、
明らかに先日の経験がトラウマになってしまっているような様子を見せてしまい、
強制的に休養を取らされることになります。
▽急ぎ働き
ソフィアが休養を取らされることになるまでの間にも、いろいろなことが起きます。
その最もたるものが、移民の妊婦さんを担当したこと。
この移民の妊婦さんは、最初期に受診しただけの未受診妊婦でした。
そんな割と厄介な相手を、ソフィアは自ら受け持つことにしたのですが、まぁ、この妊婦さんが本当に厄介者。
出産自体はなんとか無事に終わったのですが、産まれてすぐのカンガルーケアを拒否。
無断で病院から出ていってしまって、連絡の取りようもなく、ソフィアも含めた助産師連中は困り果てます。
そんなある日、デリバリーが道に迷ったのをヘルプするために、男性助産師のバランタンが探しにいくのですが、
その途中、院内で赤ちゃんの泣き声が聞こえてきたので、何事かと見てみたら、そこにはなんと件の移民が!
なんとここで、バランタンとソフィアは、自分たちが住んでいる部屋にその移民母子を逗留させてしまいました。
ちなみに、ルイーズとソフィアはルームシェアをしており、途中からバランタンも居候しています。
ソフィアとバランタンの独断で行われたことに、半ば置いてけぼりにされたルイーズは激怒。
言い争いをしてしまいますが、とりあえずその夜は部屋に泊めることに。
なお、この時点でソフィアは休職中なので、とりあえず部屋にいる状況です。
朝になって、バランタンが何か電話をしていますが、どうやらルイーズには知られたくない様子。
バランタンが電話をしているのを見て、ルイーズがその電話を取り上げますが、その相手はソフィア。
なんと、一晩泊めた移民が、赤ちゃんを置いて消えてしまったとのこと。
当然、ルイーズはそれを知って改めて激怒。
さらには、その様子を通りがかりで見つけたマリリンにも事態が把握され、
バランタンはマリリンにも怒られることになります。
その日、ソフィアは残された赤ちゃんのために買い物に奔走しますが、
いざ終わって部屋に戻ってきたら、玄関先には件の移民。結局戻ってきてくれました。
▽夜が明ける
その後も、慢性的な人手不足の中で日々の業務がこなされていきますが、
最初は頼りなかったルイーズも、少しずつ成長していき、今ではそれなりの戦力になっていきました。
そしてある日の人員割り振り。
ナースステーションのホワイトボードに、誰が誰を担当するかが書かれていきますが、
ある妊婦さんはルイーズ、そしてまた別の妊婦さんの担当として書かれた名前は、ソフィア。
そう、休職期間の明けたソフィアが帰ってきました。
そのソフィアが担当することになった妊婦さんは、陣痛の痛みもあるんでしょうが、
分娩室まで廊下を歩きながら、ずっと泣き叫んでいます。
また、同伴している旦那さんも、終始不安な様子を隠していません。
「何かおかしくないか?」と思ったソフィアがカルテをチェックしてみると、
なんとその妊婦さんは、2年前に死産を経験していました。
「もしかしたら今回も・・・」という不安と恐怖が、その夫妻をパニックにさせていたのです。
ソフィアともう一人別の助産師がその妊婦さんを励ましながら、
無事に元気な産声が聞こえてきたことで、ようやく夫妻も落ち着きを取り戻し、
ソフィアの表情もどこか霧が晴れたような雰囲気を見せます。
ここに、ソフィアの夜が明けたと見ることができるでしょう。
一方、マリリンは胎内死亡により、8ヶ月で中絶することになった妊婦さんを担当します。
処置自体は無事に終わったのですが、人手不足から来る多忙により、マリリンはその場を離れます。
諸々の現場が片付いてから、マリリンがそこに戻ったのは、なんと5時間後。
「産まれてくるはずだった子供は死んだ上に、5時間もこんなところに待たせて、何のつもりだ!!」
と、マリリンはその夫妻から叱責され、マリリンも返す言葉が見つかりません。
そしてその日のスタッフルームで、マリリンは退職を決意し、みんなに伝えます。
▽医療崩壊
映画はその後、実際にフランスであった助産師たちによるデモ行進の映像で終わりますが、
映画全体を通して見えてくるのは、慢性的な人手不足と機器メンテナンス不備の多発です。
日本でも産科医療の崩壊が叫ばれて久しくなっていますが、どうやらそれはフランスでも同じこと。
この辺り、「フランスという国のシステム」に問題があるようにも感じられます。
劇中でも助産師が「イギリスを見ろ!こんなことは起きてない!」と叫ぶ描写があるんですが、
日本と違って助産師の名称独占がされておらず、男性助産師も存在しているフランスにあっても、
慢性的な人手不足が発生しており、助産師1人辺りのキャパオーバーが著しいことが描かれています。
それに加えて、病院が予算削減に躍起になっており、舞台になっている病院では分娩センターが1フロアだけ。
先述した8ヶ月で中絶することになった妊婦さんも、「同じフロアで処置するんですか?」と困惑を隠していませんでした。
先に述べたように、実際にフランスでは待遇改善を求めて、
2021年に助産師たちが、デモとストライキを実施しています。
その後どうなったのかは、ちょっと俺も報道をチェックしていないので分からないのですが、
社会に問題提起する内容のこの映画が公開されているので、警鐘が鳴らされ続けているのだと思います。
どの国でも確かに少子化は叫ばれていますが、だからといって産科を縮小していいものか。
日本でも、もう何年にも渡って似たような状況が続いており、またそれによる医療事故のニュースも時折出てきます。
確かに産科に限らず医療現場が激務なのは間違いありません。
しかし、それに対しての対策が講じられているのでしょうか。
この「助産師たちの夜が明ける」を通して、医療崩壊の縮図を考える機会にすべきであると感じました。
命の誕生は素晴らしい。
しかし、光の裏にある影の存在を決して軽視してはいけない。
そんなところで、なんかうまくまとまってないですが、今日のところはこんなところにしておきます。
はぐりはるひさがお送りしました。では、また。
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