声
偶然の中で生きている。
それは必然であって偶然ではないから。
偶然の中で生きている僕はいう。
月が綺麗ですねって。
この曲は、大好きな高校の友達が、私のために作った曲の一節だ。
とても厳しかった吹奏楽部を3年間共に生き抜いた仲間であり、卒業してからも遠出をしたり、ご飯を食べに行ったりする旧知の仲である。
私は彼の歌に何度も救われている。
大学2回生の春、人生最大の失恋をした。
ボロボロの私は、おもむろに、この曲を聴いた。
何を隠そうこの曲は、私が付き合った記念に彼が送ってくれた曲だったのである。
彼のどこか懐かしく優しい歌声は、私の荒んだ心を癒してくれた。
全て偶然だったんだ。
だからこそ、これからは偶然の積み重ねをもっと慈しみたい。
彼の声を聴き、そう自然と前向きな気持ちになることができた。
そして1年半ほど前、世界中がコロナウイルスという壁に直面した。
講義はオンラインとなり、部活の延期が続き、再開の目処が全く立たなかった。
海外に行けなくなり、会いたい人に会えなくなった。
そんな中、彼はpurpleという新曲を自身のレーベルで発表した。
この曲は、コロナ禍の世界をモチーフにして作ったのだと、彼は教えてくれた。
世界は僕が思うよりとても残酷だった。
教えてくれてどうもありがとう。
ありがとう。
まだこんな世界を好きにはなれないけど、いつの日か。
いつの日か。
コロナ禍の世界を恨むのではなく、コロナが明けた明るい未来のことを願う彼の声は、
やりたいことがコロナのせいで全く出来なくなったと嘆く私の心に染み渡った。
いや、コロナのせいではない。
彼の歌を聴き、コロナのおかげで出来るようになったことへ目を向けるようになった。
行きたかったインターンシップがオンラインになったおかげで、気軽に参加できたし、自宅でシェアメイトや友人と話す時間が増えた。
何よりも、限られた時間を大切にしなければいけないと再認識することができた。
彼の声を聴くたびに、出来事を悲観的に捉えるのではなく、視点を変え、今を慈しみ、明るい未来になるようにと願うことの大切さを思い出す。
私は、これからも彼の声に救われるだろう。
そして、私の声や言葉、イラストやエッセイ、音楽が、誰かの希望になっていれば良いなと思う。