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きみと湯の町

「まだふわふわしてるよ〜誘ってくれてありがとね」

いつになく上機嫌な君は、揺れる船の小さなベットの中でむにゃむにゃ呟く。

1泊2日の弾丸旅行で、3杯のりゅうきゅう丼と4種類もの温泉を容易くクリアした君。
すごいじゃん。別府市民もびっくりだネ!

お布団の中で、にっこにこの君を見て、内心ホッとした。

だって君は「初対面の人は月に1人まで」なんてマイルールを持っている超絶人見知り屋さんなんだもん。

なのに、旅の最大の目的は【私の雑貨屋さんの終わりを見届けること】だから。

「逃げ出したらごめんね」なんて言ってたけど、目は本気(マジ)だったからな〜〜

8:17
「もう小倉だよーん」
安定の夜勤明けで、寝ずに始発に飛び乗った君。
ドタキャンしたらどうしようかと思ったけど、もしかして、楽しみって思ってくれてる??
ふーん、やるじゃん。

12:27
「もうちょっとだと思う」
まってくれよ、時間経ちすぎだよ。
ソニックだったら1時間ちょっとで着くはずなんだけどな。
あぁ、これは、絶対に楽しみじゃないやつだ。
大丈夫かなぁ。ゆっくりおいで。
無理させてごめんね。

14:00
ひょっこりドアから覗く見覚えのある大好きな顔。
いっぱい話そうと思ったのに、急にお店が混み始めちゃった。
ぎゅうぎゅう過ぎて、君は入れないみたい。
大丈夫かなぁ。1人にして。とってもしんぱい。

15:30
やっと君がこの場所に馴染んできた。
私の友達とも、ゆっくり会話しているっぽい!
お!なんかケラケラ笑っている。
よかったよかった。

そこから閉店まで、君は時々お店の中を見たり、廊下から優しく見守ってくれたりしながら、同じ空間で、最後のお店を一緒に慈しんだ。

好きな人と好きな人が仲良く話すのって、こんなに嬉しいんだ。ほくほくしちゃう。

旅館に戻ったあと、お布団の中で恋人が言う。
「ゆき、格好良かったよ。もっと好きになった」

えへへ。照れちゃう。

なんで格好良かったのかって?
君がいるから。そうに決まってる。

好きな人に見られていると意識して、大きくケラケラ笑ったり、動きがちょっぴりオーバーになったりして。いつもよりも可愛く接客できた気がする。

もし君が同じクラスだったら、こんな風に“可愛い”を、毎日めちゃくちゃ意識した学校生活だったんだろうなぁ。

ううん。それだけじゃない。

今日まで続けてこれたのは、いつも優しく見守ってくれていたからだ。

「はなれていても側にいるよ」って伝えたくて始めた雑貨屋さんだったけれど、それを私に何度も教えてくれたのは、いつだって、君で。

ありがとう。いつも側にいてくれて。
わたしも、もっともっと、だいすきになったよ。
これからも、どうぞよろしく。

「ゆきがいつもお話ししてくれるから、
初対面だと思わなかったよ〜また話したいなぁ」

またいつか、みんなに会いにいこうね。

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