暮らす 愉しむ|茉記
自宅での時間が増えて、日々を暮らす環境が本当にたいせつであることを、身に染みて感じている。
部屋が住むひとのこころの状態をあらわすと聞いたこともあるが、暮らしながら整うことができたら、こんなにうれしいことはない。
家具や手に取れる物や道具はもちろん、音楽や香り、自然と目に入ってくる色、植物の佇まい、風通しや光の入り方や照明も、心地よく過ごすための土台になっていく。
自分を包みこんでくれる空間に、ふと目に入るとゆるんだり、ごきげんさんになれるものがあるといい。
わたしは仕事柄、たくさんの食器を持っていると思われるが、そういうわけでもない。
どちらかというと、幼い頃から印刷物が好きだった。
お菓子の包装紙やキャンディの包み紙から始まり、ショップの紙袋や箱、インビテーション、ミニシアターやライブのフライヤー、写真集、洋雑誌、書籍、レコードジャケット…それぞれの紙質や、使われている色や書体、写真やイラストやデザイン…
缶のクッキーを開けたらあらわれる薄紙も、素敵なカットが施されていたり、文字が描かれていたら
わたしにはたまらない存在になる。
紙が苦手なミニマリストの元同僚は、かつての職場でわたしの資料棚を見て悲鳴をあげていた。
いまは数も減ったけれど、これらはわたしにとって眺めて愉しむものでもある。
わたしの元には、会ったことのないご先祖様が好きだったと聞いているうつわがふたつある。
ひとつは、祖父が好きだったという花器だ。
祖父は昭和11年に旅立ったから、大正から昭和初期のものかもしれないが、背景はなにも分からない。例えがなんとも難しい色で、日本の伝統色から調べてみたら「今様色(いまよういろ)」という色がいちばん近い。今とは平安時代のこと。平安時代の流行りの色という意味で、紅花で染めた赤色を指すようだ。大胆な植物柄が描かれた、ぽてっとした厚手の花器。白くてやわらかな、ボリュームのあるお花がよく似合う。
もうひとつは、曽祖母が好きだったというデザート皿。日本のものだけれど、西洋の香りがする柄のクラシックなお皿に、曽祖母はなにを盛り付けていたのだろう。
どんな暮らしの風景を眺めてきたのか
聞いてみたくなる。
父の転勤で引越しが続いても割れずに、高価でなくとも受け継がれきたかけがえのないうつわたち。
いまはわたしの暮らしに色を添えてくれる存在になり、新たなものがたりがはじまっている。
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