絶対にオススメ出来ない映画「Cloud クラウド」~過大評価に安住した者による御戯れですね~
黒澤清ワールドを評価されます方は、以下読まれますとご気分を害されますのでスルーして頂ければ幸いです。
トップスター菅田将暉が主演、転売ヤーのリスキーな日々の結果生じた反発の増殖に、身の危険にさらされるお話。ですが、前半後半、まるで作品が違うとしか思えない展開をみせる。結果、馬鹿馬鹿しい限りとしか思えない惨憺たる有様に呆れかえる。後半の展開に演技のしようがなく、困惑が主演の菅田に浮かび上がる始末。
開巻早々、町工場に出向き不良在庫の健康器具を叩き買いするシーン。製品の山の前に主人公・吉井(菅田将暉)が達した瞬間、明らかに次のセリフ待ちの空白が画面に映ってしまった。案の定、工場主の困惑のセリフが続くが、人物の流れと映像の流れを把握も出来ない未熟を見せつけられてしまった。いや、それも不調和音を醸し出す黒澤の技法なのだ、と尖がる方もいらっしゃいますが、些かも不穏も不安も感ずることの出来ない芝居で、あってはならない間なのです。
もとより彼はモンタージュの技巧に長けているわけではない。日常に潜む微かな軋みを映像化するのに長けているのは否定しません、いや長けていた、と言うべきでしょう。薄気味悪い雰囲気の廃墟が彼のお得意のシチュエーション、怪しげなライティングにそれは増幅される。そんな不安要素が一気にクレイジーレベルに増幅されのが特徴でしょう。この異常性が問題なのです。観客は何が怖いって、自らの日常レベルの延長線上に現れる違和感が怖いのであって、異常者同士の諍いに増幅されたものなんぞ、実は怖くもなんともないわけです、どうせフィクションなんですから。カットとモンタージュが巧みな監督ならば十分に楽しめますがね。
本作もまさにそこに陥り、後半の西部劇もどきへの拡張は観客にはどうでもいい世界。クリーニング工場の社員だった滝本(荒川良々)がライフル振り回すなんて、ましてや荒川良々ですよ、冗談にも程がある、笑うしかないシーンでしょ。銃を扱う恐怖なんぞ見事に剥ぎ取って、皆が皆巧みに銃をぶっぱなす。おまけに唐突に彼女(古川琴音)が敵役に寝返って、伏線の工夫もせずに現れる、学芸会か。
そもそも監督・黒澤清は「CURE」で出世し、主にヨーロッパの映画祭等での評価を武器に軌道に乗せ、現時点で日本の役者の最高位に属する役所広司の成長と軌を同じくした時期に重なり、評価もうなぎ登りだったわけで。そして「トウキョウソナタ」でそのピークに達した。以降も、海外や批評家にもてはやされ、黒澤ワールドなんて過分な称号にふりまわされ、それでもほぼ年に一作作られるなんて超恵まれてますね。日本人は欧米の評価を崇める志向が強く、黒澤清しかり河瀬直美しかり、なんです。
以降、「贖罪」2012、「リアル 完全なる首長竜の日」2013、「岸辺の旅」2015、「クリーピー 偽りの隣人」2016、「ダゲレオタイプの女」2016、「散歩する侵略者」2017、「旅のおわり世界のはじまり」2019、「スパイの妻」2020、「蛇の道」2024、見事に駄作のオンパレードじゃないですか。一部の批評家には受けがいいかもしれませんが、自己満足のオンパレード。念のため各映画サイトで★☆評価を見てみたら、良くても3.1とか3.2あたり他の作品は3未満がぞろぞろ、一般の観客の満足はまるで得られてないのですね。
私は実は当然に本作は黒澤清作品につきスルーするつもりでしたが、来年の米国のアカデミー賞の国際映画部門に日本代表として選出なんてニュースをみたもので、実際にこの目で確認に至った次第。確実にノミネートの5本には入りませんねこれでは。「侍タイムスリッパー」の安田淳一監督のように苦心惨憺で映画を造り上げている現実からはあり得ないですよ、黒澤清の有り様は。
蛇足ですが、主人公がラストにほっと一安心する根拠が、見つかったハードディスクって笑ってしまった。そもそもタイトルがクラウドなんですからバックアップは当然クラウドでなければ。本気でHDって言ってるとしたら、もはや黒澤清、古すぎます。