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読書感想文|すべての見えない光

この小説を堪能することは、読書体験を堪能することと同義だと思った。

最初はどんな場面・状況を描いているのかさっぱりわからずめげそうになる。でもわからないながらも読み進めていくと、次第に頭の中で登場人物たちの輪郭線が伸びていき、背景が彩られ、世界が構築されていく。作家(と訳者)への信頼性・繋がりが増していく。一言の重みを増していく。登場人物へどんどん感情移入していく。

ドイツの青年兵が「なにもない(ニヒツ)」と言う。その一文に私は心配と感慨の入り混じったような気持ちになる。

同じ彼が野原で歩を進める場面では、心臓がぐうっと締め付けられる。

だけどそれらは、それまでの文章の積み重ねがあるがゆえにそういう感情になったわけで、一文あるいは一部分、要約だけでは決してわかり得ない。この本を読んだ人たちのみ共有できる領域。

そういう読書体験が、まさにわたしが依存しているところだと、この本を読みながら、改めて思った。

第二次世界大戦前後の時代、ドイツの少年兵とフランスの盲目の少女を中心に描かれる物語。この設定だけでも濃厚だが、その描き方も繊細で緻密。活字に慣れていない人には少々ハードルが高いかもしれないが、それなりに本を読む方にはぜひにとお薦めしたい。

「脳が作り上げる世界は光に満ちている。」

p. 49

「目を開けて。目が永遠に閉じてしまう前に、できるかぎりのものを見ておくんだ。」

p.87

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