シェア
水野はつね
2022年4月7日 22:29
いっそわきまえていたつもりでいて足元に流れ込んだ泉の目の覚める温度いやいやながらに歩きはじめる行かなくたっていい道を南国の花の香は勇ましくすらあるひと噛みの甘さをそこから拝借するたび色づく口もとが他愛ない花木のあいだ千切るたび取り落としてもっとさいわいに顔を上げていられればよかったが虫たちの歌う音階がそこかしこで燃えてもがく指先をときどき焦がしていく(ねえ、針を運んで
2021年10月10日 23:07
漱いだ口から淡紅いちじくの色を受け止めきれずに吐き出した口紅を食らって生きることになんの疑いも持たなければよかった拒んだのはいつだったかなぜだっただろうかガーデニア、雨に焦がれるあの白い花がわたしの鼻先を撲りつけるたびガラス越しの影が走っていく校舎裏で泣いていた日も庭のリラの木がはじめて咲いた日も雨を浴びて誰もいない坂で歌った日もいつも輪郭をあやふやにして誰か
2021年5月19日 22:41
語りたい景があふれているときのかえって静謐な(しんとした幼子にいつか来る死を思わず噛みしめてしまったような払い落とせない寂寥の水時計、わたしの足元からとめどなくせせらぐ川かわせみが飛びたってあ、と思うときには大きな獲物を連れ去って残されたものだけがただ透いている果てしのないかべがみの白に迷ってそこにそっと額を当てる迷う先にひとつしたたり落ちるとすればそこにはどれほど純
2021年4月23日 00:34
夏生まれで、日にやけて、南国のフルーツが好きで、だからってあんまり陽気ではない。 このあいだ雑貨店でひとめぼれして、宝石でも選ぶときみたいに恐る恐る買ったトロピカルフルーツドロップがスクバの中でカラカラ鳴る。ピンクはグァバ、みどりがキウイ、淡い黄色がパイン、オレンジがマンゴー。もうじき夏だから、飴が溶けてべたべたになる前に食べきらなくちゃ、と思うけど、もったいなくて、それに教室には友だちがいな
2019年9月24日 23:37
泳げもしないのに、海に行きたいと、そう彼にねだった。本当のところ、(なんて気障な物言いだと自分でも恥ずかしくなるけれど、)もうこの世界のどこにもいたくなかった。辛うじて、陸と海の境目になら居場所のようなものがあるような気がして、やっとのことでここまで逃げてきたのだ。夏になったって海水浴場になることもない、地味でさびれた砂浜は、なんだかすごく私にお似合いな気がした。もっとも、潮はすっかり満ち