見出し画像

2023年 上半期に読んだ本52冊 - 読書日記

こんにちは。

昨年末に読んだ本をまとめて紹介するnoteを書いたのですが、あんまり長すぎるのと、時間とともに記憶がだんだん薄れていってしまうため、今年は上半期で区切っていちど整理することにしました。

前に書いたnoteはこちら👇

2023年はヘビーな古典と同時代の小説どっちも読むぞ と書いていました。

達成度は、よくもなくわるくもなくという感じです。

読みごたえがある本は時間がかかるので冊数ペースは落ちましたが、もとより数をこなしたいわけじゃないので気になりません。
だいたい目的とか目標とかなく漫然とこなすのが自分の性にあっていて、それが本読みの醍醐味だと勝手に思っているので良いのです。

それでは今回も印象に残った本をピックアップして紹介します。
読んだ本の一覧は最後に載せています。

ちなみに、ブコウスキーとドストエフスキーについては個別に書いたnoteがあるのでそちらをご覧ください。👇

白鯨のThis is it 感

世界文学のClassicと名高い『白鯨』を、ずっと読みたいと思っていました。

画像:メルヴィル『白鯨』の書影
いちばんレイアウトが読みやすそうだった講談社文芸文庫版に

たぶん本気で白鯨を語ろうとしたら一読では済まされず、膨大な時間と海のように深い思考を求められてしまうので、それは老後の楽しみにとっておきましょう。

ひとつ印象的だったのは、白鯨は想像より遥かに破壊的な小説だった、ということ。

冒頭50ページえんえんと世界の鯨にまつわるテキストの羅列が続くかと思えば、いきなりシェイクスピアのような戯曲形式になったり、研究書ですか?とツッコミたくなる生態学の解説が始まったり。

いつ果てるともなくどこに辿りつくかわからない重厚な文章のコラージュは、まるで漂泊中の悪夢的な船酔いのようです。

上下巻だいたい1200ページくらいのうち、フツーの物語調のところは体感的に300ページくらい

そんなトンデモな本書が世界文学のClassicとされていることは、個人的にとっても嬉しいことでした。

つまり小説というのは、型を破ることこそ型なんだと。はじまりからして奇書であることを宿命づけられた、そんなジャンルなんだなと実感できたのです。

ぜんぜん読んでないのでテキトーなこと言いますが、たぶんドン・キホーテにしろトリストラム・シャンディにしろ、あるいは源氏物語とかも、なにかが当時破壊的だったからこそ、古典としていまなお支持されてるのではないでしょうか。

60〜70年代のロック音楽が今よりずっとアヴァンギャルドに聴こえることにも似ています。

フレッシュな本読み体験に飢えているかたには、白鯨、激推しです。

村上春樹のスロウ・タイム

これまで、あまり村上春樹の新作には興味を持ってきませんでした。具体的には『アフターダーク』以降の作品はまったく読んでないと思います。

でも最近ホグワーツ・レガシーをやってみたら面白かったり、呪術廻戦が面白かったり……、同時代のものを同時代に楽しむのって大切だなあと思うことが増えたので、いっちょ読むかと思いこの辞書みたくぶあつい単行本を手にとりました。

ごく個人的な村上春樹を楽しむコツがあります。
それは村上春樹の作品だと思って読まないことなんですね。

何冊か読んでいくうちに”ぽい”か”ぽくない”かに脳みそが持ってかれるようになり、いちいちスパゲティとかジャズとかいう記号が印象に残ってしまいます。なので新人作家が書いたものだと思えば、フレッシュな気持ちで読むことができます。

……。

さて『街とその不確かな壁』について言えば、正直そこまでエキサイティングな読書ではありませんでした。

画像:村上春樹『街とその不確かな壁』の書影

これは『ねじまき鳥クロニクル』あたりから顕著になっていると思うのですが、物語をどう続けるかを物語のなかで検討するような記述が目立って見えます。

そのプロセスを否定するつもりはないですし、むしろほとんどの文学はそういうプロセスで生まれてきたと思うのですが、最終的なテキストはもう少しタイトにしても良いのではないか、と思ってしまうのです。

ほとんどの場合に訪れる読後感は「大きな風呂敷がファジーに畳まれた」というものです。わたしが『ねじまき鳥』以降の村上春樹作品に共通して感じる印象は「前半はめちゃくちゃ面白く、後半は不完全燃焼」。無理に畳まなくとも良いので、もっとタイトに、コンパクトに切りとられた物語を読みたい。それがいち読者としてのわたしの傲慢な気持ちです。

……。

好きな過去作をいくつか再読しました。

風の歌を聴け』と『1973年のピンボール』です。

画像:村上春樹『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』の書影

初期作品ばかり褒めてしまうのは耳がアップデートされないバンドのファンみたいで心苦しいのですが、やはりこの2冊は別格です。

魅力のひとつは、さっき白鯨のくだりでも言ったような奇書性というか異質さだと思います。形式的にも文章的にも、フツーの物語小説ではなく、そこがとても面白い。

もうひとつは、独特のゆったり流れる時間。村上春樹の作品の人物は、現実では誰も気にとめないことに気づいたり、誰も時間を使わないことに時間を使ったり、誰も目にとめないものを描写したりします。この妙に現実離れした余裕が村上春樹の醍醐味だと思います。

仕事なんかが忙しくなってくると温泉とか湖とか人里離れたところに逃げ出したくなるものですが、そんな小旅行の代わりに初期作のスロウ・タイムに浸るのはおすすめです。短編では『パン屋再襲撃』収録の「ファミリー・アフェア」なんかもかなりスロウです。

街とその不確かな壁』の第二部はスロウな時間が流れていて良かったです。

ベルンハルトの道

昨年末に掲げた目標のひとつがベルンハルトに挑むことで、とりあえず『地下』を読みました。

面白かった!

原因』『地下』『』『寒さ』『ある子供』と続く自伝的五部作のうちの2つめ。たまたま本屋で見つけたので2つめから読むことにしました。

画像:トーマス・ベルンハルト「地下」の書影

テキストは硬派で改行もほとんどなく、読みごたえがあります。ただ物語にわりと動きがあるのと、描写もイメージしやすく、ベルンハルトのなかでは読みやすいほうだったのではないかと思います。

学校を中退し、「反対方向へいく」という直感にしたがって地下食料品店で働きはじめる少年。冷たく怒りに満ちた言葉を追っていくうち、人生で何を大切にするかは他人に委ねず決めていくのだという魂に触れた感覚があり、没入してしまいました。

最近『息』の和訳が出版され、五部作は残り『寒さ』の訳を待ちわびるだけの状態となりました。下半期も少しずつベルンハルトを読んでいきたいと思います。

時代をまたぐ音楽本

音楽に関する本は3冊読みました。たまたま、時代を3分割するようなチョイスになりました。

ポーリン オリヴェロス - ソフトウェア・フォー・ピープル

演奏する/聴くという行為の境いを横断して音楽を追求したオリヴェロス姐さんの論考集。執筆時期は1963-80年ごろ。

画像:ポーリン・オリヴェロス『ソフトウェア・フォー・ピープル』の書影

ジェンダー、教育、メディテーションなど幅広い切り口。というか、普段わたしたちがパッと考える音楽というものが、いかに狭い領域に閉じこめられているかを実感させられます。おすすめです。

オリヴェロス姐さんが遺した音楽はSpotifyなどサブスクサービスでも聴くことができます。


原 雅明 - 音楽から解き放たれるために ──21世紀のサウンド・リサイクル

2000年代も終わりに近づくころの本。

画像:原 雅明 『音楽から解き放たれるために』の書影

デジタル配信の本格化、フィジカルな媒体とそれにともなうライナーノーツ等の音楽メディアの減少……。

データ化・アーカイブ化されていくサウンドを参照することで、新しい音楽がつくられていく。そんな環境を単なるサンプリングとは区別してサウンド・リサイクルと名づけています。

2023年の音楽産業はとっくに新しいフェーズに入っているけれど、時代の考察のしかたがとてもためになります。ディスク・ガイドも嬉しい。

原雅明さんはブラックスモーカーから出していたMix CDもすごく楽しいです。


島村一平 - ヒップホップ・モンゴリア: 韻がつむぐ人類学

モンゴルにはいちどだけ観光に行ったことがあります。

ガイドのひとが高台の施設に登ったとき「あっちの街は富裕層が多く、あっちの街は貧困層が多くて、モンゴルでは格差の問題があって……」ということを言っていて、わざわざそんなこと言わなくても……と思ったのですが、この本を読んでさらにモンゴルの解像度が上がりました。

画像:島村一平 『ヒップホップ・モンゴリア』の書影

これはけっこうすごい本で、モンゴルにヒップホップが受容されていく歴史や現状を分析していきながら、社会問題も音楽文化もどちらにも問いを投げていくような、美味しすぎる内容です。発刊は2021年。

社会主義の解体や格差の問題など、政治や社会情勢によって音楽の形はいかようにも変わっていくのだという当たり前のことに気づかされます。

この本ではたくさんのモンゴル・ラップが紹介されています。

個人的に好きだった NENE - Sugar Mama を聴いてみてください。

2023年 上半期に読んだ本 リスト

後に、読んだ本をひたすら列挙して終わりにします。
★マークがついている本は再読、マークがないものは初読です。
読んだ順ではなく、作家とジャンルにわけてなんとなく並べています。

  • ブコウスキー - パルプ ★

  • ブコウスキー - 郵便局 ★

  • ブコウスキー - 死をポケットに入れて ★

  • ジム・トンプスン - ポップ1280

  • ジョン・リドリー - 地獄じゃどいつも煙草を喫う

  • フィツジェラルド - グレート・ギャツビー ★

  • サリンジャー - ライ麦畑でつかまえて ★

  • ドストエフスキー - 罪と罰(上・下)

  • エミリー・ブロンテ - 嵐が丘(上・下)

  • ジョイス - ダブリナーズ

  • ピンチョン - ヴァインランド

  • ポール・オースター - ガラスの街

  • ポール・オースター - 幽霊たち

  • ポール・オースター - 夜の樹

  • メルヴィル - 白鯨(上・下)

  • サミュエル・ベケット - いざ最悪の方へ

  • セリーヌ - なしくずしの死(上・下)

  • ヴィアン - うたかたの日々 ★

  • ベルンハルト - 地下

  • ヘンリー・D・ソロー - ウォールデン ——森で生きる

  • レイモンド・カーヴァー - 水と水とが出会うところ

  • ケイレブ・アズマー・ネルソン - オープン・ウォーター

  • クワン - ギャングスタ

  • エステル=サラ・ビュル - 犬が尻尾で吠える場所

  • 村上春樹 - 風の歌を聴け ★

  • 村上春樹 - 973年のピンボール ★

  • 村上春樹 - ノルウェイの森(上・下) ★

  • 村上春樹 - パン屋祭襲撃 ★

  • 村上春樹 - 街とその不確かな壁

  • 舞城王太郎 - 煙か土か食い物

  • 後藤明生 - 首塚の上のアドバルーン ★

  • 大江健三郎 自薦短編

  • 乗代雄介 - 十七八より

  • 乗代雄介 - 本物の読書家

  • 岡田晋 - 眼鏡とオタクとスケートボード

  • デヴィッド・グレーバー - 民主主義の非西洋起源について

  • ケイトリン・ローゼンタール - 奴隷会計 支配とマネジメント

  • ポーリン オリヴェロス - ソフトウェア・フォー・ピープル

  • デパント - キングコング・セオリー ★

  • アラン・コルバン - 静寂と沈黙の歴史

  • 佐藤 文香 - 女性兵士という難問

  • 原 雅明 - 音楽から解き放たれるために ──21世紀のサウンド・リサイクル

  • 島村一平 - ヒップホップ・モンゴリア: 韻がつむぐ人類学

  • 穂積 和夫 - 絵本 アイビー図鑑

  • 小林 泰彦 - ヘビーデューティーの本

  • キネレット・イフラ - UXライティングの教科書

  • ドラゴン学

#読書感想文
#わたしの本棚
# 読書日記


いいなと思ったら応援しよう!