キラキラとした恋愛がなつかしい
「ひとみさん、聞いてくださいよぉ〜、彼氏がぁぁ」
出産する前に働いていた職場で、新卒女子の恋バナをよく聞いていた。
「なんかぁ、彼氏がこういう態度なんですけど、どう思いますぅ?」
「彼氏と夜遅くまでLINEしちゃって、寝不足なんですよ」
「彼氏の友だちが職場近くまで来るのでぇ、ちょっと昼休み一緒にランチできません、すみません!」
うんうん。
そう頷きながら、たまにアドバイスみたいな感想みたいなことを言っていたような気がする。
かわいらしくて素直な女の子で、まさにモテるタイプ。
年配のパートさんも微笑みながら、新卒女子の恋バナを聞いていた。キリッとした職員の方は、昼休みにズバッとした意見を言っていた。
「そんな彼氏、やめな!」
ズバッと言われたことに落ち込む新卒女子をなだめながら仕事をしたこともあった。
でも、とにかく「そんな話、聞きたくないよ」といった空気はなく、みんなが見守るように聞いていた。
あるとき、新卒女子がいないところで、パートさんが私に言ったことを最近思い出している。
「なーんか、いいよね、新卒女子ちゃんみたいなキラキラした話。私ぐらいの年になるとさぁ……」
べつに非難してるわけでも、自分の境遇を嘆いているわけでもない。
「なんかいいよね。そんな話をしながら、仕事できるってさ」
そのとき、私がどんな返答をしたのかは覚えていない。
でも、いまなら。
キラキラとした恋愛。目を輝かせて話す姿。彼氏のちょっとした言動に一喜一憂する彼女。
キラキラとしてまぶしい。キラキラした恋愛がなつかしい。
いくつになっても、何も変わっていないつもりだけど、見た目も感情も変わってしまったのかもしれない。
新卒女子は、だいぶ前に結婚して県外に引っ越した。
いくつになっただろう。
「あかあさーーーん!」
スマホに表示された新卒女子のLINEアカウントのアイコンを見ていると、子どもに話しかけられた。
「絵の具で、オレンジ作りたいのぉ、どうやって作るのか分からないのぉ!!」
「分かった分かった、赤と黄色を混ぜてさ」
「絵の具出ないぃぃ」
まったくもうと言いながら、夏休みで暇をもてあましている子どもの工作を手伝う。
「おかあさんって、パソコンで何のお仕事してるの?」
「うーんとねー」
「うわぁ、スヌーピーの耳がこわれたぁ!!!」
「分かった分かった、縫ってあげるから」
「公園行きたいけど、暑くて行きたくないよぉ」
「そうだねぇ、さっ、絵の具絵の具!」
これが、今の私の日常だ。
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