「慙悔の桜」・・・父の言葉に娘たちが取った態度は。超ショートショート。
『慙悔(ざんかい)の桜』
「綺麗だったぞ。来年はみんなで行こうな」
母の墓参りを終えて帰宅した父が、肩に桜の花びらを一枚乗せて言った。
「そうだね」
私たちは、口先だけの同意を父に伝えた。
強い拒絶ではなく、遠回しの不同意である。
賛成しているふりをして、近くなったところで、急な用事を入れる・・・
親不孝な娘たちだ。
「地方の古い墓地なんて、綺麗なわけないじゃん」
「遠すぎて一日仕事になるのは嫌」
「お父さん一人で行ってくれば」
そんな内心を悟られぬように、笑顔で取り繕って話題を変えてしまう。
まったく親不孝な娘たちだ。
次の年の母の命日も、その次の年の命日も、父は私たちを誘い続けた。
そして、珍しく言い出さないな、と思った次の初春、
父は母の元に旅立った。
「こんなことなら、一度くらい来てあげれば良かったな」
妹の呟きは、皆の気持ちを代弁していた。
納骨を終えた墓石に向かい、
一心に経を唱える住職の背中を見つめながら、私は思った。
本当に親不孝な娘たちだ。
次の瞬間、温かな春の風が桜の枝を揺らし、
目の前が桜色に染まるほど、たくさんの花びらが舞った。
花びらは瞬く間に磨き上げた御影石に張り付き、お墓を桜色に染めた。
『お父さんが見せたかったのは、これだったのかも』
皆、同じことを考えていた。
「来年も来ようね」
姉の言葉に私たちは大きく頷いた。
住職の肩に、桜の花びらが一つ、とまった。
おわり
*加筆再録
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