「現代の日本にこそ言いたい!」・・・褒められたからと言って考えるのを止めるな!
「マクベスの妻と呼ばれた女」
本所地域プラザ BIGSHIP 作・篠原久美子 演出・坂口瑞穂
心に刺さる作品である。
1999年に日本劇作家協会優秀新人作品という賞を取っている戯曲。
これまでにも様々な舞台になっているが、今回は朗読劇。
有名な「マクベス」の知られざる裏側を描いた作品であるが、単純な裏幕モノなどではない。
「尼寺へ行け」など他のシェイクスピア作品のセリフを流用したり、
柔らかな笑いも狙った構成で、魅力的な戯曲である。
戯曲自体は何年も前のもので、今回の公演も終了しているので、内容を語っても良いと思い、少し触れてみる。
冒頭。役者たちは真っ白い服で登場する。
登場する役者は全員ほぼ出ずっぱりで、苦労がしのばれる。
やがて、白服の役者たちは、進行に従って、舞台の上で役柄に沿った衣装(ケープなど主に1点のみ)を纏っていく。
例えばラヴィニアは、赤いケープだけだが、着けた瞬間にお城の料理係に見えるのである。最初に無垢な白い服装で出てくる演出が成功している。
しかもこれは、逆回転的に見ると、「名前の無い人物」を連想させる仕掛けと読むのは、考え過ぎだろうか。
一般に朗読は、芝居に比べて動きが少なくなりがちで、ダイナミズムに欠ける、という人もいるが、こういった小さくとも効果的な演出が今回は功を奏していたように思う。
後半のエネルギッシュなセリフの応酬には興奮した。
さらに、様々な隠喩暗喩が隠されていて、それを読み取っていくのも楽しい。最も強烈なのは、登場人物の一人、ヘカティのセリフ。
作者が訴えたい情念が、たっぷりと込められている。
例えば、
「褒められて良い子になって、良い子でいるために、考えることをやめていけない」
「疑って疑いなさい」
そして極めつけは
「あなたの名前は何ですか?」
である。
ありふれた言葉だが、戯曲のタイトルにも結び付く重要な意味を持っている。
その言葉の求める重みに、観客は心打たれるのであろう。
そして要所要所で、白い衣装をまとったダンサーが登場するのだが、このセリフを発する前には能面の「小面」を付けていた。ここにも日本という事を意識させようという意志を感じる。
考えてみれば、この戯曲が生まれたのが1999年。
20年以上も経っているので、本来なら、「何言ってんの。今の日本は良い子になんかならないで、みんなが考えて、こんな素晴らしい社会、それぞれの個性を大切にする社会になったじゃないか」と堂々と言えなければいけないのだが、未だに実現できていない。
逆に、この戯曲の重みが益々増え続けているのが悲しい。
これほど、言いたいことをはっきりと織り込んだ作品を観たのは久しぶりだ。
私ももっとテーマと向き合わなければ・・・。
おわり
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