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「やっぱり出た、詐欺の募金」・・・災害時には詐欺が横行しやすい、気をつけて。

能登の地震で被災された方々には、心よりお見舞い申し上げます。

被災して大変な思いをしている人がいるのに、それをネタにして詐欺を働く人がいると言うから、腹が立つ。

災害時には詐欺が横行しやすいらしい。
個人で被災地への支援金や義援金を募集すると言う分かりやすいものから、
大きな予算を付けて全く別の必要のないものにお金を使うというものまで
色々である。

何にしても、募集している者の正体と、使い道を最後まで確かめるのが大切だ。
それを突き詰めていくと、
結局、現地に行って自分の手で渡すのが良いことに気が付く。

ちなみに、ある外国資本のSNSでは、募金などを受け付けているが、そ際の手数料が6割(募金として渡した内のSNS側が60%持って行く。手数料が何%であるかは公表していない)で、その後も途中の機関が手数料を重ね、最終的に支援を必要としている人に届くのは、僅か1割だったそうだ。(海外の支援を必要としている地域にいる人が、自分で募金してみて分かったという)

世知辛い世の中だからこそ、人の善意はちゃんと届いてほしい。

と言う訳で、義援金ではありませんが、今回は詐欺にまつわるお話です。

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『刹那の恋は飛び去る定め』

鳥の巣に枝と書いて、巣枝(スガエ)君。
この珍しい苗字のせいなのか、彼は昔から鳥に縁がありましたし、
本人もそれを多分に意識しているようです。

「巣立ちの時かなぁ」

倦怠期にさしかかった自分の恋を、スガエくんはこう呼んでいました。
お相手は、同じ大学の多香美さん。

「タカミ」という名前は、
南海時代からホークスファンだというお父さんが付けたもの。

その影響で彼女も、
ホークスの選手なら高校時代の珍プレー好プレーも
語れるという根っからの野球少女でした。

対するスガエ君は、全くの運動オンチですが、
休日になると俳句を詠むために野山に出かけて吟行《ぎんこう》するという行動派の文化系男子。

そんな彼らが付き合い始めたのは、国文学の授業で、

『春めくや鷹さへ鳩になりかけて』

という正岡子規の句が取り上げられ、
たまたま隣り合って座っていたスガエ君と多香美さんが
鷹で盛り上がったのがきっかけでした。

付き合い始めの頃は、
趣味も考え方も違うことが面白く感じられたのですが、
体育系女子と文化系男子の会話は次第に噛み合わなくなり、
二人とも少し物足りなくなっていたのでした。

「このままではダメだ。今まで野球は苦手で避けてたけど
こちらから近づいてみよう」

スガエ君は、計画中の二人旅で、選手の成績や特徴をサラッと言ってのけ
彼女を驚かせてやろうと考えました。

そして、こっそりプロ野球名鑑を購入し、
巣ごもりと称して、一人で選手名鑑の内容を覚え始めたのです。

それから数週間後。
多香美さんから、スガエ君に暗い声で電話がかかってきました。

「最近あまり会えないし、私たちこれ以上はやっぱり無理だと思うの。
ごめんなさい、別れましょう。予約してある旅行は私がキャンセルの
手続きをするから。本当にごめんなさいね」

突然の別れ、突然の巣立ちに、スガエ君は手にしたプロ野球名鑑を
バサリとその場に落としてしまったそうです。

「いや。旅行は別の友達と行くから良いよ」

プライド半分やけくそ半分で、その場を取り繕ったスガエ君でしたが
そのまま出発日までぼーっと過ごし、
結局、二人分の旅費を払って、多香美さんと行くはずだった南の国に
ひとりぼっちで出発したのでした。

さて、ラブラブ旅行の筈が直前で傷心旅行になってしまったスガエ君、
貧すりゃ鈍する、ついてない時には、とことんついていません。

眺めが良いという世界遺産の展望台は工事中で入れず、
鏡のように空を映すという透明な湖は、
大雨で泥水が流れ込んで見る影もありません。

おまけに、雨宿りを兼ねて入った有名な歴史博物館で、
神の使いである白頭鷲《はくとうわし》の彫刻に
履き古したチノパンの裾を引っ掛け、
大きな裂け目を作ってしまったのです。

「ちくしょう。どこまで鳥に呪われているんだ。
これじゃあ、恥ずかしくて歩けないじゃないか・・・」

裂け目は膝の後ろから回り込んで股の上あたりまでパックリと広がり、
ちょっと動くと下着が見えてしまいます。

スガエ君が、博物館の隅で小さくなって人目を忍んでいると、
同い歳くらいの綺麗な女性が日本語で話しかけてきました。

「どうかなさいましたか?」

異国で日本人に出会えたことで安心したのでしょう。
スガエ君は、わが身に起こった恥ずかしい事件を包み隠さず話したのです。

「それは大変。私、携帯用の裁縫セットを持っていますから、
お縫いしましょうか」

親切な女性は、しばらく周りを見渡すと、
うんっと頷き、スガエ君に段取りを説明し始めました。

「あの女子トイレには、乳児のおむつ替えの台があったと思うから、
そこで私がチノパンの裂け目を縫い合わせますね。
その間あなたは、ちょっと恥ずかしいかもしれませんが
横の個室に入って静かに隠れていてください。
縫い終わったらドアの上から投げ入れますから履きなおして、
私が『他の女の人はいませんよ』と合図したら出てきてください」

「はい。ありがとうございます」

地獄に仏とはこのことです。失恋の傷を癒す旅で、こんな親切な人に出会うなんて、もしかしたらこれは運命の出会いなのかもしれない、とスガエ君は思いました。

誰もいない時を見計らい、女性の手引きで女子トイレに入ったスガエ君ですが、緊急事態とはいえ、やはり恥ずかしく。
顔を真っ赤にして周りを見る余裕もありません。

「急いでチノパンを脱いでください。
それと縫い物をするのに何かクッションになるものがいるわね」

「じゃあ。このバッグを使ってください」

スガエ君は持っていたバッグとチノパンをおむつ替えの台に置くと、
一番近い個室に飛び込み、ほぉ~と息をつきました。

初めて入った女性用個室の中で、スガエ君はやることも無く
ささっ、さささっという布の擦れる音だけを聞いているだけです。

「あのすみません。ご親切なお方、お名前を教えて頂けませんか?」

「え? 名前ですか?」

女性の声には少し警戒の色が感じられました。

「あ。いえ。ナンパとか、そんなんじゃありません。
僕は東京の大学に通うスガエと言います。
鳥の巣に枝と書いて、巣枝です。
こんなに親切にして頂いたのに、相手の名前も聞かなっかったとあっては
日本に帰って僕が恥をかきます。送り出してくれた友人達に笑われてしまうでしょう。
袖ふれ合うも他生の縁、よろしければ下の名前だけでもお教え頂けますでしょうか」

一人でこっそりと旅に出たのに、送り出してくれた友人達だなんて、
大ウソです。それに普段は使わない古風な言い回しまで動員して。
大袈裟な物言いになった事を、スガエ君はちょっと後悔しました。

『これじゃあ。逆に何か企んでるみたいに聞こえるなぁ』

そんな心配をよそに、女性は名前を教えてくれました。

「千の鶴と書いて、ちづるです」

スガエ君の頭に、猛禽類の鷹を追い払う白い鶴のイメージが浮かびました。

『鷹去りて 鶴きたりなば 我救う』

『失いし 恋は恋にて 忘れうる』
 
『鶴慕う 旅の恥こそ 恋の始まり』 字余り。

おまけに、鳥がらみの下手な俳句や川柳まで創作し始める余裕が出てきたのです。

『やっぱり僕は鳥に縁があるんだな。名前のおかげかな・・・』

さっきまで鳥に呪われているとか言ってたのに現金なものです。

個室の中でどんどん気持ちが盛り上がっていったスガエ君は、
意を決して訊いてみることにしました。

「し、失礼ですが・・・あの、ちづるさんはご結婚されてますか?」

「いいえ。独身ですよ。
主婦はひとりで外国の博物館なんかに来ませんよ」

「あ。すみません。裁縫セットなんか持っていて
とても用意が良いから、主婦なのかなと思ったものですから・・・」

言い訳をしながらスガエ君は、次の言葉を必死に考えました。
そして、

「すみません。縫って頂いたお礼に・・・」

とまで言ったところで、ちづるさんが言葉を遮りました。

「あ。大変。誰か入って来たわ。しばらく声を出しちゃダメですよ」

しーっと黙るように言われ、スガエ君は慌てて口を押えました。

ちづるさんが現地の言葉で何か喋っているのを聞きながら
スガエ君は思いました。

『ドア越しに、黙ってちづるさんの様子をうかがっているなんて、
まるで昔話の「鶴の恩返し」だな・・・恩を返すのはこっちだけど』

スガエ君はこの不思議な出会いをもたらしてくれた白頭鷲の神様に感謝しながら、この後ちづるさんを誘うつもりのディナーのことを考えていました。

『泊っているホテルの近くに有名なシェフのイタリアンがあるって
ガイドブックに書いてあったな。
高いのかな。でもお礼だからあんまり安いのもな・・・』

ところが、しばらくして静かになっても、
ちづるさんから『もう大丈夫』という声がかかりません。

「10分くらい経ったかな・・・」

不安になったスガエ君は、個室のドアの上端に手をかけ、
懸垂する要領で、恐る恐る外の様子を覗いてみました。

おむつ替えの台には、裂けたままのチノパンと
口の開いたスガエ君のバッグが残されています。

注意深く周りを見渡し、そっとドアを開けて個室を出てみると、
女子トイレには、他の女性どころか、ちづるさんの姿もありません。

慌てて台の上のバッグを確かめると、財布の中の現金が全部消えていました。

スガエ君は、急いで裂けたままのチノパンを履き、
女性が入って来ないのを確かめてトイレの外に出ると
バッグで股間の裂け目を隠しながら、ちづるさんを探しました。

しかし、博物館のどこにも彼女はいません。

こうして、スガエ君の失恋旅行は、最悪の結末を迎えたのでした。

その後、ホテルに戻ったスガエ君は、
悔しさと哀しさで一晩中泣きじゃくったそうです。

帰国後、俳句仲間にこの話をすると、一句詠まれました。

「旅先で 出会いし鶴は サギだった」

散々からかわれたスガエ君ですが、彼が偉かったのはこの後です。

巣枝すがえなんて姓だから変な鳥が飛んで来るんだ』

などと、自らの生まれを恨むことはなく、

「名前だけで、縁があるとか短絡的すぎたんだ。やっとそれに気づけたんだよ」

と、自分のこだわりから、堂々と巣立ちしたのでした。

そして数年後、
スガエ君は参加した趣味の句会で、心根が優しく趣味も同じ
新しい彼女を見つけ、目出度く結婚することになったのです。

今ではスガエ君は、

『幸せな愛の巣作りをする』

とばかりに、仕事が終わるとまるで伝書鳩のように、真っ直ぐ家に帰るそうです。

でも、スガエ君、奥さんとお付き合いを始めるまでは、とても慎重でした。

なぜなら、奥さんの名前が「おうか」さん。

鳳凰ほうおうおうに|華《はな)と書くからです。

                       おわり


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