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「パパントラ・フライヤーズ」・・・命懸けの空中飛行。


旅先で見つけた物語の数々を紹介していきます。


闇ばかり見ていると、気付かないことがたくさんある。


『パパントラ・フライヤーズ』

メキシコは、伝統芸能の宝庫である。

そこには、古代から伝わる民族舞踊と、
スペインを初めとするヨーロッパの影響を受けたものが共存している。

ひとりの男が、メキシコ中央部にあるパパントラを訪れた。

友人にも恋人にも裏切られた男は、故郷からなるべく遠く離れたいと考え、
思いつめた余り、地球の裏側にまで旅をしてきたのだった。

「メキシコの伝統芸能の中には、命懸けで行う伝統芸能があるんですよ」

特に目的も無かった男は、ガイドが薦めるまま、この土地を訪れたのである。

薦められたのは、パパントラ・フライヤーズ。
先住民の儀式のひとつで、高さ30mのポールの頂点に付けられた1本のロープで
吊るされた4人の男が、旋回して宙を舞い、降りてくるというものだ。

男は、高いポールの先にぶら下がり、クルクルと回る男たちを見つめた。
そして、たった一本のロープを頼りに危険な宙乗りをする姿に
自分の不安な心情を重ね、思わず呟いた。

「怖くないのか・・・」

すると、男の隣にいたメキシコ人が豪快に笑いながらに答えてきた。

「ハハは。勿論怖いさ。怖いに決まってるだろう。
だけどな、怖さを知れば知るほど、生きてるありがたみって奴が分かるんだぜ。
だから、生きてるうちは大いに楽しめば良いのさ」

そう言うと、メキシコ人の男は高笑いをして、連れの女の肩を抱きよせた。

「あんた。生きてるかい? ハハハハ」

そして笑いながら去っていった。

ひとり残された男は、暮れていく空を見つめながら
メキシコ人が言っていた言葉を思い出していた。

「生きてるうちは大いに楽しめば良いのさ」

赤く染まる空に宵の明星が輝いていた。

男には、暗く沈んでいく空の中の小さな輝きが、
本当に愛しく思えていた。

闇に気を取られて、その中にある光を見つめられなければ、
人生を愛し続けることは出来ない。


              おわり

パパントラ フライヤーズは、メキシコを代表する観光イベントのひとつ。
安全装置なども無く、ポールの上から伸びたロープを足に絡め、男たちが旋回して降りてきます。
メキシコ観光では外せないイベントのひとつですね。

近くには、ユネスコ世界遺産に登録されているエルタジンの遺跡もあります。



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