【読書感想文】三浦しをん『木暮荘物語』
文庫本が欲しいなあ、と書店に入り、ふと目に入った本でした。書店イチオシ!とのポップ付きで平積みされていたのです。作者は三浦しをんさん。最近読んだ『ののはな通信』が記憶に新しく、新しい作家さんを開拓するか迷った挙句に購入しました。
舞台は「木暮荘」。小田急線世田谷代田駅から徒歩5分、生活音が筒抜けのおんぼろアパートです。アパートの住人と、周囲の人たちを主人公に、7つの短編が収録されています。
終始、「こんな人いる!?こんなことある!?」の連続でした。登場人物は一癖も二癖もあるひとばかりです。物語を「現実にありそうか」という尺度で見るのは無粋ですが、呆気にとられながら読みました。
203号室の繭の元には、音信不通になった元彼、並木が転がり込んできて、今彼の晃生と3人で共同生活を送ることになります(シンプリーヘブン)。繭が勤める花屋「フラワーショップさえき」の店長は、夫の淹れるコーヒーを泥味に感じるようになり、その秘密を探ります(黒い飲み物)。並木は「フラワーショップさえき」の常連客、ニジコの元で居候を始め、彼女との距離を縮めていきます(嘘の味)。201号室のサラリーマン、神崎は、床の穴から階下の女子大生、光子の生活を覗き見することが生きがいです(穴)。光子は子どもの産めない体ですが、友人の赤ん坊を1週間世話することになります(ピース)。アパートの大家、木暮は、亡くなった友人の言葉をきっかけに、セックスしたいという欲望を持て余します(心身)。木暮荘の近所に住む美禰は、駅のホームに生える男根に似た物体を発見し、それを契機に知り合った前田と仲を深めます(柱の実り)。
どの物語にも共通しているのは「性」です。70代で性欲を持て余す木暮に、最初はドン引きしました。が、デリヘル嬢を呼んでも「お喋りコース」を選ぶところで、ちょっと可愛いかも…とつい好感を覚えてしまいました。光子の性生活まで覗く神崎には、木暮以上にドン引きしました。ただの変態じゃなくて犯罪です。しかし光子はあっけらかんとそれを受け入れます。結局、当人たちがいいならいいか…と諦めにも似た気持ちになります。謎の男根に愛着を持ち、自らのスカートで隠そうとする美禰の様子には、電車内で思わず吹き出してしまいました(マスクしていてよかった)。変態と言っていいような人ばかりなのに、不思議と彼らは魅力的です。そして、いろいろあるけどみんな頑張って生きてるんだな…と妙に穏やかな気持ちになるのです。
余談ですが、いちばん好きな話は「シンプリーヘブン」でした。元彼と今彼との共同生活、普通だったら修羅場になりそうな展開なのに、鍋を囲んだり川の字で寝たり、奇妙で穏やかな暮らしにほのぼのしました。ドラマ化か映画化してくれないかなぁ。