『きらきらひかる』に魅了されている
江國香織さんの『きらきらひかる』を、夢中になって読んだ。
『すきまのおともだちたち』以来、2度目ましての江國さん。あらすじの「妻はアル中」が気になって気になって読みたくなり、仕事帰りに書店で購入した。
お、お洒落だった……!夫は医者で、妻はイタリア語の翻訳者。キュンメル、コアントロー、カリフォルニアとフロリダのオレンジ!ひえーすごい世界だ……となりつつも、ページを捲る手が止まらない。そしてすっかり虜になって、先ほど2周目を読み終えた。興奮冷めやらぬままこれを書いている。
以下、ネタバレを含みますのでご注意ください。
笑子は嵐みたいな女性だった。鬱の濁流に飲み込まれると、(そうでなくても)すぐにお酒に手が伸び、大声で泣き喚き、物を投げつける。主治医は「心配ないでしょう、よくあることだ」と言うけれど、なんらかの治療が必要では……?と思ってしまったほど(私見です!)。
情緒不安定で、ひどくわがままに思える彼女。しかし、ふとした瞬間に優しさが垣間見えるのだ。
睦月と紺(睦月の恋人)の関係に気を配り、とりわけ紺を思い遣るさまがとても好ましかった。睦月の大切なひとを軽んじたり妬んだりせず、大切にする。「そうしなきゃ」と義務感に駆られてするわけではなく、無意識に、自然と、大切に思うからこその振る舞いをしている。それがとてもいい。
しかし、ふたりを大切に思うが故に、睦月への恋心との板挟みになって苦しむ。「紺くんが睦月の……(大事なところなので控えます)……いいのに」の台詞は、切なくて不憫で胸がぎゅーんとなった。
対する睦月、優しすぎるよー!と何度内心で感服したことか。
感情を乱されずに笑子の激情を受け止める態度、医師として培ったものなのか、あるいは彼の性格的なものなのか、いずれにせよ恐れ入るほどの落ち着きぶりである。
笑子への恋愛感情はないにしても、彼なりに、妻として大切に思っているのが伝わってくるシーンがいくつもあって(脳外科を受診した笑子に対し、睦月が「全然ちがうよ」と言うくだりとかね)。そのたびに胸が温まるが、睦月と笑子が互いを思う気持ちはベクトルが違うから、同じ次元で交わることはない。よかれと思ってやったことが空回りして笑子を苦しめる。それが輪をかけて切なかった。
そして、誰に対しても誠実であろうとする人となりがもうね、……嘘ついちゃえばいいのに!なんて歯痒く思ってしまったけれど、彼の、芯が強いがゆえの不器用さが、愛おしかった。
そして睦月の恋人、紺。物語は笑子と睦月の視点で交互に進むので、紺の感情が一見して読み取りにくい。
最初の印象は飄々とした冷笑的な、マイペースな男の子。けれども、睦月に対して狂おしいくらいに強い想いをもち続けていることが、だからこそ彼も苦しんでいることが、終盤でよくわかる。さらに、恋人の妻であるにもかかわらず、笑子を真剣に思い遣っていることも(睦月を殴っちゃうところは背筋が震えた)。3人で仲睦まじく過ごすさまは愛おしくて、やっぱり切なさが付きまとう。
ラストの3人の関係性はとても刹那的に思えるものだけれど、不思議と明るい気持ちで読み終えた。
だって3人とも、世間の「こうあるべき」という観念を飛び越えて、"今"を生きているのだもんね。それぞれに、深いところで互いを思い合っているのだもんね。
「このままでこんなに自然なのに」と言った笑子の言葉が蘇り、あらためて胸に迫る、そんなラストだった。
さて、すっかり江國作品に嵌ってしまいそうな予感がしている。さっそく近所の書店に駆け込んで、『いくつもの週末』と『彼女たちの場合は』(ともに講談社文庫)を買ってきた。少しずつコンプリートしていくのが楽しみ。
チョコレートを準備して、ワインでも飲みながら読もうかしら🍫🍷