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「給与デジタル払い解禁」について解説しました

こんばんは!

このnoteでは、現役銀行員や銀行出身者の方向けの副業ノウハウをお伝えしています。

今日は、先日解禁の方針が示された「給与デジタル払い」について書いていきたいと思います。

給与デジタル払いとは?

給与デジタル払いとは、LINE Payや楽天PayのようなQRコード決済アプリを活用して、給料を振り込むことをいいます。

そもそも給与は、人々が生活する上で非常に重要な役割を担っています。そのため、労働基準法において、以下の「賃金支払い5原則」を規定し、労働者に対して給与が適正に支払われるようにしています。

【賃金支払い5原則】
通貨払い:現金もしくは銀行振込のみで支払う

直接払い:本人に直接手渡しもしくは振込む
全額払い:貸付金との相殺は不可
毎月払い:毎月1回以上支払う
一定期日支払い:支払日は毎月○日と決める

従来、給与の支払方法は、現金が原則であり、従業員の同意があれば銀行振込でも可能という整理でした。多くの企業では給与を銀行振込で支給していると思いますが、銀行振込は例外扱いというのが法律の建て付けです。

「給料振込に同意した覚えなんかないよ」という方も多いかとは思いますが、実際は雇用契約書の中に記載されていることがほとんどで、企業はそのタイミングで同意を取得しています。

今回の政府による「給与デジタル払いの解禁」は、この5原則のうちの「通貨払い」の原則を変更し新たに決済アプリでの支払いを認めるというものです。

労働者への影響は?

では、まず労働者の立場から見た時に、今回の方針変更はどのような影響があるのでしょうか?それぞれメリット・デメリットを検討してみたいと思います。

【メリット】
・銀行振込→決済アプリへのチャージの手間がなくなる

決済アプリを利用するときは、銀行口座やクレジットカードと紐付けてチャージをする必要がありますが、決済アプリに直接給与が振り込まれれば、その手間が省けます。これが、給与デジタル払い解禁の1番のメリットでしょう。

また、同じ決済アプリ同士の送金は無料ですので、今まで銀行振込をすることが多かった個人は、振込手数料を減らすことができるかもしれません。

【デメリット】
・銀行と比べて、決済アプリ事業者が倒産した場合の保護体制が不十分
・異なるアプリ同士の送金ができない
・現金として引き出すときに手数料がかかる
・従業員の立場が弱い会社においては、決済アプリ支払を強制される可能性がある

①決済アプリ事業者が倒産した場合の保護体制が不十分

決済アプリを運営している事業者は、法的な用語で「資金移動業者」と呼ばれます。資金移動業者は金融庁の登録を受けた事業者しかなることができず、当然登録に際しては金融庁の実質的な審査が入りますので、誰でもなれるわけではありません。

とはいえ、銀行は「登録」よりもさらに審査が厳しい「免許」を取得しなければならず、一般論としては資金移動業者は銀行と比べて安全性が見劣りします。

ですので、資金移動業者が破綻した場合にどうするんだ、という議論があるのです。

銀行が破綻した場合は、預金保険法に基づき1000万円まで補償がなされます。
一方、資金移動業者も、送金途中または滞留している金額の100%以上を供託等をしなければなりませんので、資金の保全という観点では問題なさそうに思いますが、破綻してから実際に労働者に対して資金が支払われるまでに時間がかかってしまうことが問題のようです。

政府としては、給与デジタル払いを行うことができる事業者に一定の基準(資金保全や破綻時の支払い体制の構築、個人情報の保護等)を設けて、安全性を確保する方向とのことです。

②異なるアプリ同士の送金ができない

銀行と違って、異なるアプリ同士の送金ができないため、LINE Payを使っている人が楽天Payを使っている人にお金を送金したい場合に困ったことが起こるかもしれません。

上記の例の場合は送金してもらう側が楽天Payをインストールしないといけませんね…。めっちゃめんどくさそうです。アプリの一強化が進みそうですね。

違うアプリ同士でも送金できるようになることにも期待です。

③現金を引き出す時に手数料がかかる

決済アプリに貯まっているお金を現金化する時には、銀行口座に戻す手続きが必要です。今の決済アプリの多くは、この口座に戻す手続きの時に、手数料をとります。

銀行の場合は、ATMでお金を下ろすときに、手数料がかからない場合が多いため、給与デジタル払いのデメリットになるといえそうです。

この点、政府は月に1度は現金化を無料にすることを、給与支払いができる決済アプリの条件にすることを検討しているとのことでした。

④従業員の立場が弱い会社においては、決済アプリ支払を強制される可能性がある

給与デジタル払いについては、従業員の同意が前提となります。

しかしながら、会社にとってはデジタル払いの方がメリットが大きいため、従業員の立場が弱い会社においては、有無を言わさず決済アプリでの支払いを強制されるリスクがあります。

会社への影響は?

では次に、労働者に給料を支払う会社の立場から見た時に、どのような影響があるのでしょうか?

【メリット】
給与支払の手数料が削減できる

銀行振込時に必要な給与振込手数料よりも、決済アプリを通じた送金手数料の方が、一件あたりの手数料が安くなると想定されます。

ちなみに、みずほ銀行が主体となって提供する決済アプリ「J-Coin Pay」は、企業の経費精算時に従業員へ送金できる機能「J-Coin Biz」を持っていますが、J-Coin Bizの導入により、「これまで以上の利便性を実現しながら、企業の大幅な手数料削減に貢献します。」(J-Coin Bizホームページ)と謳っていることから、それなりに手数料は安くなると言えるのではないでしょうか。

給与振込手数料は、毎月必ずかかってくるものになるので、この部分を削減できることは、会社にとっては非常に大きなメリットとなります。

【デメリット】
・同意取得の手間がかかる
・銀行振込とデジタル払いが混在したときに事務コストがかかる

給与デジタル払いを始める際には、従業員から同意を取得する手間がかかります。従業員数が多い会社だと、この意思確認を行うのに結構なコストがかかることが予想されます。とはいえ、最初にやってしまえば、あとはかかってこないので、それほど大きなデメリットではないと言えるでしょう。

また、銀行振込とデジタル払いが混在するケースも想定されます。

銀行振込とデジタル払いは、それぞれ送金の手続きが異なるので、銀行振込単体のケースと比べて、より多くの操作をしなければなりません。ルーティンに落とし込むまでは、地味に大変かもしれませんね。

まとめ

個人的には、今回の方針変更において、労働者には、それほど大きなメリットがあるようには思えませんでした。クレジットカードを使ってチャージしたほうがポイントが溜まりますし、そもそもチャージ自体がそんなに手間だと思ったこともありません。

一方、会社の立場から見た時には、デメリットよりもメリットの方が大幅に大きいような気がします。給与振込手数料は、銀行にとっては安定的な収益源ですが、裏を返せば会社にとってはボディブローのように聞いてくるコスト源です。

今回の方針変更が、会社側の立場に立って行われたものとは思いませんが、結果としてはそのような形になっているのかもしれませんね。

今回の方針変更が、銀行にもたらす影響については、別記事で考察しておりますので、ぜひこちらもご覧ください!

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