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古代は「仏教」、現代は「啓蒙主義」

古代史の勉強をしたり、実際に奈良のお寺を回っていると、奈良時代の社会を支える虚構(=社会を成り立たせる物語)は仏教(今は啓蒙主義)だったんだな、と改めて感じます。

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(薬師寺:2021年春、以下同様)

今に生きる我々がお寺を訪れるのは、多くの人は観光資源としての建築や仏像など、芸術鑑賞やちょっとしたお願い事をするためだと思います。しかし当時の人にとっては、芸術体験やちょっとしたお願いのためために訪れたのではなく、病気や貧困などの真剣な悩みを解消するために訪れていたでしょうし、その目的で当時の政治権力者は建立していました。芸術のために建立していたわけではありません。

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(東大寺)

[もちろん今でも厄除け(岡寺)・がん克服(大安寺)・縁結び(不退寺)などなどはあり]

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(明日香村の岡寺)

こうやって考えると、昔の人と今の我々とは、お寺はだいぶ違った姿でみえていたんだなと思います。

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(奈良市南郊の大安寺)

特に奈良時代は、天然痘などによるパンデミックが政治を大きく左右した時代。先日拝観した東大寺も、主には感染症対策のために建立したそう。寺を建立するだけでなく、都まで何度も遷都(恭仁京→紫香楽宮→難波宮)ので、パンデミックをいかに解消するか、が当時の社会の最優先事項。

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(恭仁京:太極殿跡地)

やはりいつの時代も多くの死者を出すのは「悪」であって、なんとかこの「悪」を解消しようと必死にやるべきことをやっていたのでしょう。

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(吉野山、金峯山の仁王像:国立奈良博物館にて)

今の新型コロナによるパンデミックは、啓蒙主義=科学的知見に基づいて、緊急事態宣言やロックダウンをしつつ、最先端の科学の力を活用して、治療薬やワクチン開発で対処。未だ根本的な治療薬は開発できていませんが、ワクチンは前例のないほどのスピードで開発され、すでにイスラエルなどの先進諸国は、パンデミックを克服しつつあります。日本もあと半年ぐらいで、全世界的には後1年半ぐらいでパンデミックは収まりそうです。

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(室生寺)

過去のパンデミックも新型コロナと同じく数年間で収束したらしいですが、今よりもはるかに多くの死者を出していました(人口の数十%)ので、啓蒙主義の威力たるや、恐るべき威力です。そして未だ啓蒙主義を超える虚構がこの世の中に存在しない以上、啓蒙主義をベースに社会を成り立たせるほかないのが現代社会です。

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だからといって啓蒙主義が万全というわけではありません。身体的健康は啓蒙主義でどんどん解消されていくでしょうが、メンタル的な領域、つまり心の不安や幸福感などは、だいぶ医学・心理学・脳科学などの知見によって、とっかかりはできつつあるとはいえ、根本的には啓蒙主義では解決できないでしょう。

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(法隆寺)

しかし仏教などの宗教は、幸福感や心の平安を解消するための方法を今でも我々に与えてくれています。教典を勉強し、修行し、祈ることなどによって多くの人が今でも心の平安を感じています。

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(興福寺)

フッサールが100年前に警告したように啓蒙主義では解決できない問題、つまり心の平安や幸せといった領域に関しては、今でも宗教がその役割の一端を担っているのです(私の場合は現象学という哲学です)。

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