老化防止の方法とは?『運動の神話(下)』より
生物学的な知見からは、「運動」はアンチエイジング(老化防止)に有効だという結論に。やはりここでも運動なんですね。
■老化現象とは
文化功労者でもある生物学者、朝島誠によれば、生物の身体というのは代謝機能によって体を構成する物質(=タンパク質)がどんどん入れ替わり、タンパク質が合成されては分解されていく過程そのものが「生物そのもの」だといいます。例えば人間の場合は、約半年ですべてのタンパク質が入れ替わるらしい。
老化現象とは、合成されては分解されている、その代謝の機能がどんどん劣化する現象のこと。特に合成されるにあたって必要となる幹細胞の機能の劣化が一つの原因であり、アミノ酸→タンパク質を合成するDNAの欠損によって、その合成力が落ちていく過程だといいます(詳細は以下参照)。
一方、本書によれば、老化現象とは「一連の不快なプロセスが細胞や組織、臓器のダメージを与えるために生じる現象」のこと。一連の不快なプロセスとは「酸化」と「糖化(褐変)」「炎症反応」「ミトコンドリア機能障害」など多数。
*酸化(身体のサビ):体内でエネルギーを発生させる際に生まれる活性酸素が他の分子から電子を奪うことですが、体内で実際に起こる酸化は、DNAを破壊し、酵素を不活性化し、タンパク質を損傷させます。
*糖化(身体のコゲ):糖とタンパク質への加熱によって生じる反応(いわゆる「コゲ」のこと)。この反応は組織を傷つけ、血管を硬化させ、腎臓を詰まらせるなどのダメージを与える。
要するに、身体組織の損傷の拡大とその損傷を修復するメカニズムの劣化が老化現象ということではと思います。
■老化を妨げる身体システムとは?
これまで「運動は老化の進行を妨げられる」という実験結果は多数あるのですが、なぜ妨げられるはわかっていませんでした。つまり「相関関係はわかっていても、因果関係はわからなかった」のです。
それでは因果関係、つまり「なぜ運動すると老化を妨げるのか?」
なぜなら、運動によって意図的に身体組織を損傷させると、身体自身が一生懸命その損傷を修復しようとして身体修復システムが稼働し、このシステム(アフターバーンという)によって、既存の代謝で損傷した身体組織もまとめて一気に修復させてしまうから。
著者はこの現象を「コストのかかる修復仮説」と名付け、だから「運動は老化を妨げられる」という仮説を提唱。
具体的には、以下のプロセスによって人間は老化を妨げられるといいます。
⑴運動
①運動するとコルチゾールやアドレナリンが分泌される
②心臓の動きが速まり、蓄えていたエネルギーが放出される
③筋肉が急速にカロリー消費
④細胞の機能を低下させる老廃物が大量排出
⑤ミトコンドリアからも有害な活性酸素が大量排出
⑥体中のDNAなどの分子を損傷
⑦同時に筋肉に微小な傷が発生
⑵アフターバーン(=修復・維持システム)
①副交感神経が、心拍数を緩やかにしコルチゾールのレベルを低下させ、使われなかったエネルギーを筋肉や脂肪細胞に戻すことでエネルギー貯蔵量を補完
②組織の損傷に対処するため、最初の炎症反応を起こし、その後に抗炎症反応を起こす
③活性酸素は、必要以上の大量の抗酸化物質の生成によって除去
④細胞から老廃物を除去
⑤DNA変異や損傷したタンパク質やDNAに付着したゴミ(エピジェネティックな修飾)を修復
⑥骨のひび割れを修復
⑦ミトコンドリアの交換や追加
上のフローをまとめたのが下図。
このように、運動によって身体の修復維持システムにスイッチを入れることにより、人間の身体は、これまで以上にその機能を強化することができる。
ちなみにこの修復システムは、高齢者に限った話では当然ありません。
我々のような中高年でも同じです。自分の年齢以上に若返りたければ、まず「運動によって修復システムを稼働させること」ということです。