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地理・歴史学

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人の価値観は、外的環境に大きく影響されます。地球全体に関して時間軸・空間軸双方から、どのような環境のもとで我々が今ここにいるのか?解明していきたいと思っています。
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2022年6月の記事一覧

宮本常一『忘れられた日本人』を読む 網野善彦著 書評

<概要>宮本常一著『忘れられた日本人』を題材に、主に「老人・女性・子供・遍歴」&「東日本と西日本の差異」について、著者の説を加味しつつ紹介した講演録。 <コメント>著者は、神奈川女子短期大学時代に、10年間本書をテキストにして講義していたというのですから、最も『忘れられた日本人(宮本常一著)』を読み込んだ人と言えるかもしれません。 本書は主に以下4つの問題について本書内容の紹介とともに著者オリジナルの見解を加味しています。 ⑴昔の日本女性は、経済的に自立し女子旅もしてい

「忘れられた日本人」宮本常一著 書評

<概要>日本全国の地方の「生きた生活」をフィールドワークした著者が、いくつかの領域(農民、漁民、馬喰など)における江戸時代から明治時代にかけて生きていた日本人たちの生きざまを克明に紹介するとともに、その背景についても若干考察した民俗学の古典。 <コメント>人類史は、大きく分けると ①狩猟採集社会      (人類史の大半を占める原始社会) ②古代ー中世(近世)社会 (穀物国家&反穀物国家) ③近現代社会        (啓蒙主義の普及以後) に分かれそうだな、と最近感じ

和歌山県の風土:「穢れ忌避」がもたらした熊野の伝統

これまで、熊野に関する著作を読んできましたが、実際に熊野を訪れた印象とあわせてここで整理。 ■熊野の自然環境熊野の自然環境は何といってもその雨の多さ。日本有数の雨の多さで、新宮市の降水量は年間3,332mmと東京の約2倍の雨の多さ、山の深さと相待って熊野川をはじめとした清流が隈なく流れ、湿気のこもった山深い幽玄な環境をもたらしています。 「熊野は死者の国(=他界へのあこがれ)」といった宗教民俗学者五来重の表現した熊野のありようは、奈良・京都からみて、南の山奥に位置すること

和歌山県の風土:「高野聖」と高野山

■高野山について高野山は、名著「高野聖」を著した宗教民俗学者にして高野山大学の教授でもあった「五来重」が そして と表現。 ⑴自然環境 高野山は標高800-850メートルの山に囲まれた日本最大級の菩提所として、日本全国から死霊が集積する独特の空間なのです。実際にいってみると、紀の川エリアから高野山へは、車で20kmほどの奥にあり、その山深さを実感できます。 標高800−850メートルということは、100m標高が高くなるごとに気温は0.65℃低くなるので、平地よりも5

和歌山県の風土:環境編

今回和歌山を3週間フィールドワークして感じたのは、紀州=和歌山県は、紀の川を中心とする沖積平野である紀ノ川エリア「紀北」と紀伊山地「紀南」で大きく自然環境や文化が異なること。 【紀北】中央構造線に沿って吉野川を上流とする紀の川が流れ、東西に沖積平野が形成された自然環境は、どちらかというと徳島県の中央構造線沿いの吉野川と連続したエリアといった方がいいかもしれません。 紀の川(およびその支流)によって浸食された土砂が堆積した沖積平野が広がり、河岸段丘を形成し、特にその河口周辺