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日本とは何か?

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日本列島における人間の営みについて思想を軸にした書評中心のライティング。
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#風土

『再考 ファスト風土化する日本』三浦展著 読了

<概要>戦後のアメリカ的な近代化(モダン化)の一環として地方で消費環境が均一化したことを「ファスト風土化」と称した一方、コミュニタリアニズムをベースにしたポストモダン的な多様性が都市を中心に芽生えていることを紹介しつつ、ファスト風土の次の消費環境の可能性を紹介した著作。 <コメント>過去に大阪都構想は、 都構想を推進する「啓蒙主義者」と、都構想を阻止しようとする「コミュニタリアン」の戦い と紹介しましたが、 啓蒙主義(=近代化)の地方における類型が、著者の問題視する「

「地域学入門」山下祐介著 書評

<概要>西洋近代化によって希薄になった「地域」の生活環境や社会、歴史や文化などをよりよく知ることで、私たち自身を知り、私たち自身を高めることができると提言した書。 <コメント>「その土地の地理や歴史が大きく人間の価値観に影響しているのでは」という問題意識から風土に関する著作を読み進めていますが、本書は社会学としての風土論=地域学についての入門書。 わたし的には風土論を展開するため、今年5月に半月ほど奈良県に滞在し、奈良県を対象に勉強して感じたのは、歴史的にはとても意味があ

「熊野から読み解く記紀神話」 書評

<概要>「すみっこ」という意味の隈の場所「熊野」を題材に、熊野に縁を持つ研究者、小説家、地元の活動家などが持ち寄った熊野にまつわる日本神話・民話の世界を紹介した著作。 <コメント>先日、早稲田大学のオープンカレッジで、池田雅之先生が主催する講座を聴講したきっかけで読ませていただきました。 本書の中でも尾鷲出身の池田先生のほか、熊野市文化財専門委員長の三石学さん、作家の中上紀さん(中上健次の娘)など、熊野にゆかりの深い方々がそれぞれ、自分のテーマを持ち寄って書かれています。

「熊野詣」五来重著 書評

<概要>まだ熊野古道が世界遺産になるずっと前の1967年出版と半世紀以上前に書かれたものとは思えないほど、神仏習合・修験道・そして原始宗教の織りなす、総合文化たる熊野を多面的に味わえる名著。 <コメント>「熊野は謎の国、神秘の国である」から始まる本書は、古い本ではあるものの、ちっとも内容が古びていないことにまず感心します。以下興味深い三つのエピソードを紹介。 ⒈「熊野別当」という専制君主熊野三山を支配したのは「熊野別当」という専制君主。「自由の命運」著者アセモグル風に言

和歌山県の風土:「穢れ忌避」がもたらした熊野の伝統

これまで、熊野に関する著作を読んできましたが、実際に熊野を訪れた印象とあわせてここで整理。 ■熊野の自然環境熊野の自然環境は何といってもその雨の多さ。日本有数の雨の多さで、新宮市の降水量は年間3,332mmと東京の約2倍の雨の多さ、山の深さと相待って熊野川をはじめとした清流が隈なく流れ、湿気のこもった山深い幽玄な環境をもたらしています。 「熊野は死者の国(=他界へのあこがれ)」といった宗教民俗学者五来重の表現した熊野のありようは、奈良・京都からみて、南の山奥に位置すること