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日本とは何か?

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日本列島における人間の営みについて思想を軸にした書評中心のライティング。
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記事一覧

「呪詛」とはノーシーボ効果のこと『文化がヒトを進化させた』 「その3」

NHK大河ドラマ「光る君へ」をみていると「呪詛」、つまり誰かを病気にしたり死に至らしめるための方法として「呪詛」が登場します。 具体的には権力闘争に勝つために、藤原道長のお父さん、藤原兼家などが陰陽師の安倍晴明に依頼して、殺したい政敵を呪詛させるのです。 果たしてこの「呪詛」は、本当に効果があるのでしょうか? 『文化がヒトを進化させた』の中に、 「ノーシーボ効果」というのがあります。ノーシーボ効果とは、プラシーボ効果の逆で、患者や被験者が悪い結果を予想していると、実際

歴史学としての「光る君へ」『紫式部と藤原道長』 読了

<概要>NHK大河ドラマ「光る君へ」に関する「事実の歴史」とも言える著作。第一次資料をもとに紫式部と藤原道長に関してどこまでが史実といえて、どこから先が想像と言えるのか、を紹介。 <コメント>2024年の大河ドラマ「光る君へ」の時代考証を担当している歴史学者、倉本一宏による著作。 大石静の脚本が素晴らしすぎるのか、吉高由里子や柄本佑の演技がうますぎるのか、それとも桁違いにお金をかけているNHK大河ドラマならではのセットが素晴らしいのか、わかりませんが「光る君へ」に今完全に

なぜ出汁は日本の水がいいのか?『「美食地質学」入門』より

<概要>地球科学&気候学&生物学の裏付けに基づく植物相・動物相を踏まえた日本各地の美食を支える各種食材&料理を解説したマグマ学者の著作。 <コメント>本書は、食べ歩きと地理学が大好きな私の興味とドンズバ一致する著作で、複数回に分けて紹介したいと思います。 まずは日本の出汁について。 ⒈料理を美味しくする三つの旨み成分とは?以前ミシュラン二つ星の某和食屋の料理長と話した時に、彼曰く、 と言っていたことを思い出します。すでに彼はこの店を辞めてしまいましたが、この言葉がまさ

日本と途上国の貧困の違いとは?『世界「比較貧困学」入門』

<概要>日本含む世界中のフィールドワークに基づき、日本の「相対貧困」と発展途上国の「絶対貧困」の違いを比較することで「貧困」とは何か?を深く考察した2014年出版の新書。 <コメント>コートジボワール含む西アフリカの世界でも類を見ない不思議な通貨「セーファーフラン」の勉強で原寛太のYouTubeの視聴をきっかけに彼の番組の視聴者となりましたが、 特に日本の貧困問題について以下動画を視聴し、動画の中の「日本の貧困は孤独である」という視点が非常に興味深く、原貫太が動画中で紹介

「徳島の風土」日本一低い自殺率の町『生き心地の良い町』岡檀著

<概要> ある意味日本一自殺率の低い町「徳島県旧海部町」と他の地域を調査・比較しつつ、自殺予防に効果のある因子を抽出して、自殺予防対策への一つの回答を生み出した著作。 <コメント> 以前、統計学YouTuberのサトマイの以下動画で彼女が紹介して面白そうだったので、早速購入・読了したのですが、これは自殺防止にも当然役に立ちますし、人間の本質的な特性を垣間見ることのできる必読の著作です。 ⒈徳島県旧海部町とは?実は今は海部町はありません。旧海部町(以降「海部町」)は、県南端

「京都の風土」なぜ金閣は燃えたのか?『金閣炎上』

<概要>金閣寺を放火した犯人の修行僧、林養賢が、犯罪を犯すに至るその背景を出生から親子関係から、師弟関係まで精密な取材をもとに描いた小説的なスタイルをとったノンフィクション。 <コメント>梅原猛著『京都発見』で、金閣寺の放火に関しては、三島由紀夫の『金閣寺』よりも水上勉の『金閣炎上』を読むべし、と書いてあったので、遅ればせながらエジプトからの帰国後に読了。 本書は、金閣炎上に至るその要因もとても興味深いのですが、むしろ、昭和初期から戦後にかけての京都の寺院や丹波地方の社

「京都の風土」院政と神仏習合の熊野詣

天皇家が「院政」という形で政治権力を藤原摂関家から奪還したのは平安後期。この時代の痕跡は、なんといっても神仏習合の象徴「熊野権現」を祀った熊野三山と修験の世界です。 170年ぶりに藤原氏を外戚としない後三条天皇が即位して以降、藤原氏の影響力が衰えて権力が再び天皇家に戻ります。そして白河上皇より院政政治が始まります。 ⒈熊野三山検校職「増誉」この院政時代、日本古来の宗教「修験」と深く結びついた天台密教は、天台宗寺門派の円珍門下が熊野三山検校職(京都における熊野三山の統括職)

「京都の風土」西芳寺(苔寺)の二面性とは

▪️はじめにこの数ヶ月京都の風土を勉強してきましたが、そんな中で知ったのが夢窓疎石(夢窓国師)といいう鎌倉から室町時代にかけて活躍したお坊さん。 すでに夢窓に関する紹介もしましたが、 以下実際に夢窓が作庭したという庭園をみるべく、事前予約して西芳寺へお伺いしたのですが、結局その庭はみることはできませんでした。 実は西芳寺には、これまで私が勉強した「夢窓疎石の私寺」としての側面を持つ一方、「苔寺と呼ばれる観光寺」としての側面もある、というわけです。 もちろんお寺側には

「京都の風土」金戒光明寺にて「会津」の悲哀を想う

今でも会津の人たちは、長州藩に対して特別な想いをもっていると言います。 今回、金戒光明寺をお参りし、会津藩墓地を訪れてみて、思わず涙が溢れてしまうのを止められませんでした。 世の中の善悪は、立場によって変わるとはいえ、頑なに忠義を守った松平容保と、容保に従った会津の人たちの悲劇に、感情がこんなに揺らいでしまう自分に戸惑うばかりでした。 だからと言って、日本の近代化によって多くの人たちの幸福をもたらした薩長閥に対して批判的にはなれません。ただ、その時代の変革の中で起きた会

「京都の風土」天龍寺・苔寺の禅僧:夢窓疎石の思想

夢窓疎石著『夢中問答』の解説本『夢中問答入門』を手掛かりに夢窓疎石の思想を探ります。 <『夢中問答入門』の概要>京都の天龍寺や西芳寺(苔寺)などの庭を作庭した禅の名僧「夢窓疎石(1275-1351)」の『夢中問答』の神髄について、分かりやすく解説した臨済宗の住職にして宗教学者「西村恵信」の講演録。 <コメント>『夢中問答』とは、京都嵐山にある臨済宗の禅寺「天龍寺」にて臨済宗の禅僧、夢想疎石(以下、著者表現の夢窓国師)が、室町幕府の初代将軍足利尊氏(1305-1358)の弟

「京都の風土」平安京をつくった和気清麻呂

来月10月から京都をフィールドワークするにあたって、哲学者 梅原猛の『京都発見』全9巻を通読中。 これが実に面白いので今後、それぞれのテーマごとに紹介したいと思いますが、まずは和気清麻呂について。 ⒈京都遷都の立役者実は京都がなぜ都になったかというと、和気清麻呂が桓武天皇にこの地(当時は葛野の地)をすすめたから。 『日本後期』によれば、長岡京新都が10年たっても、まだ建設に至らず、費用だけが莫大になってしまいました。 清麻呂は、桓武天皇を遊猟にお誘いし、葛野の地にお連

『西国巡礼の寺』五来重著  読了

<概要>西国三十三所巡礼の主要な霊場を紹介しつつ、著者五来重の宗教民俗学的視点からの霊場への独自かつ新たな解釈を見出した著作。 <コメント>10月に京都府をフィールドワークするにあたり、お寺に関する情報を深掘りするため、敬愛する宗教民俗学者、五来重による本書『西国三十三所の寺」を通読。  ▪️西国三十三所巡礼とは上のホームページによれば、718年、奈良にある長谷寺の開山徳道上人が仮死状態の時に、閻魔大王が現れて世の中の悩み苦しむ人々を救うために三十三の観音霊場を開き、観音

『昭和23年 冬の暗号』猪瀬直樹著 読了

<概要>5月3日憲法記念日=東京裁判開廷日、4月29日昭和天皇誕生日=東京裁判起訴日、12月23日平成天皇誕生日=東條英機処刑日など、日本人に敗戦の記憶を呼び起こす日を刻印した、というアメリカ日本戦後処理のプロセスを克明に記録した著作。 <コメント>一応小説仕立てにしてありますが、ほぼノンフィクションといってもいいと思います。著者の『昭和16年夏の敗戦』が太平洋戦争に至るプロセスを描いたとすれば、 本書『昭和23年 冬の暗号』は、太平洋戦争を終結→処理に至るプロセスを描

「京都の風土」京都は、なぜ空襲を免れたのか?

10月からの京都フィールドワークのため『京都府の歴史』を通読。 この中で「なぜ京都は空襲されなかったのか?」については、京都は原爆投下目標の候補だったから、との驚きの記述を発見。 自分自身も親から聞いて「京都は文化財が豊富な歴史的都市だから空襲されなかった」としか思っていなかったのですが『京都府の歴史』によれば「そうではなかった」と書いてあったので、そのネタ元となる著作『日本の古都はなぜ空襲を免れたのか』を読んでみたら、本当に違っていたのですね。 しかも一般に流布して