『残り物には懺悔がある』 476字
先日の事。
久方ぶりに仲間と会う機会があった。
折角だからと夕飯も食べる事に。
さて何にしようかとなり・・・
「それはちょっとマズいのでは」と懸念する者もいたが、
「なあに、火を通すから問題ないさ」
と尤もらしい理屈をこねて、いざ焼肉店へ。
肉の旨いこと旨いこと。
みな我先にとガッつく。
だが、そろそろお開きにしようかというタイミングで、
「その時」は、唐突にやってきた。
分厚いハラミが一枚。
網のど真ん中に、取り残されて鎮座している。
「おい、残り物には福ありだ。誰か食べなよ」
「いや、君が」
突如始まる謎の遠慮。
誰も手を出さぬまま焼き上がっていくハラミ。
そうこうするうちに、ハラミはヤバい臭いがし始め、遂に黒こげに。
(ああ・・・勿体無い)
一同、心中で嘆息する。
結局、誰一人、このハラミを成仏させてやる勇気は無かったのだ。
仕方がない。ここは日本だ。
空気が読めてこそナンボだ。読めない奴はハブられる。
「なあ・・・次回は居酒屋にしようや」
「・・・だな」
許せ、残り物のハラミよ。
僕らは何やら申し訳ないような微妙な心持ちのまま帰路についた。
残り物には福もあれば、時に懺悔もあるのだ。
<了>
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