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子供のころ出会ったものに救われる

うちの人気のお酒に「自家製フレーバーウォッカ ー夏みかんー 」がある。

夏みかんの皮をウォッカに漬け込んで作る。(上記写真参照)

これをトニックウォーターと炭酸の半々で割った、通称「夏みかんソニック」は、うちの一番人気のカクテルだ。


今年も「夏みかん」を漬け込む季節がやってきた。

「夏みかん」でしょ??夏じゃないの??

と思われるかもしれない。


そう、この「夏みかんウォッカ」は、夏ではなく冬の「夏みかん」で作る。


「夏みかん」といっても、やはり柑橘類。皮の橙色が美しく、そして適度な皮の苦味があるのは、ちょうど今ぐらいの季節、そう、冬なのだ。


毎年この季節がやって来ると、丸1日かけて一年分の量を漬け込む。


だいたい美味しく飲めるのは半年くらい後。


それまでどうぞお楽しみに。(今は昨年の分をお出ししてます。)


ところで、この「夏みかんウォッカ」。

開店したばかりの頃はまだなかった。


オープンして間もないころ、知り合いに

「酒の品揃えに、オリジナリティがない。」と言われた。


「そこで勝負してる訳じゃないんだけど・・。独自性って言ったって、高い酒買ってきて、置いてあるだけでしょ。もっと親しみのあるお酒を気軽に飲んでもらえる店にしたいんだけどな。」

などという反発心もあったが、

「それでは、何で勝負してるの?」といわれると、返す言葉がなかった。


お客の要望はストレートだ。


こちらの「言い訳」など、聞くに値しない。


何か「ウリ」を探す必要があった。


さて、どうするか


珍しい酒を探してきて置くだけ、というのはどうも性に合わない。

一杯のカクテルを時間をかけて丹念に作る、というのもどうか。
(あまりにも手間のかかりすぎるカクテルは、一人でやっているうちの店では現実的ではない。作っている最中に、オーダーが入り、ピッザが焼きあがり、CDが終わり、そして電話が鳴るのだ。)



そんなとき、ふと、以前ニューヨークへ行った時に、とある BAR で、スピリッツにレモングラスを漬け込んだものを出していたのを思い出した。他の店が趣向を凝らしたカクテルに躍起になっているなか、ただ漬け込んだだけ(だが、明らかに「漬け込む」という時間を味方につけている)のものを、しれっと出している様が異常にクールに見えた。


あれだ。


今でこそ、フレーバーを付けた自家製の「漬け酒」はすっかり浸透して来ていて、なかには独自のハーブの配合を取り入れたオリジナル薬草酒などを作っているBARもあったりするが、話は20年前の事である。(一部、新宿あたりで珈琲豆を漬け込んだ焼酎などが見られたくらいだったように思う。)


さて、それでは何を漬け込むか。


色々試した。

・ブルーベリー
・ラズベリー
・カシス
・レッドカーラント
・ブラックチェリー
・花梨
・生姜
・胡桃
・アロエ   、....etc .

うーん。どうもどれも今ひとつ。


ある日、開店以来仕事に忙殺されて、なかなか帰れなかった実家に戻ると、お袋が近所の庭に生っている「夏みかん」を分けてもらって、自家製の「夏みかんピール」を作っていた。


これだ。


僕が子供の頃は、道端に普通に落ちていて、それをボール代わりに野球をやっていたものだ。「夏みかん」など酸っぱすぎて、誰も食べないのだ。


誰も目をやらないものに、価値を見出す。


うん。うちっぽくていい。


早速、比較的癖のない「ウォッカ」を取り寄せて漬けてみる。


苦い。でも、それが美味しい。


もちろん市販のリキュールにもオレンジピールを漬け込んだものがあるが、どうしても最後に糖分を添加してしまうので、甘さが強すぎる嫌いがある。


これには一切砂糖は添加しない。


足したければ、甘みのあるトニックウォーターを後から足せばいい。それでは甘すぎるというなら、無味無臭の炭酸と半々で割ればよい。


「夏みかんソニック」の完成である。(「ソニック」は造語で、トニックウォーターとソーダ(炭酸)の半々で割ることを意味する。)

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売れた。


よく売れた。


店主の出身の「湘南の夏みかん」というのが、また売り込みやすかった。


一杯作るのに時間もかからない。


うちの看板商品になった。


前半期のうちの売り上げを支えてくれた商品になった。


子供の頃、散々酷い目に合わせた「夏みかん」に救われた気がした。


たまには「里帰り」もしてみるものだ。


ちなみに、最近は実家の近所も高齢化が進み、夏みかんの木を処分する家も増えてきたので、今は夏みかんの故郷「山口県萩市」から取り寄せるようにしている。(取り寄せ先のご主人曰く、全国で生っている「夏みかん」のほぼ全てが、この「萩市」の苗から派生したものだそうです。「鎌倉の方のは原種にかなり近い」とおっしゃっていたので、実家(藤沢)のものも、もしかしたらそうなのかもしれない。形がそっくりだ。)


「夏みかん」も里帰り。


最近、この騒動でもう随分と帰省していない方も多いかと思う。


たまには、メールだけではなく、電話などしてみてはいかがでしょう。


自分の「ルーツ」には、意外なヒントがあるかもしれません。



神保町へお越しの際は、是非お立ち寄りください。

ちなみに、お袋の作る「夏みかんピール」はお店でもお出ししています。

0206-727(ピール)のコピー

お持ち帰りもできます。

お待ちしております。


Hometown / nymano x pandrezz
Chillhop music
2018

(本文の最後に、お店でよくかける音楽を紹介しています。お家でお酒を飲まれる際に是非どうぞ。今度お店に聴きに来てくださいね。)

サポート頂いたお金は、お店でかける音源の購入に充てさせていただきます。