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【荒木淳一郎の「体験」のデザイン vol.4】リフレイン


めんどくさいけどなんかいい

年の暮れ、年賀状を準備するシーズンだ。だが世間では年賀状を書く人が減っている。年賀状だけでなく、離れて暮らす家族とのやりとり、ビジネスのお礼など、さまざまなシーンで郵便数は減少の一途をたどっている。全国の郵便ポストのうち、実に4分の1が1日平均の投函数が1枚程度だという。毎日ポストを回り、全国どこであっても原則数日以内に確実に届ける。そんなユニバーサルサービスとしての郵便事業が揺らいでいる。その理由は、インターネットやSNSの普及、各種請求書等のWEB化、企業の通信費や販促費の削減、個人間通信の減少等によるものだ。

確かに手紙を書く機会は減った。メールやLINEで済ませたほうが早いし、お金もかからない。でもやっぱり手紙ってもらうと嬉しいものだ。書くことはめんどくさいけど、その分想いを込めることができる体験である。手紙を書くためには、まず便箋を選ぶ。誰にどんな内容の手紙を書くのか。それによって選ぶ便箋や封筒も異なる。さて、文字を書く。一文字一文字間違えないように心を込めて。時々字を間違えたりインクが滲んだり。その都度、最初から書き直したり修正液の出番だったり。やっと書き終えると封筒に宛名を書く。相手の人が「どこに住んでいて、どんな暮らしをしているのか」を想像しながら。最後に切手を貼る。切手もいろんな種類があるから、自分のセンスが問われるかもと思いながら、季節や封筒のデザイン、手紙の内容によって切手を選ぶ。そしてさらに、めんどくさいんだけどポストに持っていく。歩きながら「これを読んだ相手はどんなことを考えるんだろうか」と想像しながら。そしてドキドキしながら投函する。「いつ頃着くかな。汚れないで配達してもらえるといいな」などと考えながら。
後日、「もう着いたかな」「読んでくれたかな」「どう思ったかな」などと考えながら返事を待つ。こう考えると、手紙ってやっぱりめんどくさい、めんどくさいんだけど、なんかいい。相手のことを想う時間が長いということは、それだけ自分との関係を見つめ直せる気がする。この時間は幸せな時間だ。自分に与えることができる『豊かな時間』という体験ギフトだ。

体験の可視化はアナログがいい

旅行に出かけてスマホで写真を撮る。簡単に記録もできるし、後で見返すこともできる。タイパ的にも高効率だ。でもやっぱり景色や感動は自分の目に焼き付けたい。思い出を写真で振り返るのもいい。だが、心に焼き付けるならば絵葉書はどうだろう。観光地で売られている綺麗な写真の絵葉書ではなく、エモーショナルな絵葉書を買い求め、その時に感じたことや発見を手書きの絵葉書で、時にはイラストを添えて友人や自分に送る。帰宅後に届いている自分宛ての絵葉書を見て、体験を想い重ねる。きっと、旅行の感動がリフレインして脳に再び焼き付けられるだろう。一枚の絵葉書は、体験の世界観に溶け込める具象として、体験を可視化し、いつまでも忘れ得ぬ体験の記憶の証となる。

デザインの可能性

情報が溢れ、どんな情報にも簡単にアクセスできる時代だからこそ、リアルな空間における「本物の体験」が人々の心を掴む。空間における「体験」をどのようにデザインすべきか。それを掘り下げたその先にこそ、人の心を深くゆさぶる感動や発見がある。「体験」のデザインは、その「トキ」その「場」を訪れる生活者の視点、店舗が伝えたい視点、そして両者の視点を踏まえた第三者の視点を行き来しながら、あるべき姿を目指すものだ。多くの人の共感を得て、意味を感じてもらえる空間づくりには、多角的な視点からのアプローチが重要である。人とヒト、人とモノ、人と企業、人と社会をつなぐ、そして未来につながるデザインの可能性を信じている。


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