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私より毛深い女性を見たことがない

子供の頃から、夏が来ると私の頭の中はムダ毛処理とプールを休む口実作りでパンパンだった。

温泉やプールに行く度に、他の人の体を観察してみたけど、40年生きていて私より毛深い女性をいまだかつて見たことがない。

自分の毛深さを自覚したのは小学校二、三年生の頃だったと思う。他の子より濃いすね毛がちょっと恥ずかしいと思い始めた。
四年生になってアンダーヘアが生えてくると、深刻度は一気に増す。
ただでさえ泳げないのにますますプールの授業が憂鬱になってきた。
プールから上がる際は必ずちょっと下を向いてはみ出てないか、さりげなく確認する。はみ出ていた場合は滑ったふりして、またいったん水の中に入り水着の端を伸ばしてたくし込む。

それだけでも神経つかうのに、わき毛が生えてきたらどうなるんだろう?
びくびくしていると五年生くらいになって生え始めた。プール開きが迫ってきて、この毛をどう処理すればいいのか悩んでいたら、母が私と双子の姉を洗面所に呼び出して、かみそりの使い方を教えてくれた。えっ、お母さん気づいてたんだ・・・なんだか気恥ずかしかったけど、とりあえずは助かったと思った。

こうしてなんとか前日にムダ毛処理を済ませてプールに臨んだものの、鏡を見て慌てふためく。なんと、もうすでにごましお状態で生えてきてしまっていた。
いつも元気に準備体操する私がこの時は腕をまともに上げられない。
こんな時に限って、厳しい先生がクロールが下手な生徒を集めて腕の動きを手取り足取り指導してくる。
「腕をもっとピーンと上に上げなさい!」力強く腕を引っ張り上げられて、私はごましお脇を披露せざるを得なくなった。
でも幸い誰も見ていなかったみたい。その日はなんとかやり過ごした。

しかし毎度毎度の、ごましお隠しとはみ毛チェックはすごく疲れる。プールを休む口実を考えるけど、風邪をひいてる、けがをしているは名演技が必要だし、生理は多用すると本当にきた時に二重に嘘をつかなくてはならない。
だからもう入るしかない。地道に隠し通すしかない。

「♪ギャランドゥー、ギャランドゥー♪」とテレビから聞こえてくる度。
「女でも胸毛生えてるヤツいるらしいぞ」と男子達が楽しげに話している時。
「おい、もう毛ぇ生えてるヤツいるか~」とお調子者がふざけてクラスメートに呼びかける時。
それ、私じゃんとギクッとなる。

海外の面白ビデオ特集で、毛深い男性が、背中一面に生えている毛を「Marry me」と剃ってプロポーズする映像を見れば、私にもあれできるわと思うし、教科書に載ってる類人猿を見れば、尾てい骨の辺りにしっぽの名残みたいな毛が密集している自分を重ねて、確かに人間はその昔猿だったんだろうなと思いをはせる。

夏が過ぎて、プールの時期が終われば少し安堵する。でも悲しみは終わらない。だって、こんな女子を好きになる人は果たしているのだろうか?

いる。ということに気づくのは十年以上後のことである。
その間中学、高校と恋愛への興味が増すのに比例して、毛に関する悩みもどんどん深くなっていったけど、様々な脱毛方法を試し、お金の限りを尽くし、それでもなおなくならない体毛に絶望していた20代半ば、そんな私でも好きだと言ってくれる人が出てきた。

この時はじめて、自分はコンプレックスに時間もお金も費やし過ぎていたのかなと気づく。私にとってはなにがなんでも隠し通さねばならない恥ずかしい秘密だったけど、案外他人は気にしていなかったのかも…

それに気づいてもなお、今年も私はムダ毛と葛藤している。
でも、10代20代の頃のような悲壮感は全くない。見苦しくない程度に処理しておかなきゃと思っているだけだ。
処理が追い付かない時には、もうばれてもいいやとすら思っている。
剃っても抜いてもまた元気に生えてきてしまう毛。
これが私の愛しき個性だから。

#夏の思い出

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千里
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