やっぱり青春っていい。
昨日は久しぶりに眠れなかった。
ここ数ヶ月はぐっすり眠れる日が続いていて、夜中目覚めることも少なかったのに。
原因は、考えてもどうしようもないことをぐるぐる考えてしまっていたからだろう。
自分や相手の過去の言葉、これから話すであろう予測できる未来の言葉。
それらにぐるぐる巻きにされて身動き取れない状態だった。考えてもどうにもならないのに、頭の中が全然おやすみモードになってくれない。
noteにそのモヤモヤを書いてもいいんだけど、今はそういう気分じゃない。
ので、読書感想文を書くことにする。
最近読んだ本のなかで特に良かったもの。
※あらすじや設定は書きますがオチには触れないように書きます。(出来るだけ)
数ヶ月前に1万円分の本を買ったなかのひとつ。
最初は読み進めるのに時間がかかったけど、後半は一気に読んだ。
内容は『青春』や『爽やか』などの表現が相応しいのかもしれないけど、それで終わらせてはもったいない気持ちもある。
ストーリーは、高校2年生の主人公(佐田誠)が生き別れになった叔父さんに会いに行くおはなし。
語り手は、修学旅行から帰ってきた主人公が思い出を記すために書いている文章、という設定。
高校生っぽいと言っていいものか、どこか斜めから物事を見ていて回りくどい言い方をしている部分も多い。
それももちろん、この主人公の性格や生い立ちからくるもので彼の置かれている立ち位置が言葉の端々から読み取れる。
そんな孤独さを持った主人公が、修学旅行の自由行動で「日野に行きたい」「ひとりで行く」と言い出した。
主人公(誠)の所属する3班は、彼が表現するには妙なメンバーらしい。
そんなメンバーが自由行動の行き先をどうするか話し合うところからストーリーが始まる。
ひとりひとりに持たされるGPSの問題や、1人で行動してバレないのか、バレたときには班全員の連帯責任になるのでは、、といういろんな制限が付いてまわる所が、学生の身分ではもどかしいところ。
でもそんなひとつひとつの課題を潜り抜けていく様が、何ともこちらをワクワクさせてくれる。
1人で行くと言っていた日野へは、いろいろあって男子メンバー(4人)全員で行くことになる。
全然乗り気じゃなかったメンツも行くと言い出して面白くなりそうな展開。
行くと言い出した彼も、自分から何かに巻き込まれにいくワクワクを抑えられなかったんじゃないかな。
この本を読み進める私の心境も、終始そんな感じだった。
普段つるむ事のない一時的な関係性だからだろうか。4人の会話は付かず離れずの淡々としたもので、それ故の心地良さを感じた。
むしろ、旅はこういうメンバーでの方が向いているのかもしれない。
普段仲が良くても、旅のトラブルで嫌気がさすなんてことはザラにある。
始めから何の期待もない相手だからこそ、思い通りに行かなくて当然という心持ちでいられる。
それでも途中、昼ご飯をどうするかで若干揉めたりもする。
それぞれの頑固さやワガママが露呈するも、この一時的なメンバーには亀裂が入るほどの下地がないからか、どこかカラッとしている。
✴︎
「自分が川で溺れているとしたら、一緒に溺れてやろうって人と助けてやろうって人、どっちに来て欲しい?」
作中の前半部分で、そんな会話が出てくる。
学校で何気なく交わされたやりとりだが、これに対する誠の返答に、班のメンバーは何か思うことがあったのだろうと、後半の展開で推測できる。
一人では成し得なかった、といえばありきたりな表現だけれど、後半のプランや行動力はやはりこのメンツだからこそのものだろう。
巻き込まれたからには、最後まで巻き込まれてやるぜ…!
という一種の連帯感みたいなものって、この年代にかかわらずときに生まれてくるものではないだろうか。
私はそう感じることがたまにある。
自分が発端ではなくても、何となくこのメンバーに身を委ねてみようとか、何となくこっちの選択の方が後悔しない気がするとか、理屈とか立派な理由はなくても引力のように引き寄せられるシチュエーションが。
✴︎
「溺れている人」にとって、選択の余地はない。
溺れている今が苦しいという現実だけでひとりではどうしようもない。
じゃあ「一緒に溺れてやろうって人」は?
きっと溺れている人の孤独を深く理解している人だ。
自分の無力さ故にそっち側に回るのかもしれない。
では「助けてくれる人」は?
単純にありがたい。勇気があって正しさを行動に移せる人だ。
この物語では登場人物それぞれのスタンスが描かれており展開していく。
その中でも、「一緒に溺れてやろうって人」がテーマの中心にあるような気がしている。
「一緒に溺れる」ってスタンスは、一番表面化しにくいものだ。
川に飛び込んだとしたら、それは一見助けに行っているようにも見える。
一方で一緒に溺れたいと思っても行動に移さない限り、そういうスタンスだとは気付かれない。
周りにとってはただの傍観者だ。
でも、この物語に出てくる「一緒に溺れる」スタンスの人物は、自分に降りかかるリスクや行動を移すことを恐れなかった。
だから、溺れさせないよう助ける側に付くと決意した人たちが、この2人に引き寄せられたんだろう。
そう考えると、「一緒に溺れる」スタンスは思っているだけでは何も得られないが、痛みや苦しみを味わう覚悟で行動に移して初めて、意味があるのかもしれない、と思った。
✴︎
出来るだけストーリーの核を踏まないように、抽象度をもって書いたつもり。
いろんな人に読んでもらいたいから。
この作品は芥川賞候補になっていたから、個人的にはストーリー展開は重要視していなかった。
芥川賞には、ストーリーより描き方や文章の緻密さなど表現力の方が評価されているイメージだから。
でも、この作品は表現力に加えて単純にストーリーも面白い。
読む人によって感動ポイントも違うかもしれない。
深く考察して、それぞれの関係性を探るでもいい。
たった一日の冒険譚として読むのもいい。
彼らの青春に触れる、でもいい。
彼らの行く末を、いろんな人に見届けて欲しい。
✴︎
いい本に出会ったとき、私が感じることは2パターン。
読んでよかったーという達成感。
or
読む前の自分に戻りたい、という切ない気持ち。
私にとってこの本は後者。
ドキドキワクワク感が高いほど、「今このとき」を登場人物たちと体験している感じがして、終わらせるのが名残惜しくなっちゃうんだ。
でもそれくらい、良い作品だということ。
最近個人的にモヤモヤすることが多かったけど、良い作品のことを書けて、前向きに9月を終えれそうで良かった。
10月以降も良い出会いがありますように。