サトシ・カナザワさんにとって進化心理学は週刊誌の「あるある」なのか?
0. 序
サトシ・カナザワ『進化心理学から考えるホモサピエンス』という本の書評をいたします.人種差別と男女差別の問題が絡んでいますので,慎重に議論いたします.まず第3章「進化がバービー人形をデザインした」について議論いたします.結論を初めに言います.バービー人形をデザインしたのはバービー人形のデザイナーです.
注意:サトシ・カナザワ氏の本を批判されるのが悲しい人は読む必要はありません.
1. ブロンド美女
金髪の女性は繁殖価(産める子の数)が高いそうです.初めて知りました…勉強になります.確実性の高い避妊の方法が確立されるずっと前から金髪の女性というのは存在したでしょうから,地球上は金髪の人類で溢れかえっているはずです.あれれ?おかしいですねぇ.繁殖価が高いのに金髪が多数になっていないのとすると,金髪は繁殖可能な年齢になる前に亡くなる確率が高いのか,もしくは金髪が遺伝しないということになります.
まあいいでしょう.いきなり奇妙な記述に出会いましたが,金髪は繁殖価が高いってことにしておきます.
15~16世紀のイタリアの女性が髪の毛をブロンドに染めていたので,その頃からブロンドはもてるらしいです.もう何を言っているのか分かりません.この文章の意味を理解している人はいるのでしょうか? そして500年前の頭髪の色をどうやって調査したのでしょうか?本当に科学の本ですか!? まさかX JAPANのhideの写真を見て「20世紀のホモサピエンスは赤い髪の毛が好きで,赤い髪の毛にするのはモテるためである!」などと言いだすのでしょうか? 結論も謎ですが金髪の女性の繁殖価も含めて調査方法が謎です(なお古代ローマ時代より頭髪をブロンドに染める風習はありました).
https://x.com/kodaigirisyano/status/1690875884398366720
2. 若さ
若い方が,繁殖価が高いので,ホモサピエンスのオスは若い女性を求めるようです.まず米国の高校・大学教員の離婚率は期待値よりも高いそうです.勉強になります.ええと…離婚率の期待値って何でしょう?
という疑問は置いておいて,話を前に進めます.これはご自身の研究のようですね.翻訳して引用しましょう.
ここで統計学の授業をする気はないのですが,p値>0.79というのは,ご本人のいう通り「統計学的に有意ではない」のです.なぜこの論文を典拠に,高校教員の離婚率を議論されるのでしょうか???「とにかく俺は高校教員は離婚しやすいと思い込んでいるのだ!」と言えば良いのです.
まあいいです.高校教員の離婚率は高いということでいいとしましょう.とにかくそうなのです.カナザワさんは,その原因を繁殖価の高い若い女性と接する機会が多いからだと断言します.
ええ!? この部分こそ重回帰分析をしなくてならない部分です.職業に関係なく,女性と接する時間を変数として重回帰分析の変数に採用するのです.なぜやらないのでしょうか?
3. 細いウエスト
女性のウエストとヒップの比率が0.7であることが,美しい女性の条件のようです.この仮説,かつてはもてはやされたのですが,現在そのまま信用する学者はいません.長くなるので長谷川寿一/長谷川眞理子『進化と人間行動』239~42頁をお読みください.
さらにカナザワ氏は断言します.
「排卵日の隠蔽」と呼ばれるホモサピエンス特有の現象を,都合の良いときだけお忘れになるようです.これは進化心理学の基本中の基本なのですが….
そんなに排卵日をアピールすることが繁殖に有利ならば,何十万年かすると排卵期になると頭の上に花が咲くような個体がでてくるかもしれない…とは思えませんよね.
4. 豊満な胸
豊満な胸は,年齢とともに垂れるため,若さのシグナルになると考えているようです.カナザワさんはブラジャーと呼ばれる補整下着を太古の昔から付けていたと考えているのでしょうか? 下川耿史『日本エロ写真史』(青弓社/1995年)という本をみれば分かるのですが,「豊満な胸」は若くても垂れます(以上!).きっと人類の進化したサバンナでは下着メーカーが商品開発を競っていたに違いありません.サトシさんは「人類最古の商売は売春である」と何の根拠もなく書かれていますが,きっと人類最古の商売はブラジャー屋さんです(嘘です)!!
年齢を判断しやすくするようなシグナルをあえて発達させるメリットが見えません.体の一部を派手にするには大変なコストがかかります.眉毛が必要なければ,眉毛を生やすコストは,他に用いられるのです.結果として自分を不利にするような部位に,コストをかけている時はもう少し複雑で慎重な説明が必要でしょう.
5. また金髪
サトシさんは黒髪に恨みがあるのか知りませんが,再び金髪の話しを始めます.緯度の高いエリアに定住した人々は,服で身を包むため若さを判定するには髪の毛をみるのが効率的で,そこで欧州では若さを判断しやすいように金髪に進化したのだと言います.オーストラリアの先住民アボリジニの中には普通に金髪がみられます.あれれ? おかしいですね.アボリジニは厚着しませんよ.
6. 青い目
青い目の方が,瞳孔の収縮が分かりやすく,瞳孔の収縮は好き嫌いのサインなので青い目がモテるそうです.つまり何十万,何百万年かすると,好きな人が目の前にくると額に「肉」という文字がかすかに現れる個体が出現するかも…しれません.便利ですよね!これで告白に悩む思春期の学生さんはいなくなりますね.
冗談はここまでとし,目の色に個体差,人種差がある理由はジャレド・ダイアモンド『人間はどこまでチンパンジーか』161~78頁をご覧ください.人種間の身体的特徴の違いに関して,安易な説明は厳に慎まなければなりません!
7. 左右対称の顔
左右対称の顔がモテるようです.これもかつて流行った仮説です.たしか左右対称な顔は感染症に強いのだそうです.反論は次の写真は見てください.フリー素材の顔写真をトリミングして無理矢理左右対称な顔を作りました.どちらが魅力的ですか?
8. まとめ
結論です.進化心理学を学びたい人は,長谷川寿一先生と長谷川眞理子先生の書いた本を読みましょう!