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【 前編 】新三郎商店株式会社 代表 平川秀一さん。持続可能な塩づくりに挑む。

福岡県といえば、博多ラーメン。博多ラーメンといえば、白濁した豚骨スープに極細のストレート麺を合わせた日本を代表する豚骨ラーメン。そんなイメージが根強い中、福岡県糸島市に、昔ながらの製法でつくる手づくりの塩「またいちの塩」を使った「おしのちいたま 塩そば」がオープン! 代表の平川秀一さんにお話を伺いました。

【 手書きの暖簾の文字にほっこりするエントランス】

―塩づくりをはじめられたきっかけは?

元は料理人だったので、毎日飽きるほど塩を使っていて、塩に対する興味もずっとあったし、料理にとって塩がすごく大事だということも痛感してきました。21年前に、専売だった塩の販売が自由化され、九州の天草で塩づくりをしている方がいると聞き、見学させてもらいに行ったんです。あぁこんな風に作っているのか〜と塩づくりの工程を一通り見せてもらってから、そこの塩を買って帰り、料理を作って食べました。やっぱり味の違いっていうのがすごく大きかったんですよね。ほんとうに美味しくて。

自分もこんな美味しい塩をつくって使いたいし、届けたい。

ご縁があって、今の製塩所「工房とったん」の場所、塩づくりに最高に適していると思える土地を借りられることができ、自分でも塩づくりをはじめました。最初の年はずっと一人でした。ぜんぜん売れなくて。
夜は飲食店で働き、昼は塩をつくる日々でしたが、ぜんぜん辛くはなかったです。料理をやってきたおかげで食いっぱぐれないですみました。
塩づくりは、一から十まですべてが手作業。1ヶ月近くかけて、海水1リットルから採れるのはわずか1グラムほど。愛情と手間をたっぷりかけてつくった思い入れのある塩を、使ってほしい人にだけ届けたいという気持ちも強く、売り先は慎重に選びました。
そのうち、ミシュランガイドで「星」の付く東京のレストランから声がかかるようになり、福岡の食品の質に妥協しないスーパーでも取り扱っていただけるように。工房を作ってから、10年経っていました。

【 製塩所 工房とったん 】


―21年間で海は変わりましたか?

どんどん変わっています。僕が「工房とったん」の場所へ来た頃は、ひじきが豊富に実ってて、ワカメとかホンダワラとかいろんな海藻がたくさん採れる場所だったんです。アワビとかサザエとかも夏は潜って採れた。それが年々、磯焼け(*)という問題で海藻がどんどん減って、採れなくなってきている。漁業にも影響が出ています。原因の一つとして、ウニに身があんまり入っていないから漁師さんたちが採らない。採ってもお金にならないから。ウニが増えて海藻類を食べちゃうんです。海藻が減って、また生き物が減っちゃう。負の連鎖を起こしてるんです。
そんな中で、僕らにできることはないだろうかといつも考えています。ここ一年くらい、身が入ってないウニを採って研究しています。採ったウニを養殖してお客さんに売れるくらいの身の量が入った状態で提供できないか。食害となるウニが減っていくことで海の循環がよくなればいいなと考え、近くの大学に相談しながら、実験を重ねているところです。

* 磯焼け:海藻が繁茂し藻場を形成している沿岸海域で、海藻が著しく減少・消失し、繁茂しなくなる現象。

―海の清掃活動もされていらっしゃるのですか?

塩づくりのためにあの場所から海水を組み上げてるということもあるので、海にできるだけ良い状態でいてほしいなという気持ちがあります。ほんとうに大がかりな清掃をするのは月1回程度なんですけども、その時にプラスチックゴミのあまりの多さにびっくりしてしまうんです。
ですので、プラスチックを使ったモノを店でもできるだけ使わないよう努めています。
うちはプリンがけっこう売れているんですけども、昔はプラスチックのスプーンを使っていました。プラスチックのスプーンは、とても安価で、軽くて扱いやすいです。でもこのスプーンがこのまま海に落ちて結局自分たちの首を絞めることになるのであれば、思い切って変えようと決意し、昨年から木の匙に変えました。そうすることで、プラスチックの量でいうと年間何十万本も使っていたものが、ゼロになる。スプーン1本1本の個包装のビニール袋もなくすことができました。 
今月から、塩のパッケージもビニール袋から紙のパッケージになったことで、90%ほどのプラスチックを減らすことができたので、さらに脱プラスチックを推進していきたいと思っています。

【 新三郎商店のプリン売り場にある手書きの『脱プラ』ポスター 】


―紙のパッケージにするといってもいろいろ選択肢があると思うのですが、アイスクリームのパッケージのような形状になった経緯を教えてください

塩なので一番は湿気ないこと、且つ使いやすくて、ある種リターナブルなものが望ましいんですよね。牛乳パックと同じで再生可能な素材というところも選んだ理由の一つなんですけども、そこに至るまでの経緯はいろいろとありました。

生分解性のビニールっていうのも考えたんですが、やっぱり自然に還る素材であるが故に長期保存が効かないとか、紫外線によってパリパリになっちゃうとか課題があって…。

あと竹の素材も試しましたね。木の素材ももちろん考えたんですけど、そうするとどんどん包材が高くなってしまって。ちょっと頭を冷やそうって思った時に、アイスクリームのカップに出会ったんです。JR筑前前原駅の近くにある友人のアイスクリーム屋でアイスクリームを食べてた時に「待てよ、これ紙だ!」と。そこからこれを塩のパッケージにできないかと考え、かなり試行錯誤しました。ロットの壁がなかなか手強くて、何とかクリアできる所を探して…。

2年ぐらいかかってやっと、今のところで作っていただけるようになって、11月の頭からパッケージを切り替えたんです。やっと実現できて嬉しいが、包材を変えることで、コストは大幅に上がってしまった。プリンのスプーンをプラスチックから木に変えたことで、一本あたりのコストは6倍、塩のカップはビニールより8倍ものコストがかかってしまう。塩の方は、一部の商品の価格を少しだけ調整しました。しかし、プリンの方は変えていません。これがきっかけになって、塩をつくってる業界の人たちも、パッケージについて真剣に考えていただけるといいなと思います。

【 新三郎商店に並ぶ新パッケージの「またいちの塩」。青が炊塩で赤が焼塩 】

―またいちの塩の、「またいち」と言うのはお父様のお名前だそうですね。味覚というものは親からの影響を受けるものだからとのことですが、ご両親に感謝していることはありますか?

親父は、高校生まで、佐賀と福岡の県境あたり、山付きの場所で育ちました。親父の兄弟も農家だったりするので、叔父叔母が作ったものだったり、山で採れるもの、いわゆる「本物の味」というものを知っていて、それを食べさせてもらうことができた。ただその辺で買ったものを食べるのが日常ではなく、ちゃんと手間をかけたものを食べる、その味の違いに気づくことができるということが、僕が親からもらった一番の財産じゃないかなと思います。『本当の意味での食べ物』というのを教えてもらった。それが故に、塩の良し悪しとか、ああしたら良くなる、こうしたら良くなるみたいな舌の感覚ももらえているわけです。

僕も子どもに「美味しいよ」って言いながら食べ物をあげるんですよ。美味しいという刷り込みに近い状態なんですけども、子どもは、これが美味しいもんだって記憶しながら育っていくんです。子育てを経験する中で、自分も親に感謝する気持ちが強く出てきました。味覚が家族間で似てるっていうのも、やっぱりそうなっちゃうかなあって思います。

―お母様の手料理で子供の頃好きだったおかずはありますか?

そうですね。わりと上手に手を抜く人だったんですよね(笑)。でも味噌汁とかはきちんと出汁をひいて。九州なんでいりこの味噌汁なんですけど、いりこの出汁の取り方とかも確かに教わった覚えがあります。でも何が美味しかったかあんまり思い出せないな〜。

僕は結構早くから料理をしてたんですよね。小学校二年生の時に、卵焼きが巻きたくて。なぜか卵焼きのアレンジがものすごくしたくて!その時、僕が卵焼きに入れたかったのは、ねぎとじゃことチーズなんですよ。母には、具の入ってない普通の卵焼きしか作ってもらえないから自分でつくってた。卵焼きにはちょっと執着があるかもしれません。

卵焼きをきっかけにいろんな料理をするようになり、中学の時には五目を作るようになったんですよね。鶏とれんこんとごぼうと大豆と昆布とこんにゃくとかを入れたものになぜかすごくハマッて(笑)

→後編につづく



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おしのちいたま 塩そば
福岡県糸島市前原西1-6-22
092-330-8732(代表)
営業時間 11:00~17:00(オーダーストップ16:30)
木曜定休
https://mataichi.info/oshinochiitama/
https://www.instagram.com/mataichinoshio/
※ご予約はお受けしておらず、来店順のご案内となります。
他店舗についてはこちら
https://mataichi.info/
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写真と文:山本 加容
*製塩所 工房とったんの写真はお借りしています。

※この記事は2022年2月にグレイスカイプロジェクトHPに記載された記事です。


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