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『ブランディング・プロダクト』の重要性

グランドデザイン代表の西です。下の図は電通マクロミルインサイトが発表しているマーケティングとブランディングの役割を整理した図です。見つけた時は便利だと思い何度か仕事で使わせて貰いました。
しかしこの図を元に話していると、どうしたものか?しっくりこないポイントがあって、その違和感を考えるうち、ふと、膝を打つ発見をしました。
今日はその発見に至った流れと、発見そのものについてまとめたい。ご意見いただければ幸いです。

マーケティングとブランディングの役割を整理するには便利

電通マクロミル発行

まず、上の図をじっくり読んでください。
読みましたか?つまり、マーケティングは『消費者に購買行動を喚起する』ことが目的なのに対し、ブランディングは『消費者との良好な関係作り』という異なるゴールを持ちます。ここまでは良いですよね?
このことから、マーケティングは短期的な成果を目指すもの、長期的な成果を目指すのがブランディングという性質の違いとして堀く認知されています。抽象的な話は置いておいて、具体的に3つのケースから考えてましょう。

【認知が足りないブランド】の場合

認知が十分でないブランドにおいてのブランディング課題は、ほぼブランド認知獲得という『量』が喫緊の課題です。
どのブランドもまずはいろんな人に知られる必要がある。認知の『質』向上にお金を投資する余力はない。
この『認知の量』を課題としてあげたときに、お客様に好かれそうないい感じの1分動画を作ってSNSにあげても、大した反応もないまま、ブランドのWEBサイトのトップ動画として飾られて終わります。
そんなことよりは、マーケティングにおける『顧客ニーズ』に焦点を当てたヒット商品を作り、知られていくことに立ち帰るはずだ。

【ある程度認知のあるブランド】の場合

認知がある程度獲得できている中堅企業の場合はどうだろうか?地方にあるB2B企業に多いかもしれません。仮に知名度はある程度あっても、無色透明。一応知ってるが、特別なブランドイメージがないに等しいという企業があるとします。
この企業がブランディングとして自社の目指す『パーパス』や『ビジョン』を作成し、数億円払ってCMを流したとします。果たしてこのCMは顧客の意識の中でどんな仕事をするのだろう?その会社の目指す内容に共感するお客さんがいるだろうか?
それがどんな内容であろうと、僕はそれはないと断言できる。こういった企業の場合もやはり、その予算を使って『顧客ニーズ』に焦点を当てヒット商品を作り、認知の『量』をいまよりも増やし、外部に新しい『認知質』を獲得するのが得策だと思います。

【認知されているブランド】
ここに来てようやくブランディングに投資するゆとりが生まれます。商品ごと、サービスごとに行なっている様々なコミュニケーションを如何に統合し、1+1を3以上に出来るコンセプトは何か?どんなCMをやろうか?という発想になります。

果たしてブランディングとは、そんなに広告代理店に都合のいいものなのか、知名度のない会社は如何にして大きくなって行くのか、ブランディングの焦点となる『消費者との良好な関係作り』は大手企業だけのものなのか、という疑問さえ生まれる。


商品開発には、「技術的」「マーケティング的」「ブランディング的」などのアプローチがある


デジタル系企業がサービス開発する時、新しいテクノロジーで課題を解決を目指すのが定石だ。この数十年こういった開発方法が世界を牽引してきた。そして今はこの分野は猫も杓子もA.I.が席巻している。
(この辺り改めて書きたい)

ただAIを駆使してサービスを作れるデジタル系企業は一握りしかない。その他の企業の商品開発にも技術が関与はするが、デジタル系ほどの早い進歩はない。そうなると現在市場のニーズを炙り出し、既存商品をマッピングし、そこから想定できる商品開発することが王道、ということになる。

商品開発には少なくない費用がかかる訳で、その費用を出すためのエビデンスも、調査から導き出した市場規模で投資規模も算出しやすい。最もリスクが少なくほとんど企業がこのように新商品を開発しているのではないか?

話は変わるが、Appleはマーケティングしないという話がある。本当だろうか?Appleの(特に初期は)マーケティングしない代わりに『まだ世の中にないニーズ』を掘り起こすことに投資をしていたのではないか?

一般的なマーケティングが『顕在化したニーズ』しか扱わないのであれば、『まだ世の中にないニーズの発見』はブランディングの仕事だ、というなら納得もいく。

仮に『顕在化したニーズ』に応えた商品開発がマーケティングならば、『まだ顕在化しないニーズ』を発見することがブランディングの仕事と位置付けてみよう。

こうするとボクは、目の前の霧が晴れる。『顕在化しないニーズの発掘』とはすなわちドラッガーの言う『顧客の創造』だ。こういった商品開発は、上記すべてのレイヤーの企業にとって重要なのではないかとボクは考えている。

いやむしろ、中小企業にこそ重要なブランディングとも言える。ただ一つ課題が残るのは、「まだ顕在化しないニーズ」をベースにした商品開発は、うまくいく確証が低い。いわば投資だ。

だから取り組む企業は少ない。しかしボクはこれを『ブランディング・プロダクト』と呼ぶことにした。弊社が手がけた事例で具体的に説明する。

『ブランドそのものが好き』は最強。どうすればそれが可能になるか?


DAISOが始めた『Standard Products』のCMを見たことある人はいないだろう。なのになぜ一定のブランド認知を獲得出来ているのか?ボクはそれは『顕在化していなかったニーズを発見し、実現した』からだと思っている。

ワンコインショップは現在もDAISOの一人勝ちだ。ただ彼らの商品の中には100円で十分なものもあるが、販売価格を低く抑えるために品質に物足りなさを感じるものもある。そこで生まれたのが300円ショップだ。3CoinsやSeriaではDAISOと差別化するために、『ちょっといい感じのデザイン』をすることになる。これが功を奏しDAISOとの差別化に成功し市場も作った。(ようにボクには見えている)

しかし僕らはその『デザイン』は本当に必要か?と考えた。
日用品の寿命を5年とすると、DAISOが300円で開発している商品には充分な耐久性があるとボクは感じた。大事にすれば5年以上使えそうだ。そんなに使えるものならば、変なデザインはいらない。至って普通(Standard)に、そのモノらしく美しければいい。(実はそこ方がデザインは難しい)出来うるなら、至って普通の品質を上げ続けることに注力して欲しい。それはみんな喜ぶのではないか。ボクはそうなるとすごく嬉しい。

日用品は『むしろその方がいい』ことにボクらは気づいた。海外展開も見据えて、日本の伝統産業の素晴らしさを伝えるブランドになるとさらに良い。DAISO自体、国内では旅行客に注目されているし、伝統産業の素晴らしさを伝えることは日本を応援することにも繋がる。それはみんなにも応援してもらえるのではないか?

そしてこの、みんなにとって嬉しい『人格』は100円ショップを立ち上げたDAISOのらしさを強化することにも繋がるのではないか。
広告しない企業にもちゃんとブランディングできている会社はある。いやむしろ広告してないのにブランド力のある会社はボクらに「これでいいんだ、この方がいいんだ」と初めて気づかせてくれた企業ではないか。
誰も気づかなかった場所に立ち、旗を立て、『こっちの方がいいんじゃないか』と声をあげる。
その声に集まってくれたお客様と企業が初めて『良好な関係』を作るのではないか、と思うのだ。


ブランディングの「焦点」と「手段」を書き変える


以下の表の焦点と手段に着目して欲しい。ブランディングとは「広告表現によってなされるものだ」という暗喩が含まれてないか?「良い顧客心理を形成する」ことに焦点を当て、「良いファン心理を形成する」というのは、大事なHOWをぼかしている。もちろん広告はひとつの手段だ。ただそれができる企業は限られていることは、この整理を行なった電通やマクロミルならご存知のはずだ。

電通マクロミル版「マーケティングとブランディングの違い」
Grand Design版「マーケティングとブランディングの違い」

そもそもこの表を見る限り「どんな商品やサービスを作るのか」がブランディングにおいても、マーケティングにおいても関与していないのは不思議ではないか。商品開発は大手であろうと中小企業であろうと、企業活動において最も重要なもののはずだ。

ブランディングでは、消費者との良好な関係作りを重視し、顕在化しないニーズ(問題)に焦点を当て、商品を開発する。その商品によって生まれたニーズにマーケティングが焦点を当て、さらなる商品理解を促進し、消費行動を喚起する。このようにブランディングとマーケティングの仕事を整理すると、スッキリするのではないかと考えました。
ボクは今日からこの書き換えた図で仕事をするようにします。

皆さんのご意見を頂ければと思います。
ブランディングやデザインに関するご相談は以下からお願いいたします。

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